話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

極上男子シリーズ~クールな野獣弁護士の甘い罠~

水守恵蓮

オオトリ登場は暴君弁護士 (2)

 オフィスから五分ほど歩いて、合コン会場ののダイニングバーに着いたとき、店内奥のテーブル席には舞子ちゃんとふたりの男性が座っていた。

 入口のドアの方に向いて座っていた舞子ちゃんが、腰を浮かせて手を振りながら合図してくれる。

「あ、お待たせしました〜」

 私より先に反応した香帆ちゃんが、小走りで近づいていく。

 ほとんど同時に、こっちに背を向けていた男性ふたりが背もたれに腕をのせて振り返った。

 ――おっと……! すごい……イケメンじゃないの!

 思わず立ち止まって、ゴクッと唾をのんでしまう。

 舞子ちゃんの前に座っている、ちょっと軽い感じの男性が、ニコッと爽やかな笑みを浮かべながら、「どうも〜」と声をかけてくる。その隣、真ん中に座った男性は、あまり表情を変えずに小さく頭を下げた。

『極上合コン』とは聞いていた。それは、お相手の男性の職業のせいだと思っていた。

 舞子ちゃんの前の男性が、多分幹事。前情報によると、航空会社勤務のパイロット……副操縦士で、あとは弁護士とエリート国家公務員だったはず。たしかに私の周りにいるごく普通のサラリーマンよりもお給料もよさそうでレアなご職業。さらに、こんなにイケメンだなんて、『究極の神合コン』と言っていいんじゃないの!?

 と、あまり見慣れないイケメンツーショットにしょっぱなから舞い上がってしまった私を置いて、香帆ちゃんは先に席に着く。多分、『詰めて』座ったつもりだと思うけど、その位置はしっかりど真ん中。空いたのは一番端っこで、向かい合う席に男性の姿はない。

「あ、香帆! 真ん中は奈央さんに譲るべきじゃないの?」

 私は複雑そうな顔でもしてしまっていたんだろうか。後輩らしく、幹事らしく、舞子ちゃんが香帆ちゃんにそう注意した。香帆ちゃんも素直に「あ」と腰を浮かそうとするけど。

「あ、いいのいいの。私はここで」

 慌てて制したのは、向かい合う男性がちょっとアンニュイな感じで、恋愛初心者で免疫のない私じゃ会話が弾まないと思ったから。

 そう、合コンどころか、男性とお酒の席で会話するのなんて、今じゃ部内の飲み会だけ。周りはロマンスの予感などあるわけない、既婚者とイケてない上司ばかり。

 同年代のイケメン相手じゃ、不慣れなのを見透かされてしまいそう。それなら最後のひとりに期待を寄せるのが安全だ。

「香帆ちゃん、気にしないで。私はここでいいから」

 席を譲ろうとしてくれた香帆ちゃんにニッコリ笑って見せる。そのまま香帆ちゃんの隣に座ると、対角線の一番端、舞子ちゃんの前に座っているパイロットの男性が、頬杖をついて私に微笑みかけた。

「大丈夫。もうひとりもすぐ来るって電話あったから」

 爽やかで人懐っこそうな笑顔にドキッとしてしまうけれど、残念ながら彼は舞子ちゃんの学生時代からの思い人だと聞いている。だから無駄にときめいてしまうわけにはいかない。

「俺の学生時代の二年先輩。今年三十歳の弁護士なんだ」

「そ、そうですか」

 あ~やっぱりこの席に来るのがシャイな弁護士かあ……と、ほんのちょっとテンションは下がるけど、すぐに気を取り直して考え直す。弁護士なら、私でもきっと会話に困ることもない。それに、ふたつ年上って超理想的。少なくとも、真ん中の彼が、一番話しやすい職業の男じゃなくて、ちょっとホッとしたのが本音だった。

 そんな思考を笑顔で隠すと、真ん中の椅子に深く腰掛けた男性が、腕組みしながらジーッと私を見つめていた。

 気だるげな瞳が色っぽくて、これまたドキッとしてしまうけれど。

「……もしかして、年上弁護士好き?」

 シレッとそんなことを聞かれて、一瞬目が点になった。

「え? ……別にそんなことはないですけど」

「そう? なんかうれしそうな顔したから」

 さっきから表情を変えない彼にそんなことを言われて、動揺が顔に出ないようにするのに必死だった。

 うれしい……わけではないけど、安心したのを見透かされてしまったらしい。

 消去法でいくと彼はエリート国家公務員で間違いない。国家公務員といっても、なんだか掴みどころがなくて、ただの事務職には見えないけれど……。

「え~。でも、奈央さんだって、少しは違う業種の人と話したいとか思いますよね?」

 一番端っこから、舞子ちゃんがひょいっと顔を出してくる。

「えっ……」

 ギクッとして、顔をこわばらせながら短い声で反応した。

 たしかにそう思っていたけど、今、弁護士じゃない男性を薦められたところで、パイロットがお手つきならば掴みどころのない国家公務員しかいなくなってしまうじゃないの。

 出会って間もなく表情を読まれてしまった。少し見当違いだったけれど、このまま話し続けていたら、不慣れなのがバレるのも時間の問題。多少つまらなくても、弁護士の方が絶対安全に決まってる。

「でも、奈央さんだったら、今までもいろんな職業の男性とお付き合いした経験ありそうです」

 いつもおっとり天然ムードの香帆ちゃんまで、隣から私を覗き込みながらそんなことを言い放つ。

「えっ」

「だろうなあ。俺、こんな美人間近で見たことないし」

 香帆ちゃんの言葉を否定する前に、パイロットの彼にまでかぶせられてしまった。

「なに言ってんだか。普段から仕事でも超美人CAはべらせてるくせに」

 国家公務員の彼がパイロットに突っ込むのを聞きながら、変な汗が背筋を伝う気がした。私が口を挟む隙もなく、話は勝手に進んでいってしまう。

 マズい……舞子ちゃんと香帆ちゃんだけじゃなく、男性陣にも、完全に恋愛百戦錬磨の女だと思われてしまう。〝恋愛慣れした美人〟じゃ、合コンでは引かれるだけなのに、今、まさにそういう評価をされつつある自分に焦った。

 そうじゃない。私は、「でもこう見えて彼氏いない歴数ヵ月なんです」的なアピールをするつもりだったのに。

 出会って間もないうちにちゃんと誤解を正しておきたいけれど、かといってこの流れだと私の狙い通りのアピールはちょっと難しい。それに、本当のことを知られたりしたらもっと困る。

〝恋愛慣れした美人〟にしか見えない私が。実は、一度も男性と付き合ったことがないだなんて。〝彼氏いない歴数ヵ月〟どころか、生まれてこの方彼というものがいたことがないなんて……。

 天と地が引っくり返っても、それだけは誰にも知られたくない!

 私に対する彼らの先入観を逆手にとって、奥手な女をアピールすれば、見た目とのギャップに好感度アップも期待できたかもしれないけど……絶対女慣れしてそうなイケメン相手に、どう考えても難問だ。それなら下手に弁解しない方が利口だと判断して、私は結局、今日の究極の神合コンで〝先につながるお付き合い〟をあきらめた。

 少なくとも、私はここにいる男性ふたりの〝本気の彼女〟候補からは、はずされてしまっただろうし。

 両手で頬杖をついて、隣の香帆ちゃんに気づかれないように小さなため息をついた。

 六年ぶりの合コンなのに。出会いのチャンスだと思ったのに。

 ああ……。私の未来の旦那様はどこにいるんだろう。もしかしたら、神様は運命の相手を私に用意してくれてないんじゃないか、とまで思えてくる。

「極上男子シリーズ~クールな野獣弁護士の甘い罠~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます