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転生侯爵令嬢はS系教師に恋をする。

月神サキ

プロローグ (3)

「私も驚いた。でも、それだけルクレツィアのことが心配なんだと思う。良いじゃない。基本的には私が見るようにするから。そうすれば何も問題はないでしょう?」

「……そういう問題ではない。私がお前を行かせたくないのだ」

 愛妻家らしいレンの発言にシェラは口元を緩めた。

「ありがとう。そう言ってもらえてうれしい。でも、女生徒を迎えるのならやっぱり女性教員は必要だと思う。いろいろと女性同士にしか理解できないことも多いし。だからゼロというわけにはいかない。私が教師として行けば、王家は魔法学園の共学化に積極的だと思ってもらえるし、王族であるルクレツィアに教師も強くは言いづらいと思う。もし何かあっても私なら王太子妃という身分があるから遠慮せず間に入れるし、ね? 転ばぬ先のつえとでも思っていて」

 シェラの言葉にレンは眉を寄せた。

「……お前はたまにわけの分からない言葉を使う。アリシアには通じているところが不思議で仕方ないのだが……」

「アリシアは私の大事な親友だから。女同士、いろいろと通じ合えるの」

「面白くない……」

 レンは小さく首を振り、シェラの腰を引き寄せた。シェラは逆らわない。ほんのりと頰を染め、小さく夫をにらんだ。

「ヤキモチ焼き。実の妹にまで嫉妬してどうするの」

「嫌なものは嫌だ。……シェラ。話は戻るが、やはりお前が行く必要はないと思う。お前は私の妃なのだ。私のそばにいればそれでいい」

「レン。その件については散々話し合ったでしょう?」

「だが……」

 見るからに不満そうなレン。シェラはなだめるように口を開いた。

「ねえ、レン。私が行くのが一番良いって、本当は分かっているんでしょ」

「ああ。だが、そうだな。理性と感情が別なのだと理解するのはこんな時だ。何が正しいのか分かっていても実践はしたくない」

「もう、レンってば。そんなことばっかり言ってると子供みたい」

 クスクスと笑うシェラとムスッとした表情を崩さないレン。

 実に甘い、イチャイチャとしたやりとりに、レアンドロのこめかみがピクピクと引きつった。

「お二人とも。……申し訳ありませんがそのやりとり。まだ続くようでしたら、私は失礼させていただきますが」

 レアンドロの凍えるような声に、シェラは慌てて振り返った。

「あ、ごめんなさい。ええと、そういうわけだから、私がいない間はぜひあなたにお願いしたいのよ。ちゃんと私も学園に顔を出すようにするから。ね?」

「……分かりました」

 もとよりレアンドロに断る権利などない。納得したとは言いがたかったが、渋々了承を告げると、シェラは素直に喜んだ。

「ありがとう、助かったわ。あなたのことはテオからも推薦を受けていたから、ぜひお願いしたかったのよ。引き受けてもらえて良かったわ!」

「は? テオからですか?」

「ええ」

 あっさりと肯定が返ってきた。反射的にテオを睨むと彼はにっこりと笑った。

「当たり前じゃないですか。僕だって一緒に仕事をするのなら知り合いの方がいいですから。ほら、連携とかいろいろな面でも悪くない提案だと思うんですよね。あ、シェラ。僕が言った通りだっただろう? 断られたくなかったら、レンブラント殿下から言い出してもらった方が良いって」

「さすがテオ。こんなにあっさり頷いてくれるとは思わなかった」

「レアンドロ先輩は真面目だからね。王族の命令に逆らうわけがないと思ったんだ。特に殿下の命令ならね」

「友人だけあって詳しいわね。本当助かった」

「いいんだよ。僕にも関係のある話だからさ」

「……」

 相手は王太子妃だというのに、まるで友人同士のような気安い会話。通常ならあり得ない話にレアンドロが驚いていると、レンが面白くなさそうな顔で言った。

「……私の妃は事情があって、一時期魔法学園に在籍していたことがあるのだ。テオとはその時からの友人だ。面白くはないが、シェラが喜ぶからな。……仕方ない」

「そう、ですか……」

 ということは、シェラも男装をして魔法学園に潜り込んでいたということになる。

 この調子では男装して魔法学園に潜り込んでいた女性がごろごろ出てきてしまうなとレアンドロは思った。そういう意味でもいっそ共学にしてしまうのはありなのかもしれない。

 シェラと楽しそうに話していたテオがレアンドロの方に顔を向ける。

「あ、先輩。せっかくですから、学園で恋人の一人でも探してみればいかがですか? 侯爵家の当主がいつまでも独り身だというのも問題ですし、別にうちは教師と生徒の恋愛を禁止していませんから。むしろあそこなら貴族が多いから、先輩の身分に合った女性が見つかるかもしれませんよ?」

 テオの言葉にぴくりと頰が引きつった。声が自然と冷たくなる。

「全くもって余計なお世話ですね。まさか同じく独り身のあなたに言われるとは思いませんでしたよ」

「僕は貴族ではありませんから先輩とは事情が違います。気楽な独り身が許されるんですよ」

 返ってきた言葉に、少しだけ羨ましいと思ってしまった。

 テオの言うように、レアンドロは貴族。それも侯爵家の当主だ。当然義務として跡継ぎが求められる立場。つまりは結婚しなければならないのだ。

 それは分かっていたが、レアンドロはどうしてもそんな気になれなかった。実際何度も見合いを勧められたが、見合い用の絵姿をのぞく気にもなれず放置している。それは彼自身が、もともと同性愛者寄りの気質を持っていたというのも関係あるのかもしれない。学生時代、どうして女性であるアリシアを好きになれたのか、レアンドロにはいまだに分からなかった。

 黙り込んでしまったレアンドロに、レンが言う。

「まあ、結婚相手なんてものは出会う時には出会うものだ。無理に急ぐ必要はない。お前にもそういう相手がそのうちひょっこり現れるだろう」

「……とてもそうは思えませんが」

「大丈夫だ。私もシェラに会うまではそう思っていた」

「……」

 女嫌いで有名だったレンに言われると、レアンドロとしてもそれ以上は言えない。

 レンは話題を変えるように声を上げた。

「とにかく、ルシウスの妹は来週にはこちらへ来る予定だ。魔法学園で先に顔合わせをするから、ここにいるメンバーは全員必ず集まるように。分かったな」

「ええ」

「はい」

 シェラとテオが楽しそうな声で返事をする。シェラとはあまり付き合いがないので分からないが、テオはわりと変化を喜ぶ傾向があるから、素直に今の事態を楽しんでいるのだろう。

 ──やれやれ、面倒なことになった。

 レアンドロは皆に聞こえないよう、小さくため息をいた。

 それでもすでに命令を受けた後だ。フロレンティーノ神聖王国に忠誠を誓い、そこで働く者としては適当なは許されない。引き受けた限りは全力を尽くさなければならない。

 不承不承ではあるが、レアンドロもまた主君の言葉におとなしく頷いた。

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