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俺様御曹司の悩殺プロポーズ

藍里まめ

表と裏のある男 (2)

 俳優並みのしゅうれいな顔に、百八十センチ超えの高身長。ヘアアレンジができる程度のダークブラウンの短髪はナチュラルさを残し、爽やかで素敵だ。

 涼しげな目元には、小さなほくろがひとつ。知的で真面目な好青年風なのに、右の目尻にあるそれが魅惑的で、普段テレビでは見せない、とてつもない色気を秘めているのではないか……とファンの間で噂されているそうだ。

 事件現場のVTRが流された後、画面はまたスタジオの風原涼を映した。

 空腹なのに、私は箸を置き、彼の声にうっとり聞き入る。

《男は二十五歳から三十歳くらい。身長はおよそ百七十センチ。逃走した車は黒っぽい乗用車だということで、警察は殺人事件として行方を――》

 風原涼の声が好き。重くもなく軽くもなく、少し低めで伸びやかで聞き心地がいい。なにか考えごとをしている時でも自然に入り込むその声に、たちまち心が奪われてしまう。

 テーブル上には持ち帰った女子アナ特番の台本が置いてあり、それをチラリと見て残念に思っていた。司会者は有名男性芸人と、桜テレビ東京の人気女子アナ、がわと書かれていて、風原涼の名前はないからだ。

 この仕事を頑張るつもりでいるけれど、司会が憧れの彼なら、もっと張り切るのに……なんて。

 彼が素敵な声で読み上げるニュースを聞きながら、私は止めていた箸を動かし、お弁当の鮭フライを口に入れた。

 アナウンス業界の中心で活躍中の彼は、地方局の私などが到底近づけない遠い存在で、いつか肉声を聞いてみたいと憧れても、それが叶わないことはわかっていた。


 いよいよ東京での年末特番の収録の日がやってきた。

『道産子根性を見せてやるわ!』と気合い充分に乗り込んだはずなのに、建物に入る前の段階で、それは気後れに変えられてしまった。

 桜テレビ東京の社屋は巨大だ。東京の中心地とも言える場所に、北海道放送局の五倍はありそうな、十六階建てのビルがそびえている。すぐ隣に『さくらスタジオ』というしゃた十階建ての建物までついていて、その他にも東京の各地に小スタジオを持っているらしいから、驚かないわけにいかない。

 これが東京なんだ……なまら、すごいっしょ!

 完全にお上りさん状態で、田舎者らしい感想しか出てこない私は、物珍しげに辺りを見回しながら、建物内に足を踏み入れた。そして特番担当のADから指示された控室に入り、自分でメイクをし、用意されていた衣装に着替える。

 同じ控室にはあおもりあきの女子アナがいて、「北国同士、頑張ろうね」と笑顔で励まし合った。

 ホッとしているのは、このふたりも私と似たようなあかけない容姿をしているからだ。私ひとりだけ田舎くさかったらどうしようと心配したが、同類がいるなら大丈夫。その思いはきっとふたりも同じで、北国出身の私たち三人は意味ありげな視線でお互いを見比べ、ウフフと笑い合っていた。

 収録開始時間が迫り、出演者の私たちは長い廊下をスタジオへと移動した。収録が行われる五番スタジオに入ると、私は目にした光景に「わっ、すごい!」と感嘆する。

 テニスコート六面ほどの大きなフロアの真ん中に、豪華できらびやかなセットが組み立てられていた。セットの中央奥にVTRを流す大型モニターがあり、その横に司会者ブースと出演タレントの椅子が並んでいる。

 私たちの席はセットの左右に配置された、それぞれ三段のひな壇で、そこに総勢三十名の地方局の女子アナが順番に座っていった。北海道の私は向かって右側のひな壇の上段右端。近くに青森と秋田の女子アナがいるから、控室の部屋割り同様、日本地図に沿った席順となっているみたいだ。

 ディレクターが前に立ち、私たちに番組の進行をざっと説明してくれた。事前にもらっていた台本と変更点があったので、私はそれをしっかりと頭に刻みつけていた。

 いよいよだと思うと、鼓動が高鳴り、嫌な緊張感に襲われる。それで、気持ちをほぐすために青森の彼女に話しかけようと隣を見たら……驚いて声が出せなかった。なんと彼女は作り物の大きなリンゴを頭にのせ、落ちないように紐を顎の下で結んでいるのだ。

 慌ててひとつ下のひな壇に座る秋田の彼女を見れば、手にきりたんぽを持っているし、他の女子アナたちもそれぞれにご当地PRのアイテムを、着たり被ったり手に持ったりして、準備している最中だった。

 目立つために、みんな色々と考えてきたんだ。どうしよう、私だけなにも用意していない……。

 スタイリストが用意してくれた、お洒落なブラウスとカーディガン、オフピンクのスカートをただ着せられているだけの私に北海道らしさはじんもなく、収録が始まる前の段階で完全に出遅れていた。『北海道をPRしてこい』と言って私を送り出した、斎藤部長の顔が頭に浮かび、申し訳なさに胸が痛む。

 その時、スタッフの間からパチパチと、拍手が沸き上がった。

「ほな、よろしくたのんます!」

 大きな声の挨拶が聞こえ、スタジオに入ってきたのは、この番組のメイン司会者、イワシ。日本で知らない人などいない彼は〝イワシ師匠〟と呼ばれていて、かんむり番組を何本も抱えるおおさか出身の超大物芸人だ。

 大御所の登場に、出遅れた感にこだわっていられず、気を引きしめ直したら、続いてアシスタント司会者の女性が入ってきた。

 彼女は桜テレビ東京の人気女子アナ、佐川亜梨沙、二十八歳。

 チョコレートブラウンの長い髪を上品に結わえて、ワインレッドの清楚なワンピースを着ている。二重の大きな瞳と透き通るような白い肌、凛とした空気をまとっていても決してお高くとまっている印象はない。「よろしくお願いいたします」と挨拶する彼女の美貌と気品、にじみ出る知性に、私は一目で魅了されていた。

 これが選ばれし、東京の女子アナなんだ……。

 さらにタレント五人が入ってきて、全員が席に着いたら収録が始まった。明るいオープニングBGMに続いてイワシ師匠のタイトルコール。

「地元でしか放送されないけど、私たち、一生懸命女子アナやってます、年末二時間スペシャル!」

 佐川アナが番組説明を視聴者に向けて話した後は、私たち地方局の女子アナが早速いじられる。それぞれ考えてきたご当地ネタを披露しては、イワシ師匠が絶妙なツッコミを入れる。それに対してタレントが面白いコメントを返して、スタジオ内は一気にバラエティの熱気に包まれた。

『ご当地あるある』で盛り上がった後は、『女子アナ、ハプニング映像』に移る。

 セットの中央の大型モニターに、過去に地元テレビで放送された、私たちのミスやトラブルが流された。台本には大雑把に【ハプニング映像VTR→女子アナ、リアクション】と書かれていただけで、実際にどんな映像が紹介されるかは、私たちには知らされていない。

 にいがたの女子アナは、『足元にお気をつけて』と雪道でリポートしている最中に、自身が滑って転ぶというドジ映像。やまぐちの女子アナは、フグの薄造りを豪快に頬張りすぎたために、食レポできなかったという失敗体験。

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