どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

165

ぴちょん……ぴちょん……
タキシードに染みた海水が固い石の地面に滴る、アヤネを背負ったまま、真っ暗な穴の中を進む、デコボコしていて歩き辛い……。

「はぁ……はぁ……くっ……はぁ……」

アヤネを地面に降ろし、荒い呼吸をして上を見上げる、僕は肩で息をした。
危なかった、本当にギリギリだった……もうっほんっと死ぬかと思ったよ、アヤネがね……。

「…………」
「気絶してる……無理もないよね? 一緒に海に落ちたんだし……海水飲んでないよね?」

あの時、アヤネが崖から落ちた瞬間僕は、間に合え! そう叫んで魔法で瞬間移動してアヤネの側に行き、そのまま空中で背中を向け海に落ちた。
そこから波に揉まれながら何とか海から顔を出したんだけど、近くに上がれる所が無くて魔法で崖に大穴を開けた。
こうすれば轟音に気が付いて誰かが助けに来てくれるだろうしね。

「取り合えず僕も座ろう、はぁ……こう言うの魔物の僕でも疲れるよ」

呟いた後、アヤネの隣に座り上着を脱ぐ……当たり前だけどシャツまでぐしょぐしょだね。
その上着を地面に置き、アヤネの脈を調べる……良かった、動いてる。

「海水に飛び込んだのに飲んでないのって……奇跡じゃないか」

苦笑してアヤネを見てみる、そしたら微かに身体が動いた気がした。

「……アヤネ?」

だから声を掛けた、だが返事は無い気のせいの様だ。
出来れば気絶したままのアヤネをこのまま放置しないで早急に手当したい何か手段は……あっそうだ。


「助けを待つのも良いけど、棺桶ワープで何とかなるんじゃ……あっダメだ、さっきの魔法で魔力を使いきったみたいだ」

あの時は必死だったからね、仕方ない。
あぁなった原因を作ったのは僕だ、アヤネには謝らないといけない。

「……んっ……んんっ」
「っ、アヤネ!」

呻き声をあげた後小指が、ぴくっと動いた。
今度は見間違いじゃない、アヤネの両肩を持って顔を覗き込む。

「……っ! けほっけほっ!」
「アヤネ? 大丈夫?」

咳き込むアヤネを抱えて背中を擦る。
ぱちくりと瞬きをした後、アヤネは僕の顔をじっと見てきた。

「らっ……くん?」
「そ、僕だよ」
「……ここ……は?」
「崖の下にある穴だよ」

正確に言うと、僕が崖に空けた穴なんだけどね、その説明は今しなくていいか。

アヤネは弱弱しく呼吸して状況を理解していく、辺りを見渡した後、最後に僕の顔をじっと見てくる。

「……助けてくれてありがと」

ぐぐっーー
ゆっくりと身体を起き上がらせるアヤネ、息使いも動きも辛そうだ……寝てた方が良いんじゃないかな?

「気にしなくて良いよ、それより寝てなくていいの?」
「良い、座りたい……気分だから」

きっ気分……この感じは何時ものアヤネだね、この状況でもブレないってある意味凄いよ。
ゆっくりした動作で隣に座ってくるアヤネ、壁に腰をつけて、ぼぉ……と斜め上を見上げる。

「……らっ君、ごめんね」
「謝るのはアヤネじゃない僕だよ……あの場で言うべきじゃなかった」
「違う、悪いのは私……走らなければ崖から落ちなかった」
「いや、僕が!」
「違う、私が!」

あぁ……これずっと交互に謝る流れだ、これはいけない、だからこう応えた。

「どっちも悪かったって事で手を打たない?」
「……賛成」

その提案を受け入れてお互い苦笑し辺りが静かになる。
きっ気まずい……仕方ないよね? 状況が状況だし、笑いあって話せる状況じゃない。
でもこのまま静かに助けが来るまでいるのは辛すぎる。
この場合どうすればいいんだろうね? 話をする? いやいや、なんの話をするのさ。

「らっ君」
「……なに?」

ん? 向こうから話してきたね……うつ向いて唇が震えてる。

「知ってるなら教えて欲しい」
「……」

教えて欲しい、「何を?」そう聞かなくても分かる。
きっと"あの事"を聞いてくる。

「シルクが好きな人の事……知ってるんでしょ?」
「……いいの? 聞いちゃっても?」

これを聞けばアヤネは立ち直れないかも知れない、だから「やっぱり良い」そう応えてくれると信じて聞いて見た、だけど……。

「いい、本当は聞きたくないけど……聞いておきたい」

違う答えが返ってきた。
なるほど、覚悟は出来てるって事だね、正直今のアヤネには話したくない事……でも本人が聞きたいって言ってる、そう言う覚悟が見てとれる。
だから僕はその覚悟に応えなきゃいけないよね?

「分かった、話すよ」
「ありがと」

にこっーー
優しく笑うアヤネに応じる様に僕も笑う。

「じゃ話すよ?」
「ばっちこい」
「シルク君の好きな人は姉上だよ……」

それを聞いた時、アヤネは驚いて目を見開いた……だけどただ黙って僕を見つめていた。

僕は続けて話した、シルク君の好きな人を、シルクと姉上の約束、姉上のシルクを想う気持ちを全て話した。
その全てをアヤネはしっかりと聞いてくれた。

時折頷いたり、「ほぉ……」と声をもらしたり、色んな反応を僕に見せた。
そして、全てを聞き終わったアヤネはスッキリした顔をしていた。

諦めがついた、僕はそう思ったんだけど……次に放ったアヤネの言葉は僕を驚かせるものだった。

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