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極上男子シリーズ~エリート外交官の危険な結婚宣言~

水守恵蓮

救世主は謎の公務員 (2)

 でもまあ、合コンで男性と出会いたいなんて思っていない。そりゃあ、今彼はいないけれど、前の彼と別れて半年ちょっとだし……恋愛に関してはそれほど積極的でもないタイミングだ。

 だからこそ、今日の合コンもふらっと行ってその場だけ楽しめればいいかな、と、舞子に付き合うだけのつもりでOKした。というわけで、正直お相手にはなんの期待もしていない。

 どっちかっていうと、合コンで新たに男性と出会うよりは、どうにかして蹴散らしてほしい人がいるのが現実だし……。

 そこに思考が向かってしまうと、無理やり上げたテンションが下がり始め、私はなんとなく自分の足もとに視線を落とした。

 この一ヵ月、私がいつもパンツスタイル通勤を余儀なくされている理由。それは舞子にも言えずにいる。

 奈央さんは、こんなに完璧なのに。比べることじゃないけれど、ため息が漏れる。

 いやいや! 人と比べて落ち込んでも仕方がない。奈央さんは奈央さん、私は私! 私は気を取り直して自分にそう言い聞かせた。

 そして奈央さんとふたりで足早にお店に向かい、集合時間ぴったりに到着。なんとか合コンはスタートした。


 私を誘ってくれたとき、舞子が半分ヤケっぱちで『極上だよ』って教えてくれたけれど、それは男性の職業のことだと思っていた。舞子お手つきのパイロットを筆頭に弁護士、いつの世でも安定の国家公務員。リース会社で経理部に所属する内勤事務職の私では、普段なかなか知り合うことのないご職業だ。

 けれど、極上の理由はそれだけじゃなかった。

 華やかなイメージのパイロットさんも、ちょっと遅れてきた大人な雰囲気の弁護士さんも、それぞれタイプの違いはあれど、超イケメンだったのだ。そして今私と向かい合っている眼鏡をかけた公務員さんも、ちょっと中性的で整った綺麗な顔立ちをしている。

 パイロットさんが教えてくれたところによると、公務員の彼は私のひとつ年上、二十八歳。五十嵐いがらしあおいさんというそうだ。

 全体的に色素が薄い。それほど度が強くなさそうなスクエア型眼鏡の下の目もとは、切れ長で涼しげ。その上伏し目がちで、長いまつ毛で隠れてしまい瞳の色はわからないけれど、外国人の血が混じってそうだな、と思った。

 薄茶色の髪は、すっきりとやや短め。うらやましくなるくらい素直で真っすぐで、ちょっと無造作にセットされている。

 スッと高く形のいい鼻に、キュッと結んだ唇。身体つきは全体的にスリムでしなやかな印象だけど、薄手のニットの袖をまくり上げて露わになる腕は意外にも逞しい。

 アンニュイな雰囲気とは、ちょっとしたミスマッチだ。

 極上も極上。まさかこれほどイケメン揃いとは。今まで参加したことのある合コンと比べても、神がかってる!と、ちょっと興奮してテンションが上がりかけたのは最初だけ。

 着いた順、奥に詰めるつもりで真ん中に座ってしまったけれど、正面の彼はそれほどこの合コンに興味ない……というか、まったく私に関心がない様子。

 なんとなく向かい合った者同士で会話が進んでいくけれど、たまにこっちに向けられる視線は私を通り越して、隣の奈央さんの方に行ってしまう。

 そりゃ、奈央さんより私に興味持つなんて普通の男じゃない!とは思うけど、もうちょっとこっそりしてくれないと、私だっておもしろくない。

 とはいえ、黙ってばかりでつまらなそうにしてたら舞子に悪いし、私はなんとか五十嵐さんと会話を試みようとした。

「あの……五十嵐さんって、普段どんなお仕事してるんですか?」

 少しだけ、テーブル越しに身を乗り出す。

 私の質問にほんのわずかながら反応した五十嵐さんは、身体の正面を軽くテーブルから逃がしながら長い足を組んだ。

「公務員」

 それは聞いてる。私が話題に振ったのはそのお仕事の内容のつもり。

「公務員にもいろいろあるじゃないですか」

「それで十分でしょ。それ以上を君に教えて、なにかメリットある?」

 合コンだし、自己紹介レベルの話題じゃなかろうか……?

 ひと言言ったっきり、シレッと目を逸らしてしまう五十嵐さん。これじゃあ、会話の糸口も見つからない。途方に暮れてしょぼんとする私に、五十嵐さんは眉間にしわを寄せてため息をついた。意地悪だったと反省してくれたのか、

「……国家的スパイ活動」

「は?」

「世界各国にばらまかれた同志と連絡を取り合い、情報収集する。たまに自分でも現地に行く」

 五十嵐さんはそう答えてくれたけど、それをどこまでうのみにしていいんだろう。私の頭の中では、世界各地で素性を隠して生きるちょうほう部員とか反政府組織くらいしか想像できない。

「わからなくていいよ。君が知る必要はないから」

〝ハトが豆鉄砲〟状態の私の反応にむしろ満足したように、五十嵐さんは、箸でつまみ上げた刺身のツマを、たっぷりわさびじょうに絡めて口に入れた。わさびが効いたのか、思いっきり顔をクシャッとして、眼鏡がずれた姿はちょっと人間味を感じさせる。

 けれど会話を広げられないまま、そこで切り上げられてしまった。五十嵐さんの方からほかの話題を振ってくれるわけもなく、私と彼の間には沈黙が流れるだけ。

 五十嵐さんが、時折ぼんやりグラスを揺らして傾けるのをなんとなく盗み見ながら、私は肩をすくめ、気づかれないようにため息をついた。

 私に無関心なのがわかりやすすぎる態度。彼にとって私は対象外で、ちょっと語らう時間も無駄だという空気がヒシヒシと伝わってくる。いっそ奈央さんと席を交換してあげた方がいいのかなと思った。

 けれど、席を替わろうと行動を起こす前に、奈央さんは弁護士さんとひと悶着起こし、合コン開始早々に帰ってしまった。結局五十嵐さんは、自分の隣の弁護士さんと緩い雰囲気で会話を進め、私はそれに耳を傾けるだけで、会話に参加することもほとんどないまま。極上の神合コンは、私にとってなんとも微妙なまま終わったのだった。


 お店を出て、パイロットの彼と並んで帰っていく舞子を見送った後、私は肩の荷が下りた気分でホッと息をついた。

 本来、この合コンは舞子にとっても本意じゃなかったんだし、私と奈央さんのメリットは考えなくていい。これを機に舞子が彼とうまくいってくれればいいんだけどな。

 うしろ姿だけなら、ちょっといい雰囲気だった。ついニマニマしてしまう私の隣を、「お疲れ様」とひと言だけ告げて、大人のムードを漂わせる弁護士さんが通り過ぎていった。

「あ、ありがとうございました~」

 反射的に挨拶を返し、私も駅に向かって歩きだした……のだけれど。

「……」

「どうでもいいけど、君、どうしてついてくるの?」

 私の二メートルほど前を歩く五十嵐さんが、うっとうしそうに振り返った。

 これだけは言っておく。別についていきたいわけじゃない。私は電車に乗ってさっさと帰りたくて、駅に向かっているだけなのだ。

「東京駅から地下鉄に乗りたいんです」

「……まさかの同じ電車か」

 グッと眉を寄せた五十嵐さんとほぼ同時に、私も、「え」とつぶやいていた。けれど彼はすぐに前に向き直ると、はあっとこれ見よがしな深い息をつく。

 いくらなんでも、地味にショックだ。

 同じ駅を目指して歩くからには仕方ないけど、ため息をつかれてしまっては、のほほんと後をついて歩くのも気が引ける。コンビニにでも寄り道して時間をずらした方がよさそうだ、とガックリしたとき。

「エクスキューズミー?」

 アメリカなまりの英語で話しかけられた。

 足を止めて声の方を見ると、アメリカ人の観光客らしき老夫婦がガイドブック片手に近寄ってくる。

 ちょっと太目の奥様が、大きく開いたページを私に向けて指差した。そっと覗き込んでみると、なるほど、ろっぽんに行きたいらしい。

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