どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

157

アヤネに胸を揉まれた後、静かな時間を過ごし珍しく暇な時間を過ごしている俺……この平穏な時間が永遠に続けば良いのに。

「もう、夕方か……」

海の家に淡いオレンジ色の光が射し込む……夕日を見ると黄昏てしまうのはなんでだろうな?

「シルク、お腹すいた」
「もう少しでご飯だから我慢しろ」

アヤネは俺の隣で、背骨に悪影響が出そうな座り方で椅子に座っている。
さっきからそれしか言ってない。

「我慢出来ない」
「……そうか」

そんな見つめられても俺は何も出来ないからな? だから、うるうるした目でこっちを見るんじゃない。

「そうだ、変わりにシルクとイチャイチャする」
「なんでそんな考えになった? 意味わかんないぞ?」

何を「良い事思い付いた!」的な顔をしてるんだ。
イチャイチャなんて絶対しないからな?

「お暇の様ですわね、お2様」

……後ろで声が聞こえた。
俺のよく知る声だ、と言うか久々に声を聞いた気がする……。
と言うか、正直こいつの相手は疲れるんだよな、だから軽く対応しよう……。

「あぁ、いたのか……久し振りだなラム」
「らっちゃんお久」

と言う訳で軽く対応するとアヤネも俺の真似をして対応する、そこには人間の身体をしたスライムのラムがいた。

「なんですの、そのしらけきった反応は! あとシルクさん? なんですのその目は! 興奮してしまいますわ!」

はぁ……はぁ……と熱い息づかいをするラム、その体内では、ごぽごぽーーと音をたてて沸騰している。
これはラムが興奮した証拠だ、こうなると面倒臭いのに俺は興奮させてしまったわけだ、あぁ……しくじった。

「なっ! なんですのその面倒臭い人を見る目は! はぁ……はぁ……もっとその視線を向けてほしいですわ!」

な? 面倒臭い事になっただろ? 正直ラムの相手はロアとアヤネの相手をするより疲れるんだ。
はぁ……俺がため息をつくとアヤネが俺の横を通りすぎラムの前に立つ、そして危険な事を口走った。

「らっちゃん、蔑まれたいの?」

おい、アヤネ……その質問はチーズに「お前腐ってんのか?」って言うのと同じだぞ? つまり分かりきってる事実を聞いてしまったと言う事だ。

「ふっ、愚問ですわね! 勿論、だいっっ好きですわ!」
「そうなんだ、らっちゃんって変態さんだね」

その時、辺りの音が一瞬だけ静かになった。
まずい、このままだと海の家全体に熱湯が飛び散る! そして近くにいるアヤネが大火傷を負う!

「あっアヤネ! 今すぐそこから……」
「ふっふっふっ……シルクさん? 何をそんなに怯えているのです?」

かと思ったらラムの身体は通常の状態に戻る。
なっなんだ……沸騰しないのか、良かった……って、安心してる場合じゃない! 今とんでも無い事が起きた。

「……っ! 沸騰しない……だと!」

いつもなら興奮しきったら沸騰して蒸気になるのに……そして近くにいる者に被害を与えるのに、それが起きなかった、その事で今俺は不思議でしょうがない。
するとラムは胸を張り誇らしげに話し始める。

「良いですかシルクさん? 変態はお預けが出来て初めて変態となるのですわ!」
「おぉ、すごーい」

その言葉にパチパチと拍手をするアヤネ、ラムは、ぽっと顔を紅くする。
凄いと言われて照れているのだろう……さて、これは突っ込まないといけないな。

「誇らしげに言ってる所悪いんだが……訳が分からないぞ? あとアヤネ、全く凄くないから感心するのはやめろ」

それを言った時だ、ラムはむっとした表情になり俺に近付いてくる。

「相変わらず素直じゃないですわね……それだといつかロア様を泣かしてしまいますわよ?」
「なっなんで今ここでロアの話が出てくるんだよ」

両肩を持たれて真剣な表情で言われてしまった。
俺、なんで叱られたんだろう?

「……今は何も言わないでおきますわ」

ため息をはき、ラムはカッ! と目を見開く。
そして俺に背中を見せ外の方に指を指す!

「実は見せたい物がありますの!」

偉く気合いが入っているなぁ……とか思ってたらアヤネがラムに近づいて腕に抱き付きにいった。

「見せたいものってなに? 」

興味津々と言う奴だな、俺は正直……どうでも良いと思っている。
その事を言ったら煩くなりそうだから言わない……だからじっとしていよう。

「ふふふ……それはですね、これですわ!」

っ! ラムが走った……その先は砂浜だ、自ら蒸発しにいくとは流石はドMだなぁ。

「通常ならあたしは砂浜に足を踏み入れた時点で熱くて絶頂してしまいますの、しかし! これさえあれば問題無しですわ!」

とぉっ! と掛け声を上げラムは跳んだ、そして「発射ですのっ!」と言う声と共に、しゅばぁぁっーーと足の裏から水を勢い良く水を放出した……。

「……っ!」
「凄い! 水圧で空飛んでる!」

唖然の俺と無邪気に感想を言うアヤネ、えっ……えと、これ……何て言っていいか分かんない奴だ。

「どうです? お2さん、これであたしはもう! 砂浜で果てる事はありません! これで皆様と一緒に遊ぶ事が出来ますわ!」

ラムが何か言ったな、しかし何も聞こえない。
何故かって? それは……放出する水の音が煩くて声が聞こえないからだ。

「ふふっふふふふ! さぁ! 見ていなさい! 私は今! 太陽の下に赴くのですわぁぁ!」

うん……叫んだのは分かった、だが何を言ったのか分からない、っあ……もうあんな遠くまでいってしまった。

「なぁ……アヤネ」
「なに?」
「さっきラムが何を言ってたかわかるか?」

夕日に照らされ身体がキラキラ美しく輝いたり透けたりするラムを見ながら聞いてみる、多分アヤネなら分かるだろう。

「分かるよ、気になるの?」
「あぁ、気になる」

どうせ変な事しか言ってないだろうが……気になるのは仕方ない。

「そう……じゃ、教える」

アヤネは俺の耳元に近付いて教えてくれた。
別に耳元から言わなくても普通に言えば良いんじゃないか? こんな事されたら恥ずかしいし……くっくすぐったい。

「あのね……ごにょごにょ」
「っ! くっ……」

ほら、今変な声が出た……くすぐったいんだよ。
だから俺はアヤネを軽く押し退ける、だがそれをした瞬間、むっとした顔になり……がぷりっと俺の耳に噛みついた、さて次に俺はなんと言うでしょう? 正解は……。

「ひゃ!」
「ふふ、可愛い声出たね」

くすくすと悪戯に笑うアヤネ、やっやられた……見事に油断した。

「アホ、可愛いって言うな……で? なんて言ってたんだよ」
「聞いてなかったの?」
「あの状態で聞けると思うか?」

否、聞けるわけがない! アヤネはもう少し男とのコミュニケーションを考えるべきだ。

「じゃ、もう一度言うね……あっ」
「ん? どうした?」

いきなり話を遮ったアヤネ……砂浜の方に指差しているが何かあるの……あ。

「あっ……あぁ……あっあ……あはは、あっあたし……もう直ぐ果てて……しま……い……ますわ」

アヤネの指差す方向にはラムがいた。
それは神々しく夕日に照らされ、今にも天に召されて行く様な光景だ。
つまりラムは蒸発寸前だと言う事だ、結局蒸発するのかよ……と思ったが言わずにその言葉は心の奥底にしまっておいた。

「なんか綺麗」
「そう……だな」

まるで自然が見せる絶景の様だ、正確に言えばドMが絶頂する所を見ているだけなんだが……それは今はおいておこう。

さて、ここで疑問が生まれる。
いまだ足の裏から水を出し続けるラム、この時彼女は砂浜には触れていない、なのになぜ今にも蒸発しそうなのか? 答えは簡単だ。
それはラムに照らされた夕日が原因だ、普通ならあの短時間で水は沸騰しない……だがラムはドM、短時間でも過敏に反応し感じてしまうのだ。
……って、俺はなんの解説をしているんだ?

「ゆっ夕日の……かっ輝きで……あたしは……あたしは! はっ果てて! 果ててしまいますわぁぁ!」

あっ、もう限界だな……。

「わ! 翔んでっちゃった」

アヤネの言う通りラムは真っ直ぐジェット噴射の如く空へ翔んでいった。
水飛沫が夕日に照らされ、その光景はまるで宝石を散りばめた様だった。

そして俺の脳内に悪しき記憶か甦る。
……いつだっかな? 俺は実際ラムに身体全体を覆われると言う恥辱を受け、ジェット噴射で共にとんだ。
確か名前があったが……そんなものはどうでもいい。

「どうしたのシルク、凄く不機嫌な顔してる」
「……ちょっと過去を思い出しただけだ、気にするな」

顔を覗き込んで心配するアヤネに優しく語る。
頭に? を浮かべたアヤネだったが気にしない事にしたのか空を見上げた。
俺も共に空を見上げる。

「綺麗な夕焼けだね」
「そうだな……」

俺とアヤネは暫く空を見た、空は茜色……そこに掠れた白い雲が無数に連なっていた、何度も見た景色の筈なのにやはり何度見ても美しい……その時、ふと思う。
「ラムは結局何がしたかったんだろう……」と、だがそんな思いも綺麗な景色の力で泡と消えてしまう、さぁ明日も頑張るか……。

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