どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

192

「もぅっ、ほんと迷惑ですっ、きぃ君もそう思うですよね?」
「えっ、あっ、はいっ、そっそそっ、そう思うですます」

メェはヴァームの事を話してる。
普通に「そうだな」と言えば良いのに、鬼騎はおどおどしてる、メェに背を向け仁王立ち、目線は斜め上で声は上ずっている。

これはラキュに弄られるのは無理も無いかもしれない。

「そのせいでメェは朝早くに叩き起こされたです、酷いです!」
「あっはい、その、はい、そうですね、あははは」

メェは、とんっ! とカウンターを叩いて、ぷんぷん怒る。
そうか、叩き起こされたのか、それは災難だな。
今頃、アヤネとロアも叩き起こされてるんだろうなぁ。

「あぁぁっ、イライラするです! きぃ君っ、後で筋肉触らせてです」
「えっ、あっ、そのっ、あのっ、えとっ……」

背を向けたまま困惑し、なぜか包丁を握る。
あぁ、まだ料理の途中だったな、と言うか、何故今のタイミングで包丁を握った? もしかして気持ちを落ち着かせる為か? それにしちゃぁ、やたら手が震えてる、そんなんじゃ手を切るぞ。

「相変わらずメェが側にいると、背中で語る男になるね、それ、格好良いと思ってるの?」

ラキュ、そんな事言うんじゃない! また喧嘩が始まるだろう。
と思ったが、同時に「背中で語るか、上手い事言ったな」と思ってしまった。

意味合いは違うが、今の状況が正にそれだもんな、鬼騎はまさしく背中で語ってる。

「あぁ? その台詞喧嘩売っとんのか?」
「売ったつもりなんだけど、分からなかった?」

って、呑気に思ってる場合じゃなかった! 喧嘩が勃発しそうじゃないか。

慌てて口を挟もうと、メェが、すっと立ち上がり向かいの厨房へと向かう。
どうやら鬼騎は気付いていない、喧嘩してるせいなのかラキュも気付かない。

俺以外誰も気付かずに鬼騎の背後に立ったメェは大きく息を吸い込む、そして。

「喧嘩はダメです!」

大声を出した。
その瞬間、鬼騎は小さく飛び上がり、バッ! と後ろを振り返る。
そしたらまた小さく飛び上がった、今度は「ぎょえぃっ」と変な声を上げて。

めちゃくちゃ驚いたのか、凄く汗をかいてる、慌てた様子で暫くメェを見た鬼騎は、また後ろを向いて仁王立ち。

それ、しないと落ち着いてられないのか? そんな考えが浮かんだ後、メェが次の動きを見せる。

「ラキュ君も喧嘩はめっですよっ」

ずびしっ、とラキュに指差し胸を張る、その時、豊満な胸がぷるんっと揺れたので俺は視線をずらす。
この時、けっして顔が紅くなってたりしない……ほんとだぞ?

「喧嘩じゃないよ、あんなの軽いじゃれつきだよ」
「メェから見れば立派な喧嘩ですっ!」

と、心の中で言い訳してたら言い合いが始まった。
ラキュは、面倒くさそうな顔をしてメェを見ている。

そしたらメェは、ラキュの所にやって来て、肩を掴み、ぶるんぶるん揺さぶる。
その時メェの胸が……いや、なんでもない。

「喧嘩っ、あれは立派な喧嘩です!」
「あぁもうっ、煩いなっ、分かったよ、喧嘩だよ、喧嘩してたよ、ごめんなさい!」

激しい揺さぶりに耐えきれなくなり、ラキュが折れた。
なんか、ぐずる弟を言い聞かせる姉の光景と重なってしまった。
メェがこんなに頼もしく見えるなんてな、普段はヤバイ薬を他人に試す迷惑なマッドな医者なのに。

「むっ、シルク君っ! 今迷惑な事、考えたですね?」

どきんっ……。
心の中を読まれた、だと? 思わず心臓が高鳴ったじゃないか、焦る俺は直ぐにこう答える。

「えっ、いや! 何も考えていないっ」
「ほんとですか?」
「ほっ本当だ」

ずいっ、と言い寄ってくるメェ、くっ……疑いの眼差しの精神的ダメージが凄い。

「ほんとのほんとですか?」
「ほっ本当の本当だ」
「嘘ついてないですか?」
「うっ嘘、つっついてないぞ」

くっ、本当はついてるから余計に精神的につらい。
と言うか、どんどん詰め寄ってくるから……そのっ顔が近い、あと胸も近い。

だから心臓が、ばっくんばっくん言ってる、こんなのメェは知ったことでは無いと思うがな。

って、そこの吸血鬼! 俺が精神的に苦しんでる時に、面白そうに、くすくす笑うな!

「シルク君!」
「はっはひ!」

あっ、やばい、急に呼ばれたから変な声が出た。

「なんで、真っ直ぐメェを見ないんです?」
「えっ……」

いっいや、だって、真っ直ぐ見たら……その、胸が……ねぇ?

「視線を反らすと言う事は嘘ついてるって事です?」

むぎゅっ、小さな手が俺の肩に乗る、なっなんか威圧を感じる。

「えっ、いや……その」

それは勘弁してくれ、そう言おうとしたのだが……。

「真っ直ぐ前を向くですよ!」

メェの言葉によって遮られ、両手で顔を持たれ、真っ直ぐ前を向かされる。
それ即ち、メェを真っ直ぐ見ると言う事になり……当然、胸の方も見てしまうと言う事になる。

だが、その時だった……俺の目線の隅にいた、ある男が動きを見せた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品