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スクールカースト殺人同窓会(新潮文庫)

堀内公太郎

プロローグ (1)


   プロローグ


「絶対よけんじゃねえぞ」

 かつまたあきのりが大きな背中をくるりとこちらに向けた。次の瞬間、丸太のような脚がの側頭部を直撃する。背後から羽交い締めにされているせいもあって、首がもげるかと思うほどの衝撃だった。

「へへ、後ろ回しりだ」得意げに笑う勝俣の胸元では金のネックレスが夏の夜の月明かりを受けてきらきらと輝いている。

 頭が揺れたせいか急に込み上げてくるものがあった。こらえ切れず宇良がえずき始めた途端、「うわ!」と突き飛ばされる。顔から地面に突っ込むと、ぎゃははという笑い声が河原に響き渡った。

「汚いなあ」見上げるとかわなるが冷ややかな目でこちらを見下ろしている。「俺にかけたらマジ沈めるよ」と長い髪をかきあげながら後方を指差した。

 氷川の背後では佐原野大川がうねるように流れている。くらやみで向こう岸が見えない中、ごうごうと激しい音を立てていた。普段よりあきらかに水量が多いのは、三日前に上陸した台風六号のせいだ。

「立てよ」勝俣が宇良の髪をつかむ。

「やめて!」宇良は抵抗しようとしたが、下腹部にひざ蹴りを食らってその場にうずくまってしまった。

「やめてじゃねえよ」勝俣の声が降ってくる。「もとはと言えばおめえがに手を出そうとしたからだろうが」

「ぼ、僕は、そ、そんなこと──」

 胸倉をつかまれ立たされた。ひ、と肩をすくめる。

「してねえって言うのかよ」

「あ、いや……」

「そうなんだよなあ、実帆」勝俣が大声で言った。「おまえ、こいつからしつこくつきまとわれたんだよなあ」

「そうだよお」しゃがみ込んでいるよし実帆があっけらかんとした調子で答える。「私にはアキちゃんがいるからダメって言ったのにさ、何度も遊びに行こうってしつこかったんだよね」

「ほらみろ」勝俣がにらみつけてくる。「てめえ、まだシラ切るのか」

 うそだ、と叫びたかった。しかし怖くて声が出てこない。救いを求めるように宇良は周囲に視線を向けた。

 実帆の隣には、なかやまもとカレンがしゃがみ込んでいる。亜友美はひざをそろえてにこにこしていた。カレンはガムをくちゃくちゃみながらにやついている。そのそばではもとたつがけだるそうな表情でタバコを吹かしていた。

 河原にはもう一人いた。田知本たちから少し離れた場所にこしかわあずさがぽつんと立ち尽くしている。

 宇良が視線を向けると梓は顔を伏せた。これで何度目だろう。ここに来てから梓は一度も目を合わせてくれない。

「よう、越川」

 勝俣の呼びかけに「は、はい!」と梓が背筋を伸ばす。

「おまえもこいつのせいで傷ついたよなあ」

「……はい?」

「だっておまえに対する裏切りだろ、こいつがやったこと」勝俣が口元をゆがめるように笑った。「ムカついてるよな」

「いや、私は──」

「ムカつくよなあ!」勝俣がどうかつするように遮った。

 梓がおびえたように首をすくめてしまう。

「ムカつくよなあ。ムカつくだろう?」

 しばらくして「……はい」と梓が蚊の鳴くような声で返事をした。

「ほらみろ」勝俣が得意げな表情で「ほら、ほら、ほらあ!」と宇良をつかんだ手を激しく揺する。「おまえはよお、いろんな人間を傷つけてんだよ。分かってんのか、こらあ!」

 再び吐き気がこみ上げて来るが宇良は必死でこらえた。

「アキ」

 勝俣が動きを止める。「なんだよ、タチ?」

 田知本がまゆをひそめた。「タチだと?」

「あ、ごめん」勝俣があわてたように「なんだよ、タチくん」と言い直す。

 田知本がふんと鼻を鳴らすと、「そいつ、全然反省してなさそうだよな」とタバコを地面に押しつけながらゆっくり立ち上がった。「バカには身体からだで分からせる必要があるんじゃねえのか」

 勝俣がにやりとする。「いいねえ。なにさせる?」

「せっかくだからさ──」田知本がすっと人差し指で前方を指さした。「泳いでもらおうか」


     


 最後の一枚を脱ぐと、宇良はたまりかねたようにその場にしゃがみこんだ。「まっぱ!」とカレンがはしゃいだように手をたたく。どっと全員から笑いが起こった。

「いいねえ」勝俣が愉快そうに言う。「サイコーじゃねえか」

 パシャッという音が聞こえた。氷川が携帯電話を宇良に向かってかまえている。「せっかくだから記念写真撮っといたよ」と口笛を吹いた。

 おい、と田知本が新しいタバコに火をつけながら「かがんでないで立てよ」と宇良に向かって命令する。

 宇良は反応しなかった。黙ったままうつむいている。

 越川梓は先ほどから息苦しくて仕方がなかった。本当ならすぐにでもこの場を逃げ出したかったが、そんなことをすれば明日からは自分がターゲットにされてしまう。考えるだけで恐ろしかった。

 相手は六人だ。男子もいる。宇良には申し訳ないが、梓にできることはなかった。この場にいるだけで精いっぱいだ。

 田知本が舌打ちする。「おい、ウラケン」とおおまたで宇良に近づいていくと、くわえていたタバコをいきなり背中に押しつけた。

 宇良が悲鳴を上げながらのけ反る。「ひ! ひ!」と手を回して振り払おうとした。そこを田知本が右足で蹴り上げる。宇良は「うげえ……」と奇妙な声を上げてうずくまった。

 梓は見ていられず目をそらしてしまう。

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