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許婚同盟!彼と私の共同戦線

七里瑠美

第一章 建前の許嫁から本気の恋へ (3)

 ──っていうか、こっち見た!

 こっちというより──彼女が見たのは礼一だ。芸能界にいる彼女なら美形を見慣れているだろうに、立ち止まった彼女の視線は間違いなく礼一をとらえていた。

「人気って言われても、俺が知るわけないだろ」

 礼一を見たMaikaは、隣にいる萌香を見る。それからもう一度礼一に視線を向け──思い直したようにまた歩き始めた。

 優雅に歩き去る彼女の姿と、ヒールの靴でふらふらしている自分を見比べてため息を一つ。

「やっぱり、私、場違いじゃない? いや、今さらではあるんだけど」

 先ほど礼一は、なんてことないみたいにウェルカムドリンクを受け取っていたのに、隣にいた萌香はおたおたとしてしまった。やっぱり釣り合ってない気がする。

「場違いなはずないだろ。今日の萌香はすごく可愛いし、俺が選んだドレスも似合ってる」

 やっぱり、今日の彼はいつもと違う。今まで、こんな嬉しそうな目で彼が萌香を見ることはなかったように思う。

 なんというか──ドレスを選んでくれたのも彼だし、髪型もよくわからないうちに指示が出され美容師によって整えられていた。

 たぶんこういう装いをさせたかったということなのだろうけれど──こうも手放しで誉められると、何か裏があるんじゃないかという気がしてくる。

「そ、そうかな? それなら、いいんだけど……あと、誉めてくれてありがとう」

 口早に続けながらも萌香の目は、気を紛らわせるべく室内を忙しくさまよっていた。こういうおもはゆい状況に放り出されるのは、初めてだ。

 ──あ、あっちには、ぐれ選手がいるし!

 窓際で、男性だけで固まって談笑しているのは、有名なサッカーの選手達だ。確か、来年からは海外のチームでプレイするなんて噂もある。

「お前なあ、俺と一緒に来てるんだからよそ見するなよ」

 この会場には、萌香でも名前を知っているような有名人がたくさんいる。隣にいる礼一ももちろん素敵だけれど、普段人に囲まれることに慣れている彼らはやっぱり華やかだ。

「だって、これだけ有名人がいっぱい集まってるとこに来るなんてないもん。目の保養、目の保養」

 そこから、ぐるりと視線を巡らせれば、こちらに向かって歩いてくる人がいた。

「礼一! 来てくれたのか──そちらは?」

 向こうから歩いてきた背の高い青年は、どうやら今日の主催者らしい。

 黒のフォーマルスーツなのだが、シンプルなだけに品質の良さが際立って見える。声をかけてきた彼は、萌香の方に目をやった。

「お前が女性連れだなんて珍しいな。どこに隠してたんだよ、こんなれいな人」

「いえ……そんな」

 彼は親しげに礼一に話しかけたかと思ったら、萌香ににこにことした笑みを向ける。

「俺、みやざきつかさ。礼一とは、学生時代からの付き合いで──まあ、進んだ方面が全然違うんだけど。どう? パーティ終わったらまた後で飲む?」

 名前を聞いてやはり今日の主催者なのだと納得する。最近、若い年代向けのジュエリーで人気を博しているジュエリーブランドの社長兼デザイナーだ。

 もっとも、彼の作る商品は若い年代向けとはいえ品質もお値段もかなりのもの。萌香が買おうと思ったら、ボーナスをはたく覚悟すら必須となる。

 宮崎が、こちらに向かって手を差し出す。萌香も手を差し出しかけたけれど、彼の手を取ったのは、礼一だった。

「悪いね、萌香は俺のだから」

 ──いやいや、それってどうなのよ!

 萌香は心の中で突っ込んだ。浮かべた愛想の良い笑みは崩さないように苦労しながら。

 いくら『仲の良い許婚』アピールにしたって、握手の邪魔をするというのはどうなんだろう。

「なかなか会わせてくれないと思っていたら、本当に大事に囲い込んでるんだな。許婚がいるって話は聞いてたんだけどさ」

 宮崎の視線が、萌香を上から下まで往復する。その視線からは、難癖つけようとしているというより好奇心の方がはるかに大きいのがわかる。

 ──はい? 大事に囲う?

 大事に囲うって誰が誰を囲っているんだ。

 礼一の方に真意を問いただそうとした時、女性の声が割り込んできた。

「──礼一さん、あなたもいらしてたの? 会えて嬉しい。こういう会ではめったにお目にかからないものね」

 声をかけてきたのは、萌香と同じ年頃と思われる女性だった。

 白とピンクの二色を巧みに配したドレスを着て、首回りにはダイヤモンドを連ねたネックレス、耳元にはお揃いのピアス。そして、手首にもダイヤモンドと思われるブレスレットが輝いている。

 赤みがかった派手な色合いに染めた髪は、ルーズなスタイルに結ってあるけれど、ぼさぼさというわけではない。計算しつくされたセンスのあるルーズさだ。

 ──ゴージャス! セレブ!

 心の中で萌香は叫んだ。さすがに言葉にはできなかったので。

「こんばんは、森野さん」

 森野愛美。彼女こそ、今日、礼一がここに萌香を連れてきた最大の理由だ。

 相手の名前を聞いた萌香は、一瞬にして戦闘態勢をとる。

 ──とにかく、この人に引いてもらわないといけないんだよね。

 彼女の視線が、礼一の側にいる萌香を上から下まで往復した。あきらかに値踏みしている。値踏みされている。

 ──というか今、完全に私を自分より下に位置づけた!

 もちろん、最初から彼と釣り合っていると思っていたわけではないけれど、目の前で格下認定されるのは面白くない。

「こちらは、どなた?」

 愛美の声に不満の色がにじむ。

 萌香は彼女の視線を意識しながら、ゆっくりと礼一の方に身を寄せた。

 ふっと息を吐いて、愛美に向き直る。

 喧嘩上等。先に売ってきたのは、相手の方だ。

「私、松永萌香と言います。今日は、礼一さんに連れてきてもらいました」

 ──ちゃんとやらなきゃ。

 身をすり寄せただけではなくて、彼の腕に自分の腕を絡めてみせる。二人の仲を誇示するみたいに。

 それから、彼の方に甘い──そう見えればいいなと思いながら──とろけそうな笑みを向ける。

 その途端、ドキリとした。

 こちらを見る彼のまなざしも、いつになく甘く優しいのだ。

 真正面から見つめられて、顔から火が出るかと思った。

 負けてはだめだ。ここで目一杯二人の世界を作らなくては。

 二人の間には、誰も入れてやらないのだ。そんな気持ちを込めて、彼を見上げる。

 今までの相手なら、ここで引き揚げてくれた。けれど愛美は、その程度では引いてくれるつもりなんてなさそうだった。

「そう、それは素敵ね。私も、エスコートお願いしたら良かったかしら。礼一さんのお母様とは親しくさせていただいているんですよ? ──公私共に」

 公私共になんて、思いきり含みを持たせているじゃないか!

 萌香が口を開こうとしたのを、腰に手を回して引き寄せることで封じたのは礼一だった。

 そして愛美に向かって言い放つ。

「彼女は、俺がお付き合いしている女性なんだ。昔から、『許婚』なんて言われていてね。もちろん、俺と彼女の合意がなければ話を進めないってことにはなってたんだけど」

 彼の手に力が入り、さらに腰を引き寄せられる。距離が近い。

「ちょ──れいくん、こ、こういうのは──!」

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