話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

押しかけ御曹司の新妻にされそうです!

葉嶋ナノハ

押しかけ御曹司の新妻にされそうです! (3)

「ああ、本当だ。大丈夫だからね。僕に全部……任せて」

 途中まで私にっているらしい彼が、顔を苦しそうに歪ませた。彼も私同様、さっきから低い喘ぎ声を出している。そんなひとつひとつの動作も、夢心地の気分で私は見ていた。

 手を伸ばして彼の首にしがみつく。ゆっくりゆっくり、私のナカへ彼が挿入ってくる。

「あ、あ……」

 痛いけれど、我慢できそうな痛みだ。

「琉衣、大丈、夫……?」

「あなた、は?」

「僕は、よすぎて……大変だよ、イかないようにこらえるのが」

 彼が無理に笑った。その表情がとても切なくて……。

 お互いの名前を何度も呼び合って、好き、とか、愛してる、なんて言葉をかわして、体を動かした。

「琉衣、聞いて」

 ずいぶん長いこと揺さぶられていたようだ。いつの間にかセックスは終わったらしく、私は彼の腕の中でまどろんでいた。

「……ん……?」

 全身が熱で溶かされたアイスみたいに、とろとろになっている。もうずっと、眠くて眠くてたまらない。そろそろ限界だ。

「僕と、結婚してくれ」

「結婚?」

「君がいいんだ。君じゃなくちゃ、イヤだ」

「でも」

「お願いだよ、好きなんだ。愛してる……!」

 せっぱつまった声と、抱きしめる手の力強さに身を任せていると不思議な気持ちになった。

 ──結婚まで考えてくれるほど真剣に愛してくれるのなら、こんな私でも、幸せになれるかもしれない。

「琉衣。僕は本気なんだ」

「……」

「幸せにする。絶対に」

「……私でいいの?」

 眠くてたまらない。

「君がいい。だから、いいね?」

「……はい。よろしく……お願い、しま、す……」

「ありがとう……! 一生君を大切にするって、誓う──」

「……ん」

「琉衣……? 疲れちゃった?」

「……」

「眠ったのか。おやすみ。いとしい人」

 私は下りてくるまぶたの重さに抗えず、とうとう目を閉じた。

 プロポーズをされた私は……あなたの理想の女性なんかじゃ……ない……。


 ──途切れ途切れではあるが、昨夜の情事が私の頭を駆け巡った。彼との出会い、食事後に彼に誘われてバーへ行き、そして私がこの部屋に彼を呼んだ──。

「確かに私、あなたをここに誘って……、ああっ、もーっ! 恥ずかしいっ!」

 数々のやらかしを思い出して、顔から火が出そうだった。思わず布団に潜りこもうとしたが、彼の手に阻止される。

「よかった、思い出してくれて!」

 私を抱きしめる手にまた力がこめられる。

 昨日声をかけた時は着やせして見えた。けれど実際の彼の体にはしっかりと筋肉がついていて、そのギャップに魅力を感じてしまう。さっきから男性と裸の体をくっつけ合っているというのに、私の体も心も拒否反応を起こさないのは、昨夜ああいうことがあったからなのか。

「それで、どうなんだ? これはひと晩だけのあやまちで、君は僕を騙したのかな?」

「だ、騙したわけじゃないと思うんですが、その過程をよく覚えていないというか、記憶が途切れがちというか、その時はよくわかっていなかったというか……」

 バーに行った私は自らに禁じていたお酒を飲んでしまった。あれほど警戒して、口にするのをためらっていたお酒を、なぜか彼の前では飲んでしまったのだ。そこからの記憶が曖昧だ。

「僕を愛していると言ったじゃないか」

 ぐるぐる考えている間に、端整な顔に迫られていた。

「ちょっ、ちょっと待っ──」

「あんなに愛しあったのに、どうしてそんなにイヤがるんだ。ひどいよ、琉衣……!」

「ん……っ! んふぅ」

 唇が重なり、私の口中はあっという間に彼の舌にじゅうりんされてしまった。生ぬるく柔らかな舌が私の舌をむさぼっている。ゆうべ、同じようにキスした記憶が呼び覚まされた。

「んっふ、んっ」

 急激に体が熱くなる。息が苦しい。彼の苛立ちが激しいキスから伝わった。

「ん、はぁ……っ」

 唇が解放されると、耳や頰、首筋にまで彼の唇が這い回る。

「大好きだ、琉衣。目が覚めても僕の気持ちは変わらなかった。ひと晩だけだなんて残酷なこと、言わないでくれ……!」

「あっ、やっ……んっ」

 昨日会ったばかりの人と、こんなことをするなんて私の意志に反するのに……体に浸透してしまった彼の感触が私の体を昂ぶらせる。

 大きな手のひらが私の背中を優しく撫でた。何度も何度も。体をよじらせると余計に肌が密着してしまい、それに反応した彼の息が荒くなる。なんだか私まで変な気分に──。

「いや、ダメ……ッ」

 ハッとした私は、彼の胸に手を置いて思いきり押した。私に触れていた彼の手が止まる。

「まったく……傷つくなぁ」

 彼が大きなため息をいた。そういえばこの人の名前は……?

「私、本当にあなたと……最後まで、したんですよね?」

 かきくけこ、の行の名前だった気がする。かずと、かずや……違う。きいちろう……近い感じだ。くろう、違う。

「ああ。君の処女はいただいたよ」

「……っ!」

 にっと笑われて顔に血がのぼった。

「嬉しかったよ、ありがとう、琉衣」

 この甘い声を、ゆうべ何度も聞いた。

 痛い頭の中に意識を巡らせて、どうにかこうにか記憶を引っ張り出す。

 かきくけ……、けん。けんいち? けんいちろう……! そうだ、けんいちろうという人だ。歳は私より上だった。何歳差かは忘れてしまったけれど。

「しかし、本当にそこまで覚えてないなんて、どういうことなんだ?」

 がっかりした口調で彼が言う。

「……いえ、だいぶ思い出しました。あなたに誘われてバーに行った私は、かなりたくさんのお酒を飲んだんですよね?」

「いや、飲める人なら、あんなもんじゃないかとは思うが。記憶をなくすほどの量ではないよ。飲みすぎているようなら、その場で僕が止めている」

「違うんです……」

 一番してはいけないことを、やらかしてしまったのだ。

 私は顔に全く出ないタイプのだ。具合が悪くなることもないため、周囲には気づかれない。だが当の本人は飲んだことすらほとんど記憶に残らないくらいに、お酒に弱いのだ。

 お酒を口にした私は饒舌で、誰彼かまわず馴れ馴れしく接する女性になるらしい。学生時代にそれをやらかして、先輩や友人らにドン引きされた経験がある。それ以来、もう二度と飲まないと誓っていた。会社の飲み会ですら、ソフトドリンクで通しているのだ。

「ごめんなさい。こうなったのはすべて私がいけないんです」

「どうして謝るの」

「実は私、とてもお酒に弱くて……下戸なんです」

「えっ! ……噓だろう?」

 彼の表情で確信した。お酒を飲んだ私は、やはり饒舌で余裕のある女性になりきっていたのだ。

「お酒に弱いどころか、強そうに見えたでしょう?」

「ああ。まったく酔っているようには見えなかった。顔色は変わらないし、口調も足取りもしっかりしていた」

「昔からそうなんです。本当に……ごめんなさい」

「それじゃあ君は、酒の勢いで僕とこうなったって言うのか……?」

「え」

 強い視線を向けられて、思わず目が泳いでしまった。

 お酒に近寄ることすら避けていたのに、なぜ私は彼についていってしまったのだろうか。

 バーの前に彼と行った食事がとてもおいしかった。彼が話し上手で楽しかった。

「押しかけ御曹司の新妻にされそうです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます