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スクールカースト殺人同窓会(新潮文庫)

堀内公太郎

第一章 (1)

《Gプレス・Web 9月9日(金)1000分配信》

 不定期掲載:ゲスい美人記者Kの適当コラム

『死人からの案内状』


 みなさん、こんにちは。Kです。毎日暑いですね。

 突然ですが、みなさんはスクールカーストをご存じですか。

 スクールカーストとはクラスにおける生徒のランクです。一時期話題になったのでご存じの方も多いでしょう。言葉自体は知らなくても、学生時代を思い出せば感覚的に分かる人もいると思います。

 ちなみにKはカースト外の生徒でした。いわゆる「ぼっち」だったからです。学生時代はカメラ片手に一人でクラスメイトの秘密ばかり探っていました。嫌な生徒ですね。つまり当時も今もやっていることは変わりません。

 なぜ急にスクールカーストの話をしたかというと、先日、Kのもとに高三時代の同窓会の案内状が届いたからです。当時のクラスには露骨なカーストがありました。トップに男女六人が君臨し、下位の生徒へのイジメや嫌がらせが横行していました。

 そんなスクールカーストの見本みたいなクラスで同窓会とは正直信じられませんでした。当時をいい思い出と感じているのは、おそらくあの六人だけです。そのため企画したのはきっと六人の誰かに違いない、直観的にそう感じました。

 しかし案内状の差出人は六人以外のある男子生徒だったのです。それだけでも意外だったのに、その差出人自体がさらなる驚きでした。なんと彼は高校時代に行方不明になっていたからです。しかも先日、十年って遺体で発見されたばかりでした。

 死んだ人間から案内状?

 もちろん誰かが彼の名をかたったのでしょうが、その理由が分かりません。ただそこには人の暗い感情が関係しているような気がします。死んだ人間の名を騙るなんて常軌を逸していますからね。

 当日はどうなるのでしょう。なにかが起こりそうな予感がして今から楽しみです。こういうところがゲスなんでしょうね。

 最近は予習がてら元クラスメイトのフェイスブックやインスタグラムをよく見ています。みんなかなりのリア充でうらやましいかぎりです。人生って不公平だなあと改めて感じています。

 同窓会については今後もこのコラムで取り上げていきます。ぜひ自分の身に置き換えてお楽しみください。

 本日はこのへんで。Kでした。


   


 タクシーを降りると、ながさわみなみは頭上を見やった。どんよりとした雲が夜空をおおっている。普段より暗く感じるのはそのせいだろう。スマートフォンを見ると、午後十一時半を回ったところだった。

 立っているだけでもじっとりと汗がにじんでくる。九月に入って若干暑さは和らいだものの、日中は三十度を超えていた。今夜もエアコンなしでは寝られそうもない。

 それでも気分はすっきりしていた。先週両国のマンションで発生した強盗殺人の犯人が今日の午後逮捕されたからだ。本所署の刑事とともに南が入手した情報が決め手となっての事件解決だった。

 若くして警視庁捜査一課に所属する南は、周囲、特に男性の警察官から恨みを買うことが多い。女で一課にいることも相まって、嫌がらせや身に覚えのないうわさを立てられることも少なくなかった。

 しかし今回コンビを組んだしよかつの男性刑事は南を本庁の刑事としてきちんと扱ってくれた。犯人逮捕の決め手となった情報を入手できたのも、十歳以上年上の彼が自分のネタ元を惜しげもなく提供してくれたおかげだった。

 ──警察組織も捨てたもんじゃないな。

 最近は以前よりそう思える機会が増えた気がする。先日そのことを先輩刑事であるしきに話すと、「そりゃ、お嬢ちゃんが一人前に近づいたからだろう」と言われた。いわゆる《認められてきた》という意味だろうか。自分ではよく分からない。

 ──弱い人に寄り添える警察官になる。

 南が警視庁に入ったときからの信念だった。青臭いと言われることも多いがこれだけは曲げられない。

 高校時代、南はひどいイジメで不登校になった。さらに不登校のあいだには、担任との関係でとてもつらい思いをした。衝動的に手首を切ったことも一度や二度ではない。

 あのころの経験が今の南を形作っていると言ってもいい。だからこそ弱くて声が上げられない人に、いつでも寄り添っていたいと考えていた。

 しかし二か月前、南の価値観を揺るがす事件があった。私立西東京学園高校を舞台に起こった一連の殺人および殺人未遂事件である。

 この事件を通じて南はある人物から、南が本当にやりたいのは弱い人に寄り添うことではなく、弱い人を足蹴にするゴミみたいな奴らを排除することではないのかという問いを投げかけられた。

 正直、どきりとする問いだった。高校時代、自分をイジメた相手を「死ねばいいのに」とのろったことは数えきれないほどある。今でも理不尽な事件に遭遇するたび、報われない被害者の気持ちを想像して歯ぎしりすることも少なくなかった。法律的な処罰が難しい事件では特にその思いが強くなる。どうして罰を与えられないのかと悔しく感じることもあった。

 しかし南は刑事だ。あくまで法の範囲で行動する必要がある。道義的や倫理的にいくら問題があったとしても、法律的に問題がなければ甘受するしかなかった。そこから逸脱してしまえば、もはやおおやけの正義とは呼べない。主観的な正義だ。それではなんでもありになってしまう。南が目指すところではないはずだ。

 ため息をつく。

 少し疲れているのかもしれない。明日の午前中は休みをもらっている。今日は久しぶりにゆっくりできるのだから、早く部屋に戻ってビールを飲もうと思った。

 マンションに入ろうとすると、「はあい、南」と浮かれた声が聞こえてきた。声だけで誰なのかすぐに分かる。南は肩を落とすと振り返った。

 植え込みのブロックにかわさきかんが腰かけている。右手に持ったビールの缶をゆらゆらさせた。ブロックの上には空き缶が二本並べてある。

「環奈ちゃん、そんなとこで飲んでたの?」南はあきれていた。

「あんたの帰りが遅いからでしょ」

 環奈は、よいしょ、と立ち上がると近づいてきて南の肩に腕を回した。アルコールのにおいが鼻先をかすめる。南は顔をしかめながら、マンションのガラスに映る二人の姿に目をやった。

 身長一六八センチの南より環奈は五センチほど背が高い。肩に手を回されている様子は、どことなくからまれているように見えた。

 川崎環奈は高校三年のクラスメイトだ。現在は週刊Gプレスという雑誌で記者をしている。当時はクラス委員で、南が不登校になった際は担任と何度も自宅まで通ってくれた。学校に再び通えるようになったのは、ある意味、環奈のおかげと言ってもいい。ただし環奈はあくまで南の不幸な状況に興味があったから首を突っ込んだに過ぎず、親切心からそうしたわけではなかった。

 高校卒業後はえんになっていたものの、南が本庁一課に異動してから環奈の押しかけで関係が復活した。南を取材の《情報源》として利用するためである。環奈は今も昔もそういう人物だった。

 さ、と環奈が左手に下げたコンビニのビニール袋を掲げる。「部屋で飲み直そう。今日はお祝いでしょ」

「お祝い?」

「だって事件が解決したじゃない。しかもずいぶん活躍したそうで」

 南は苦笑いした。相変わらず情報が早い。マスコミ向けの発表は明日午前中の予定だった。

 南以外にも環奈が捜査一課に独自の情報源を持っていることは以前から感じている。モデルのようにすらりとした環奈にガードが甘い捜査員がいるのだろう。

 マンションに入って一緒にエレベーターに乗り込むと、南は四階のボタンを押した。

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