どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

191

ここはロア専用の食堂、食事をするのはここ。
今日もここで食事を取るのだが、さっそく2人はいつものやり取りをしている。

「だからさぁ、もっとガッ! といかないと相手に伝わらないの、分かってんの? この脳筋ヘタレ鬼」
「あぁ? いつもいつも言う事は同じだな、お前にいわれんでも頑張っとるわ!」

ピリピリした空気、カウンターを挟んで2人はにらみ合い、正直、肩身が狭い。

はぁ、食事しにここに入った途端これだからな……ほんと、2人は仲が悪いよな。

「そんか減らず叩いて無いで食いたいもん言えや!」
「トマトスパゲティ、トマトソース多め!」
「けっ、わぁったよ、すぐ作るから待っとけ!」

ぶっきらぼうに注文を取る鬼騎、それに応えるラキュ、仲が悪い、と思ったが案外そうでもないのか? でも、睨みあったままだしな……ふむ、訳が分からん。

「で? しぃ坊はどうすんだ?」

おっと、そんな事を考えていたら聞いてきたな。

「え? あ、えと……ラキュと同じものを頼む、ソースの量は普通、あとサラダも頼めるか?」
「おぉ、任せとけ」

少し取り乱しながらも注文を言う。
今日はパスタの気分、ラキュが丁度パスタを頼んで良かった。

俺とラキュの注文を取った後、鬼騎は料理を作り始める、いつみても凄い手際だ。

「あいつも固くならずにガンガン行けばいいのにね」

と、その時だ、ラキュががくっとテーブルに肘をついてため息を吐いた。

「誰の事を言ってるんだ?」
「脳筋鬼の事だよ」

あぁ、鬼騎の事か……と、いけない、失礼な事を思ってしまった、訂正訂正。

「奥手なのは良いんだけどさ、あいつの場合は度が過ぎてるんだよね」
「まぁ……そうだな」

鬼騎はメェの事が好きだ。
メェが側によってくれば、顔を真っ赤にして慌てて口ごもる。

メェの方は鬼騎の事が好きだからベタベタくっついてる風に見える。
あれだけアピールしてるのに鬼騎は慌てるばかり、これじゃぁ先にすすまない、ラキュはその事を言ってるんだろう、しかしあれだな……。

「と言うか、口では色々言ってるわりには気になるんだな」

俺は、くすりと笑って見せた、ラキュは首を傾げ目を細める、なのでこう言ってやった。

「鬼騎の恋愛の事だよ」
「……はい?」
「散々、脳筋とか、色々悪口言ってるけどさ……鬼騎には幸せになって欲しいって事か?」

俺の言葉を聞いたラキュは目を見開き俺に身を乗り出してくる、凄い必死だな、ちょっぴり面白いな。

「なっ、なに言ってるのかな? 違うからね? 別にあんな奴、どうなって良いんだからっ……たっただ」

おぉ、なんかツンデレっぽい事を言っているな、手をブンブン振ってるし、目なんかおよぎまくってる。
まるで、メェを前にした鬼騎みたいだ。

「ただ、なんだ?」
「苦手な奴であって、嫌いな奴でないから……その、失恋して欲しくないってだけだよ」

俺から目線を反らし顔を真っ赤にする。
これ、ロアがいたら盛大にからかわれてただろうな。
だって、普段と比べて今のラキュの表情は面白いからな、こんなのロアが放っておく訳がない。
俺も放っておきたくないんだが、あえて放っておこう、下手に突っ掛かると倍にして返されるからな、何事も適度な対応が大切だ。

「なるほど……意外だな、ちゃんと友達として見てるんだな」
「は? もしかしてあの脳筋の事言ってる? 違うからね?」
「いや、まだ何も言ってないが?」
「……ふん」

あ、拗ねた。
面白い、そしてちょっぴりスカッとした、あのラキュをからかってやったぞ。

「人の事言ってないで、シルク君も姉上の事、早く何とかしてやりなよ」
「っ!」

少し気分が良いのも束の間、手痛い事を言われてしまった。
そうだ、ロアの事だ……俺は早く、ロアの事を解決しなければいけない。

深く頭の中で思った俺、ラキュは黙ったまま俺を見つめた後、またそっぽを向いてしまう。

そこから、無言の時間が始まった。
だが、そんな時間も直ぐに終わる事になる。

なぜなら、この部屋の扉が開いたからだ。

「おっじゃましますでぇすっ」

バタァァンッ!
豪快に開かれた扉、元気はつらつな声を聞いて、騒がしい奴が来た、俺とラキュは同時に思った。
やって来たのはぶかぶかの白衣を着たメェ、今日も、もこもこヘアーが似合っている。

その時だ、調理をしている鬼騎が顔を上げてメェを見る。
彼女は、まるで太陽の如くさんさんと笑っている。

この後、鬼騎が盛大に慌てふためいたのは言うまでもない。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品