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イジワル専務の極上な愛し方

花音莉亜

専務は私の苦手なタイプです (1)

専務は私の苦手なタイプです


あやって、いいよね。イケメン専務の秘書なんだから」

 出勤時、エレベーターで一緒になった同期にそう言われ、苦笑いをするしかなかった。

 私の仕事は、大手メディア企業の専務秘書。専務は、なかしょうさんといって、二十八歳の若きイケメン御曹司だ。お父さんが社長で、二歳年上のお兄さんは副社長をやっている。副社長も、社内で有名なイケメンだ。

 たしか、年子の弟さんもいるはずで、今はグループ会社の副社長をしているとか。

 彼の少し垂れた目元は綺麗な二重まぶたになっていて、鼻筋は通り適度な厚みの唇をしている。

 真っすぐ上がった眉が、甘さのなかにもキリッとした印象のあるルックスを演出していて、アイドル顔負けの華やかさがあった。とにかく、華麗な家庭環境にいる人で、さらに見た目も完璧だから、女子社員で狙っている人は多い。

 だから、そんな専務の側にいる私が、同期から見たらうらやましいらしい。

 でも、現実はそんなに綺麗じゃない……。

「あー、そうだねー。一緒に、レストランに行こうか? また、電話するよ」

 電話を切った専務は、途中になっていた食事を終わらせた。ここは、取引先からの帰り道にあるオーガニックカフェのお店。

 そこで、私たちは遅い昼食を取っていた。

「専務、本当に電話をされるんですか?」

 食後のカフェラテを飲みながら、半ば呆れたように彼を見る。すると、専務は涼しげな表情で首を横に振った。

「いいや。会う気もないから」

 まただ……。曖昧なことを言って、自分に言い寄る女性を交わしてる……。

 専務は、社交的な性格で、人脈が広い。その分、女性との関わりも多くて、今みたいに業務中だというのに、女性から電話がかかってくることも少なくなかった。それも、どこかの社長令嬢だったり、ときにはモデルさんもいるから驚きだ。さすが、イケメン専務はモテるんだなと感心するけれど、その女性たちと軽いノリで会話をしていることに嫌悪感があった。

 そういう思いもあり、みんなが想像するほど、専務と一緒にいることに〝特別感〟はない。

「それでしたら、きっぱりお断りをされたらいいのに……」

 どうして曖昧な返事をするのだろう。さっきだって、また連絡すると言えば、相手の女性だって期待を持つかもしれない。

 そういう感じであしらうことが多く、よく今まで女性関係で大きなトラブルになっていないなと、ここも感心してしまっていた。

「きっぱり断っても、しつこいんだよな。また連絡するって言ったほうが、意外と自然消滅できるんだよ」

「そうなんですか……?」

「そうだよ。向こうは、俺から連絡するのを待ってる。俺が連絡すると言った以上、鬱陶しいと思われたくないから、自分からは電話をしない」

 だから、自然消滅ができるってこと? ほとほと呆れてしまうような理屈に、返す言葉もない。専務秘書になって三カ月、総務部の頃では見えなかった専務の〝素性〟を知るたびに、ため息が出そうになってくる。

「そろそろ、出ましょうか?」

 夕方からは役員会議で、準備をしなければいけない。腕時計で時間を確認すると、専務が立ち上がって伝票を手に取った。

「あっ、専務。ここは、領収証をもらいますので、私が支払います」

 役員の外回りは、ランチが経費で落ちることになっている。専務が知らないはずがないのにと、不思議に思いながら私も立ち上がると、彼はあたり前のように言った。

「俺が払う。経費の節約だよ」

 ひらひらと伝票を私に見せた専務は、足早にレジへ向かう。

「えっ、でも……」

 経費で落ちると思って、あまり値段を考えずに頼んでしまった。心地悪さを感じながら、彼を小走りで追いかける。

「気にしなくていいよ。値段もな」

 肩越しに振り向いた専務は、意地悪そうな笑みを浮かべてそう言った。

「あ、ありがとうございます……」

 心の内が見透かされたようで、恥ずかしい。それなら自分の分は、自分で払おうと財布を取り出すと、横目でそれを見た専務がムッとした表情になった。

「いいって言っているだろう? 田辺さんの歓迎会もしていないから、その代わり」

 支払いを終えた専務は、さっさとお店を出る。私は遅れまいと、あとを追いかけた。

「本当にいいんですか? すみません。ありがとうございます」

 歓迎会といっても、普段は専務や取引先の方以外と接する機会は少ない。まさか、専務とふたりで……というわけでもないだろうし、今のは気を遣ってくれたのかな……。専務の好意は素直に受け取り、財布を鞄にしまった。

「なあ、田辺さん」

 パーキングに停めてある車に向かいながら、ふと専務に声をかけられた。

「はい、なんでしょうか?」

「今度、一緒に晩ご飯でも食べにいく?」

「えっ!? 突然、なにを言っているんですか?」

 てっきり、会議のこととかを聞かれるのかと思っていたのに、食事のお誘い……? 怪訝な顔で専務を見ると、彼にクックと笑われた。

「そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいだろう? 田辺さんって、不思議な人だな。ラッキーとか、思わないわけ?」

「思いませんよ。それより、夕方からの会議について、ご連絡事項がありますので」

 呆れかえりながら、歩みを進める。さっきは、専務の気遣いを垣間見れたようで、少しうれしかったのに。

 車には、運転手さんが戻ってきていて、私たちに気づいて後部ドアを開けてくれた。

 取引先へ向かうときは、車は会社から出してもらえる。専用の運転手がついているのは、万が一の事故等があったときでも、車を降りて取引先へ向かえるから。

 だから今日も、社用車を使っていた。

「はいはい、分かったよ。じゃあ、連絡事項を聞こうか」

 後部座席にのった専務は、腕を組んで私を恨めしげに見た。なぜ、恨めしげに見られているのか分からない。けれど、専務の態度に、さすがに緊張してしまう。

 私が秘書になる前も、若い女性社員が秘書として携わっていた。だけどその人は、一年足らずで切られたと噂されている。

 その理由が、〝専務の気を悪くしたから〟だとか。もちろん、あくまで噂だけれど、まさか彼の誘いを断ったから……とか?

 専務の秘書という仕事に、特別こだわっているわけじゃない。

 でも、総務の一事務職から役員秘書になれたのは、私自身とても自信になっていた。

 取り立てて、人より秀でるものを持っていない私にとって、仕事で評価をしてもらえるようになったのは本当にうれしいのに……。

 私が専務からの誘いを断ったことで、自分も秘書を辞めさせられるかもしれない? そんなことがあるはずないと思うけれど、今の彼のムスッとした態度を見ていると、疑いたくなってくる。

 とはいえ、私は彼のご機嫌取りをして、秘書として評価されたいわけじゃない。そんなことは全然、納得がいかないもの。

「田辺さん? 連絡事項は?」

 専務の声に、ハッと我に返る。タブレットを取り出し、スケジュール帳を開いた。

「すみません。まず、二時からですが……」

 余計なことを考えるのはやめよう。もし、噂どおりだったとしても、気のりしない誘いを受け入れる必要はないわけだし。車内でスケジュール確認をしながら、私はどこか悶々とした思いを抱えていた――。


「それでは、会議中にかかってきたお電話については、のちほど折り返しでよろしいですか?」

「ああ、それでいいよ。たぶん、五時くらいには終わるだろうから」

 タブレットを持った専務は、ジャケットを羽織ると時間を確認していた。

 オフィス内にいるときは、専務はたいていスーツのジャケットを脱いで仕事をしている。部屋を出るときや、来客があるときは、ジャケットを着るのだけれど、その着るときの仕草が妙に色っぽい。

 軽やかに、さっと腕を通していて、つい惚れ惚れしてしまいそうになる。専務の派手そうな女性関係さえなければ、私も一ファンにはなっていたかもしれない。

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