話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

スクールカースト殺人同窓会(新潮文庫)

堀内公太郎

プロローグ (2)

「おまえ、無視してんじゃねえぞ」田知本が冷めた声で告げた。「立てっつったろ」

 宇良がのろのろと腰を上げる。肩をすくめた姿勢でかんを両手で隠していた。

「手をどかせ」

 宇良の顔が歪む。「そんな……」

「聞こえなかったのか。手をどかせ」田知本が淡々とした口調で言った。「これ以上、痛い目にあいたくないよな」

 宇良がおそるおそる股間から手をどかす。身体をひねりながら前のめりで腰を引き気味にした。

「おら、ちゃんと立てよ!」勝俣が声を張り上げる。

 宇良が反射的に背筋を伸ばした。

 梓はあわてて顔を背ける。

「やだもう」

「立ってるし!」

「ちっちゃ!」

 亜友美、実帆、カレンが一斉に声を上げた。

 田知本が腹を抱えてこうしようする。勝俣と氷川も手を叩いて喜んだ。

「ほら、さっさと行けよ」田知本が楽しげに命じる。「向こう岸まで行って戻ってきたら許してやる。俺たち優しいからさ」

「……向こう岸ってけっこうあるけど」宇良が不安げに告げた。

「往復でせいぜい一〇〇メートルだろ。たいしたことねえって。おい、越川、それでいいな」

 急に話を振られて梓はびくりとした。「う、うん」とほとんどなにも考えないまま返事をする。

「おっしゃ、ウラケン行け」

 肩を落とした宇良が川のほうへとぼとぼ歩いていった。そのあとを足音を忍ばせた氷川がついていく。宇良が川の側で足を止めた瞬間、「おらあ!」と氷川はいきなり靴底で宇良を蹴り飛ばした。

 つんのめった宇良がコンクリートの堤防を転がり落ちていく。どぼんという音に続いて水しぶきが上がった。

 歓声と拍手が起こる。

 しばらくして岸から三メートルほど先に宇良の頭が浮かび上がってきた。立ち泳ぎしながらこちらを振り返る。せーの、と言って亜友美、カレン、実帆の三人が「ファイトー」と声をかけた。

 あきらめたように宇良が向こう岸へ向かって泳ぎ出す。ぎこちない平泳ぎだったが、流されながらも少しずつ前へ進んでいた。梓はほっと息をつくと(頑張って)と心の中で声をかけた。

 さて、と田知本が手を叩く。「これだけじゃおもしろくねえから、こっちはこっちで別のゲームしようぜ」

「どんなゲーム?」亜友美が上目づかいで質問する。

 田知本が手近にあった石を拾い上げた。「ウラケンを仕留めたやつが勝ちってゲーム」

 笑いながらカレンが足元の石に手を伸ばす。「それ乗った。私、自信あるし」

「確かにただ泳がすだけじゃつまんねえもんな」勝俣がきょろきょろと石を探し始める。

「だったら賞金も決めようぜ」氷川がこぶし大の石を手の中でもてあそんだ。「仕留めた奴に全員から五百円ずつとかどうだ?」

「あ、それいい」実帆がはしゃいだ声を上げる。「私、今月、マジ金なくてさあ」

「でもそれって男子有利よねえ」しゃがみ込んで石を選びながら、亜友美が甘えた表情で田知本を見やる。「できれば女子にはちょっとハンデがほしいなあ」

 田知本が少し考えてから「だったら女子は三つ同時に投げていいってのはどうだ?」と提案した。

「わぁい。さすがタチくん、イケメンだね」亜友美がふと気づいたように梓を見上げた。「で、あんたはなにぼうっとしてんの?」

 梓はうろたえた。「え、あ、私は……」

 立ち上がった亜友美が梓の手に石を三つ握らせる。「もちろんあんたもやるでしょ」と梓の顔をのぞき込んだ。

「……はい」

「よっしゃ」田知本がぱちんと指を鳴らす。「準備はできたか」

「オッケーでーす」

「俺もいつでもいいぜ」

 氷川と勝俣が田知本の問いに応じた。

「男子には負けないし」

「賞金ほしー」

「石三つって持ちにくいなあ」

 カレン、実帆、亜友美の女たちがそれに続く。

 田知本が梓を見た。「越川は?」

「あ、はい」梓はあわてて答えた。

 田知本が片方の口の端を持ち上げる。ゆっくり近づいてくると「もしわざと投げなかったりしたら、今度はおまえの番な」と梓の耳元でささやいた。

 背筋がすっと冷たくなる。田知本はやるといったら容赦がない。投げたフリでごまかすことはできそうもなかった。

「じゃあいくぞ」田知本が声を上げる。「レディーゴー!」

 男子三人がたけびを上げながら石を放り投げた。女子も歓声を上げながらそれに続く。梓は目をつぶると、夜空に向かって手にした三つの石を放り投げた。


     ***


《白骨遺体の身元が判明

 十年前に行方不明になった佐原野市内の男子高校生と特定》


 六月上旬に佐原野大川の河口付近で発見された白骨遺体は、DNA鑑定の結果、二〇〇X年に捜索願が出されていた宇良けんいちさん(当時一七)と判明した。

 佐原野署によると、骨の状態からみて死後十年近くが経過しており、宇良さんはしつそう直後に死亡したものとみられる。当時、宇良さんは佐原野市内にある県立佐原野高校に通う三年生で、進学の悩みから家出をしたとして家族から捜索願が出されていた。

 過去の捜査で事件性はないと判断していることから、同署は自殺か事故のいずれかの可能性が高いとみている。頭部をはじめ、腕や脚などに骨折のあとが見られるものの、遺体が川で発見されていることや時間が経過していることから死因の特定は難しいという。


       二〇一X年七月二一日(木) 北千葉日日新聞より

「スクールカースト殺人同窓会(新潮文庫)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます