どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「私にもまだチャンスがあるっぽい話」
「……え」

シルクと姉上の話をした、それなのにアヤネは微笑んで答えた。
もちろん姉上の事はきちんと話した、シルク君の事もきちんと……。

チャンス? 今の話を聞いて何処にチャンスがあると思ったのか? いや……シルク君はまだ姉上がナハトだと言う事に気付いていないからそれがチャンスになるのかな? いやでも……過去の2人は付き合いが短かったにせよ、一応は好き通しだった、それを話したのに、それでもアヤネは諦めていない。

「らっ君、私シルクの事が好きだから、その話を聞いても私は諦めない」
「凄いね……付け入る隙が無いくらいにシルク君と姉上は相思相愛なのに、まぁ……シルク君の方は色々あって気付いてないけどね」

僕の言葉を聞いて苦笑するアヤネ、そう……シルク君の好きな人は姉上、だけどシルク君はナハトが好き、姉上とは別人だと思っている。

こんなややこしい事になってるのは姉上がセカンドネームを使ったからだ。
本名とは違う名前、つまり偽名を使う吸血鬼の文化、正直いってややこしいの一言につきる文化だから今の吸血鬼達は使っていない。
最愛の人にだけ明かすと名前よりも「愛してる」の一言で伝える気持ちのこもった言葉の方がストレートに相手に伝わるからね。
それに気付くのに昔の吸血鬼達は何百年も掛かったらしいよ?
……と、そんな話はどうでもいいんだ。

「付け入る隙が無くても私はアタックする、だって私はまだ頑張れるから」
「くふふ……真剣な表情かおだね、アヤネが本気なのがひしひしと伝わってくるよ」

この前向きなのを姉上にも見習って欲しいくらいだよ。

「だから、らっくん応援して」
「あぁそれは無理、僕は姉上を応援する事に決めてるから」
「……はっきり言うんだね、ほんと、らっ君はイジワル」
「それ、僕にとっては誉め言葉だよ?」

その言葉を聞いたアヤネは舌をべぇーと出して睨んでくる。
その表情かおが面白くて笑ってしまった、くふふふっ、ほんと力も気持ちも強い女性だ、それでいて残念な行動も見せてくれる、本当に僕のタイプの人だよ。

「んう? なんで急に微笑むの?」
「なにさ、急に微笑んじゃダメなの?」
「そんな事ない、ただ少し気味が悪いだけ」
「なにそれ……酷くないかな?」
「らっ君はイジワルだからお互い様」

そんな会話を続けて、心の底から柔らかな笑いが込み上げてくる。

「ぷっ……くふふっ、くはははは!」
「ふふっ、あはははっ!」

そしたら耐えきれずにお互いに笑ってしまった。
良かった、やっとアヤネが笑ってくれた……一頻り笑った後、アヤネが優しく僕の頬に触れながら聞いてきた。

「らっくん……」
「なに? 急にそんな目付きして」

とても澄んだ瞳、そんな目で僕を見つめてくる、心が揺れるのが分かった。

「らっ君はイジワルな人なのに優しくしてくれるのはなんで?」
「ねぇ……何気に酷い事言ってない?」
「だって事実だもん、で? 何でなの? 答えて」

急にそんな事言われても困るんだけど、と言うか優しくしたつもりなんて無いんだけどね? 

「あっ……何の事言ってるか分かってない顔」
「え? 顔に出てたの?」
「ん、しっかり出てた」

むんっ、と偉そうに胸を張るアヤネ、偉そうにする意味が分からないけど……その仕草は可愛かった。

「えとね……」

ぷにっーー
アヤネに頬を摘ままれた、少し痛い。

「私がくーちゃんの所に謝りに行った時の事」
「ん? あぁ……あの時の事?」

僕はそう言ったらアヤネが、こくんと頷いた。
そう言えばあの時、僕がクータンの所に案内したんだよね。
城下町地下一階へ行くのは知ってる人じゃないと確実に迷うからね。

「あの時らっ君私と……」
「……っ! ちょっ! あっアヤネ、その話は!」

焦った、本当に焦った! だってアヤネの今話そうとしている事は……僕が人生で1番恥ずかしい思いをした一時の事だから。

「ストップ! 分かった、思い出した! 思い出したから話すのを止めてくれるかな?」
「……にやり」

え? にやりって呟く人初めて見た……って、そんな事思ってる場合じゃない!

「ねぇ……何を言うか分からないけど、いてててっこりぁ! ほっへたひっはるな!」
「さっきイジワルしたから話しちゃうね」

くっ……仕返しと言う訳か、僕は人を弄るのは好きだけど弄られるのや仕返しされたりするのは大嫌いだ。
だからイタズラっ娘の様にアヤネを睨み付ける。

「そんな顔してもやめてあげない」

ぺしっ! アヤネの手を叩く、そしたら手を離すアヤネ、キッ! と強く睨んで言ってやる。

「今止めたら笑って許してあげるけど?」
「今は、らっくんにイタズラしたい気分」
「そう……忠告はしたよ?」

思い切りデコピンをしてやろう、そう思った僕はアヤネに顔を近付ける、そしてアヤネはびくついた。

「っ……ちっ近い」
「離れて欲しいんなら黙るんだね」
「……うぅ」

口ごもるアヤネ、上目使いで僕を見る、あぁ……そんな目をされたら僕のイタズラ心が掻き立てるじゃないか。

だからアヤネに身体を近付けた、少しだけ、ほんの少しだけからかってやろう……そう思っての行動だった。

「っふぇ!? らっらっくん……」
「くふふふ……っ! わわっ!」

僕は手を地面につけた、そしたら、つるんっーー
滑ってしまった。
情けない声をあげて僕はアヤネを押し倒してしまった。
体制的には僕が上でアヤネが下だ、アヤネは顔が真っ赤、僕は数秒間固まってしう。

「あの、えと……ははは」
「らっ君……」

微妙な雰囲気が辺りに立ち込めた、アヤネは僕を睨んでいる。
確実にこの後僕は鉄拳制裁されるだろう……と言うかこれ"あの時"と同じ様な事が今起きてしまったよ。
あの時は押し倒しはしなかった、だけど今の状況と同じくらい恥ずかしかったのを今思い出してしまう。
そう、無意識に"あの時"の事を……走馬灯の様に思い出してしまった。

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