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俺様御曹司の悩殺プロポーズ

藍里まめ

俺様御曹司の悩殺プロポーズ / 表と裏のある男 (1)




俺様御曹司の悩殺プロポーズ


表と裏のある男


 ここは『さくらテレビほっかいどう』という、さっぽろ市内の中心部にある放送局。

 スタジオAは生放送中で、まぶしいライトを浴びる私が、台本通りの台詞せりふで番組を締めくくる。

「ついに雪のシーズン到来ですね。皆さん、寒さに負けず、さんパワーで冬を乗り切りましょう。今週の『土曜ミルクカフェ』はおしまいです。また来週も見てくださいね。したっけね!」

 〝したっけね〟という言葉は〝またね〟という意味で、方言で締めるのはローカルテレビならではのこと。

 この放送局に入社して二年目の私が目指すのは、地元で愛されるアナウンサー。全国ネットで活躍する才色兼備で有能なとうきょうの女子アナとは、違う道を歩んでいる。北国のローカルテレビの女子アナは、美しさよりあいきょう、賢さより親しみやすさが必要なのだと、先輩に教えられていた。

 笑顔の私がカメラに向けて手を振ると、画面はCMに切り替わる。十五分の短い情報番組は終わり、すぐに技術担当者がセットを片付け始めた。

 スタジオの隅に立っているのは、プロデューサーのなかさん。四十五歳の人のよいおじさんといったふうぼうの彼に近づき、「お疲れ様でした」と笑顔を向けると、親指を立ててめてもらえた。

「バッチグー。また来週のミルカフェも、こんな感じで緩くいこうな」

 そんな気楽な評価をもらい、のんびりスタジオを出ようとしている私の背に、田中さんが思い出したように声をかける。

「おーい、はるっぺ。そういや、のりさんがオンエア終わったら来いって言ってたわ。確かに伝えたぞー」

 はる、二十四歳。入社してすぐ〝春っぺ〟と呼ばれ、その愛称は局内だけではなく、お茶の間にも届いている。

 そして私を呼び出した〝のりさん〟という人は……。

 その名前に、いくらか顔が強張った。

 さいとうのりあき、五十三歳。アナウンス部で部長を務める彼は、普段は優しくても怒るとかなり怖い。のんびりした社風の桜テレビ北海道の中では珍しく厳しい人だ。

 斎藤部長からの呼び出しということは、私はさっきの生放送でなにかミスをしたのだろうか? 冷や汗が流れる思いでスタジオを出て階段を上がり、三階のアナウンス部に入った。

 それほど広くない部屋に机が十六個、向かい合わせに並んでいて、空席もあれば、資料作りに勤しむ先輩もいる。

 それらの机を統括するように最奥にドンと構えているのが、斎藤部長のデスクだ。戻ってきた私を見て、部長がこっちに来いと手招きしていた。

 近づきながら、頭の中ではさっきの生放送の反省中。

 日本語の使い方がおかしかったのだろうか。それとも親しみやすさを意識しすぎて、視聴者から真面目にやれと苦情が来たとか……?

 お叱りの原因はわからないけれど、緊張して部長デスクの正面に立ち、「すみませんでした」と頭を下げた。すると部長が意表をつかれたように「あ?」と眉を上げた。

「春っぺ、なにかやらかしたのか?」

「い、いえ。きっとなにかやっちゃったんだと思って、謝ってみたんですけど……。お説教じゃないんですか?」

 半開きの口でポカンとしている私に、斎藤部長は肩を揺らして笑った。

「呼んだのは、叱るためじゃない。春っぺに新しいテレビの仕事だ」

 その言葉に私は目を瞬かせてから、飛び上がって喜んだ。

 レギュラーは先ほどの短い情報番組だけで、ニュースはまだ読ませてもらえず、たまに舞い込むリポートの仕事や、イベント司会をしている私。テレビに映る仕事は先輩女子アナに比べてかなり少ないので、期待に胸が膨らむ。

「やります。やらせてください。精一杯、頑張ります!」

 仕事内容も聞かないうちから、やる気をみなぎらせ、頭には田舎の家族の顔が浮かんでいた。

 私は北海道の北東にある農村の出身で、八人家族の中の、とりわけ祖父母が私の活躍を楽しみにしてくれている。土曜ミルクカフェは欠かさず見てくれて、『うちの小春が、テレビさ映ってる』と喜んでくれるのだ。

 家族だけではなく村のみんなも応援団。大学からは札幌に出てきて村を離れているというのに、子供の頃からの憧れだった女子アナの入社試験に合格した時には、『おらが村からスターが出た!』と言って、村民総出の祝賀会を開いてくれたものだった。

 家族と、村のみんなに新しい私の活躍を見せられると意気込んだら、斎藤部長におかしなことを言われた。

「それじゃ頑張ってこいな。東京で、できるだけ北海道をPRしてこいよ」

『東京で』と思いがけないことを言われて、私は「え?」と聞き返す。すると部長はノートパソコンの画面を見ながら補足してくれた。

 その仕事とは、桜テレビ北海道の親玉的存在である、『さくらテレビとうきょう』の年末特別番組。系列局の地方女子アナを集めて、バラエティ特番をやるらしく、それに私を出演させるというのだ。

 聞いた途端に、やる気も期待もしおれていった。

 東京は嫌。だって……東京って怖い。

 私の容姿は、いわゆる女子アナというイメージではない。肩までのストレートの黒髪は、飾り気がないのが自分らしいと気に入っていても、華やかさが足りないと自覚している。加えて特徴のないこの顔。やや丸顔で鼻が小振りで幼く見られがちという以外は、普通としか言い表しようがなく、身長体重も標準サイズだ。

 そんな私が才色兼備の東京の女子アナと並んだら、ミジンコかゾウリムシに見えてしまうことだろう。惨めな思いをしそうなので行きたくない。

 出演者に私を選んだ理由もわからない。後ろでデスクワーク中の先輩たちの方が、私よりずっとテレビ映えのする綺麗な顔をして、女子アナとしての力量ももちろんあるのに、どうして?

 完全に怖気づいた私に、斎藤部長はあくびをしながら言った。

「スケジュールが空いてるの、春っぺだけなんだわ。まぁ、特番だから一回限りだし、気楽にいけや。ひなだんに座ってニコニコしてればいいから。なるべくなら目立って北海道PRをしてこいと言いたいが……ま、そのへんは適当に」

 先輩アナじゃなく私が行かされるのは、暇だから……。

 その理由に肩を落としたが、すぐに思い直して手を握りしめた。

 これはチャンスだと思おう。一回限りの特番でも初の全国放送デビュー。これを機に、ローカルテレビでの活躍の幅も増えるかもしれないし、ありがたいと思うことにしよう。

 よし、ひな壇に座る地方局の女子アナの中で、一番目立ってやろうじゃない。

 北海道のために、私自身のために、その仕事を一生懸命にやらせていただきます!


 その後は、五日後の特番の収録に備えて資料作りをしてから帰ってきた。

 ひとり暮らしの1DKの狭いマンションに着いたのは、もうすぐ二十二時という時間。床に座り、ローテーブルにコンビニ弁当を広げてテレビをつけると、『スクエアニュース・サタデイ』が放送中だった。

 今朝都内で起きたせいさんな刺殺事件を伝えているのは、桜テレビ東京のかぜはらりょう、三十歳。ここ数年、『好きな男性アナウンサーランキング』で首位を独走している、桜テレビイチ押しの人気アナウンサーだ。

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