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華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情

葉月りゅう

鳥籠から飛び出して (2)

 唯一決められているのは、将来、クラマイン王国の王太子と結婚するということ。そのためだけに必要な存在なのかもしれないと思うと、とても悲しかった。

 私でも、役に立つことができるのだと証明したい。今回のことはお父様のためだけじゃなく、自分のためでもあるのだ。

「だから、今回は私が力になりたいの。お願い。無理はしないから」

 まっすぐお姉様を見つめ、懇願した。

 黙って話を聞いていた彼女は、目を伏せて再びため息を吐き出す。しかし、その表情は先ほどより険しくはなく、諦めがうかがえる。

 少し目線を上げたお姉様は困ったように笑うと、私の肩に手を置いた。

「まったく……リルーナは意外と頑固よね。芯が通ってて、度胸もあって優しくて……私の自慢の、素敵な妹」

 彼女の柔らかな声と微笑みが、私の胸をじんとさせる。こんな私を自慢だと言ってくれるのは、お姉様だけだ。

 私も笑顔を返せば、お姉様はもう一度張り詰めた表情になり、りんとした口調でこう告げる。

「三日間よ。それまでに帰ってこなければ、兵を向かわせる。いいわね?」

「お姉様……」

 私の意志をみ取ってくれたことに感謝しながら、私も気を引き締める。

「わかった。ありがとう」

「絶対に帰ってくるのよ」

 私の両肩を掴んで真剣に言うお姉様にしっかりとうなずき、「必ず」と約束した。

 それからお姉様と話して、翌朝出発することに決めた。


 書庫で記憶を頼りに例の本を探し出したあと、すぐにベッドに入り、朝を迎えた。朝食を取ると、ソルレに頼んで用意してもらった、町娘が着るドレスに袖を通す。

 余計な装飾がなく、スカートのボリュームが抑えられた、ベージュ色のドレス。これなら目立たないし、馬にもまたがれる。

 一国の姫がひとりで城を、さらには国を出るなんてことが知られたら一大事だ。けれど、皆は私の姿をほとんど目にしたことがないため、いなくなっても気づかれにくい。だから、こんな大胆なことができるのだ。

 城にいる者の中でも、計画を明かしたのはお義兄様、ソルレと、もうひとりだけ。

 ソルレはとても心配していて、かなり引き留められたけれど、大丈夫だと押し切った。

 意外にもお義兄様はそこまで反対せず、『リルーナは勇敢だな。見直した』なんて、感心したように笑っていた。彼は幼少期にかなりやんちゃな子で、冒険心も強かったらしいから、共感してくれるのかもしれない。

 そして、お義兄様から事情を伝えられたもうひとりの人物は、ハーメイデン王国を守る騎士団の長・セアリエだ。

 私に一番懐いてくれている馬のメーラを連れていくため、城内にある馬小屋に向かうと、そこにはすでに体格のいいセアリエが腕組みをして待ち構えていた。

 私に気づいた彼は、整った眉根をギュッと寄せ、お怒りの表情でこちらにずんずん歩み寄ってくる。

「姫! まったく、なにを考えておいでですか!」

 私よりひと回り近く年の離れたセアリエは、金色の短髪とくっきりとした二重がれいで若々しく、そこまでの年の差を感じない。

 昔から私の教育係のひとりでもあったので、心が許せて、とても慕っている相手だ。だからつい、へらっと笑って適当なことを言ってしまう。

「メーラと隣の国までデートしたくなって」

「デートなら私がお相手いたします!」

 怒りながら勢い余ってそんなことを叫ぶ彼がおかしくて、私は思わず吹き出した。

 真面目で熱血漢で、正義感の強い彼だけど、たまに抜けたことを言うのよね。そこがおもしろくて、好き。親戚のお兄ちゃんのような感覚だ。

「セアリエとは、デートっていうより社会見学になりそう」

 クスクスと笑いながらそう口にすれば、彼は少しあきれたような調子で「茶化さないでください」と注意した。そして真剣な表情になり、重い声色で独り言のようにこぼす。

「ひとりでクラマインへ行って薬草を見つけてくるなんて、無謀にもほどがある……」

「馬の乗り方を教えてくれたのはあなたでしょう。今その経験を生かさないでどうするの?」

 私は小屋の奥へ進み、あいきょうのある茶色い雄馬の顔をでながら言った。

 城の中でさまざまな教育を受けてきた私は、馬術もセアリエから教わっていた。そこで相棒になったのが、気性が穏やかなこのメーラ。私が命令することはちゃんと聞いてくれて、どんなときも絶対に振り落としたりしない。

 メーラをつないでいる鎖を外そうとしていると、セアリエが厳しい顔をしてくぎを刺す。

「城の中で訓練するのとはワケが違うのですよ。姫様は外の危険をわかっていない」

「危険も、外の世界の美しさも知らずに、年老いていくのは御免だわ」

 彼の言葉に、少し強めの口調で返した。

 セアリエが押し黙ってしまったので、私は少し苦笑を漏らしてつけ加える。

「皆にほとんど知られていない私がいなくなったって、困ることはなにもないしね」

「私が困ります」

 きっぱりと言い放った彼は、わずかに眉尻を下げ、苦しげな表情を見せる。

「もしもあなたになにかあったらと思うと、心が切り裂かれるくらい苦しい」

 とても心配してくれている姿を見ると、私も少し胸が痛む。

「……心配しないで。あなたのためにも、必ず戻ります」

 安心させるように柔らかく微笑むと、彼の表情も少しだけほぐれたように見えた。

 それから、もう一度お姉様たちに挨拶をしたあと、少しのお金と食料を持ってメーラの背中に跨がった。

 時刻は午前八時。クラマインに着くには、おそらく六時間ほどかかるだろう。

「メーラ、これからよろしくね」

 たてがみを撫でながらひと声かけ、返事をするように鳴いた彼のお腹を蹴る。

 不安と期待、そして必ず薬草を見つけて帰るという意志を胸に、私はついに城を飛び出した。

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