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転生侯爵令嬢はS系教師に恋をする。

月神サキ

プロローグ (2)

 一児の母。可愛らしい容姿の、一見何もできないようにさえ見えるシェラだが、実は彼女こそフロレンティーノ神聖王国で一番と言ってもいい、戦える女性だ。

 氷魔法に天賦の才を持ち、精鋭ぞろいの魔法師団のメンバーたちにも引けを取らない実力。時折魔法師団と一緒に魔物退治にも出かけているらしい。魔法の手ほどきをしたのは他ならぬレン。彼自らが手塩にかけ、シェラを一人前の魔導師に育て上げたのだ。

 レンの方はといえば、彼はいわゆる天才型で、どんな魔法も遜色なく使えるオールマイティな男だ。だが特に得意なのは攻撃魔法。回復魔法を得意とする者の多いフロレンティーノ王家では珍しく、今代のフロレンティーノの王太子夫妻は戦闘特化タイプだった。

「今回の案は私ではなくシェラからのものなのだがな。最近は魔法学園の入学生も少しずつ減っているようだし、男女問わず優秀な学生のために門戸を広げるというのは悪くないと思った」

「今時女子禁制というのもどうかと思うしね。教育の機会は男女関係なく平等に与えられるべきだと思うわ」

 きっぱりと告げるシェラをいとおしそうに見つめるレン。

 慈善活動や子供の教育活動に熱心な王太子妃らしい提案だ。

 そこまで聞いて、レアンドロは口を開いた。

「お話は分かりました。ですがどうしてそれが、私が魔法学園の臨時教師をすることにつながるのでしょう。私も暇ではないのですが」

「お前はせっかちだな。話にはまだ続きがある」

 レンにたしなめられ、レアンドロは口をつぐんだ。

「今年の入学生の中に一人、お前に気にかけて欲しい生徒がいるのだ」

「私に?」

 レアンドロは問いかけるような視線をレンに向けた。レンは頷く。

「その生徒は外国からの留学生。ルクレツィア・フィリィ・エステバンという。名前で想像がつくとは思うが隣国エステバン王国の王女だ」

「エステバン王国というと……ルシウス殿下の」

「そうだ」

 エステバン王国王太子。フェルナン・ルシウス・エステバン。

 レンの親友でもあり、彼の妹アリシアを正妃に迎えた、プラチナブロンドの髪に神秘的な紫色の瞳をした美貌の青年だ。

 レアンドロが魔法学園に在籍していた頃、ルシウスは自らの身分を隠して魔法学園に通っていた。その際いろいろとあったがお互い全て水に流し、今は友人として付き合っている。だからもちろん妹の存在は知っていたが、まさか魔法学園に入学してくるとは考えもしなかった。

「確かにルシウス殿下とはそれなりに親しくさせていただいておりますが、私はルクレツィア王女殿下とはお会いしたことがありません。人選ミスではありませんか?」

「いや、ルシウスからの指名でな。お前になら任せられるとのことだった」

「ルシウスが……」

 反射的にルシウスの顔を思い浮かべてしまったレアンドロは、眉をぴくりと動かした。

 今は確かに友人ではあるが、ルシウスとは学生時代に同じ女性にれ、競い合った仲でもあった。

 男装してレジェス・オラーノと名乗り学生生活を送っていた、レンの妹姫であるアリシア。レアンドロは最初、彼女が女性とは気づかないまま好意を抱いていたのだ。

 そんな彼女を巡った争いの結末は、ルシウスの圧勝。アリシアは最初からルシウスしか見ておらず、彼と結婚して子供を設け、今は幸せに暮らしている。

 今更痛みを感じたりはしないし、嫉妬もないが、素直には接しにくい。

 間違いなく友人ではあるが、レアンドロにとってルシウスとはそんな存在だった。

「……好ましくはないと思います。何せ、ルクレツィア王女殿下は女性です。同じ女性にお願いした方が──」

 できれば積極的に関わりたくない。そんな思いから出た言葉だったが、レンに言葉を遮られた。

「同じく臨時教師として、シェラが行くことが決まっている。基本的にはシェラが彼女を担当するが、シェラは王太子妃だ。休めない公務も多くある。そういう時、代わりに見守って欲しいのだ」

「……」

 己のきさきを派遣するという言葉を聞き、レアンドロは抗議の言葉をみ込んだ。さすがに王太子妃が行くというのに自分が文句を言えるはずもない。

 嘆息していると、話を聞いていたテオが軽い口調で言った。

「何も一日中張りついておけってわけじゃないんですし、軽い気持ちで大丈夫ですよ、先輩」

「テオ。自分には関係ないと思って、適当なことを言ってくれますね。それならあなたが代わりにどうぞ。喜んで代わってあげますよ」

 名案だと思ったのだが、あっさりとやり込められた。

「あれ? もう忘れたんですか。僕は臨時教師なんかじゃないんです。れっきとした正規職員ですよ。一人の生徒だけ見るなんて不可能です。この件にはものすごく不向きだと思いますよ」

「……そうでしたね。忌々しい」

「先輩。本音がダダ漏れですから」

 相変わらずだなあとテオが苦笑する。柔らかな声がその場に響いた。

「ごめんなさい。私がずっと彼女についてあげられれば良いんだけど、さすがにそういうわけにはいかなくって」

「シェラハザード妃殿下……」

「あなたが適任なのは事実なのよ。それにね、ルクレツィアはアリシアの義理の妹だし、できれば私も気にかけてあげたいの。彼女はあまり身体からだが丈夫ではないようだから、特にね」

 アリシアと親友であるシェラらしい言葉だ。だが、レアンドロは不快げに眉を寄せた。

「健康に不安があるのに、わざわざ留学してくるのですか? それなら国でおとなしく静養していれば良いのに、随分と物好きな方ですね」

 レアンドロの強烈な嫌みを、シェラは苦笑いで流した。

「そんな言い方しないで。ルクレツィアにも理由があるんだから。彼女はね、その身体の弱さから召喚獣と契約ができないの。王家の人間だから魔力は十分すぎるほどあるんだけど、彼女には自らを守る手段がない。だからそれを心配した家族が、せめて通常の魔法だけでも使えるようになれないかってレンに相談したのよ」

 エステバン王国は多数の召喚士を抱える国だ。特に王族はほぼ全員が何らかの契約獣と契約している。いざという時の守りになるという意味もあるのだが、ルクレツィアは契約すらできないとのことだった。

「召喚士の契約は契約時にかなり術士に負担をかけるものらしいからな。相談を受けたタイミングが、ちょうど共学化の話を進めていた時だったので、それならと勧めてみた。規定の入学試験もギリギリではあったがクリアしたし、問題はない。同じく試験をパスした友人の侯爵令嬢と、後は専属護衛騎士も連れてくるようだからそこまで目をかける必要はないと思うのだが……いかんせんルシウスがうるさくてな。あいつがあんなに妹を大切にしているとは知らなかった」

 ぼやくようなレンの言葉に、シェラも「うん」と同意する。

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