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極甘ウェディング~ようこそ、俺の花嫁さん~

未華空央

極甘ウエディング~ようこそ、俺の花嫁さん~ / 異国での大失態 (1)




極甘ウエディング~ようこそ、俺の花嫁さん~


異国での大失態


 古くから、教会の下には悪魔が住んでいるという言い伝えがある。

 バージンロードには花嫁を守るための白い布が敷かれ、そこには真っ白なが咲き乱れるように祭壇までの道を飾る。

 そびえ立つチャペルの扉が開いたその瞬間は、新婦の誕生を表していると言われている。

 バージンロードを歩んでいくその一歩を、今まで育んできた一年とし、ゆっくりと進んでいく。

 祭壇の前で待つ新しいパートナーへと向かって、幸せを噛みしめながら……。

 そのバージンロードを、私は毎日眺めるだけ。

 私がそこを歩むことは、きっと、ない――。


『余興をされます、新婦様ご友人への準備の声かけ、完了です』

「――了解」

 インカムからの連絡を受け、会場を見渡す。真っ赤なドレスにお色直しをした新婦の周りを、記念撮影に訪れた参列者が取り囲んでいる。

 足早に会場脇で待機するホールスタッフのもとへと向かい、次に出す料理の準備の確認へと入る。次に出るのはローストビーフのメインディッシュプレートだ。

 ブラックのパンツスーツに身を包み、胸まである髪はきっちりとまとめ上げ、首元にはパールのネックレス。インカムを装着すると、ピリッと身が引きしまる。

 このくせになる緊張感が、私はたまらなく好きだ。

 ウエディングプランナーとして働く私――かしわのどかは、二十一歳になった年からこの仕事に就いて、早くも七年目へと突入する。

 高校を卒業してからブライダル系の専門学校へと進み、すぐに『Joジョー Houseハウス Weddingウエディング』へと入社した。

 ここは、私の父方の叔母である、じょうすみが立ち上げた小さなハウスウエディング会社。ホテルや専門式場のような大々的な結婚式場とは違い、外国の一軒家を思わせる洋館を丸々貸し切って行う結婚式のスタイルで、まだハウスウエディングがメジャーになる前から、かれこれ三十年ほど営んできている。

 親族や、親しい友人たちに祝福された温かい結婚式を挙げたい。派手ではなく、ささやかでも心に残る結婚式を……。

 そんな想いを抱いてうちの式場の扉を叩くカップルは、年々増え続けている。

 社長である澄子叔母さんは、私にとっては母親同然の存在でもある。幼い頃に事故で両親を亡くした私を、父の妹である澄子叔母さんが引き取り、女手ひとつで育ててきてくれたのだ。

 子どもの頃からそばで澄子叔母さんの仕事を見てきた私は、望まれなくてもウエディングの仕事に自分も就きたいと自然と思うようになっていた。

 そして今は、澄子叔母さんのもとでその仕事に力を注いでいる。


 披露宴はクライマックスを迎え、落とされた照明の中、新婦の読み上げる両親への感謝の手紙で会場は感動に包まれる。

 新婦の腰をしっかりと抱き、寄り添って新婦の口元にマイクを添える新郎。

 そのマイクに向かって、一文ずつ大切に想いを口にする新婦の目からは、大粒の涙が溢れ出す。

 会場後方に揃って立つ新郎新婦の両親は、ふたりの姿をまっすぐに見据えている。新婦の父親が涙をこらえ、天井を仰ぎ見る姿に涙を誘われた。

 手紙を読み終えると、会場のあちこちで涙をハンカチで押さえる参列者が目に留まる。両親へぞうていされる花束がスタッフから新郎新婦に手渡され、会場の感動は最高潮の盛り上がりへと達した。


「本日は、本当におめでとうございました!」

 式がすべて終わり、私は新郎新婦の控え室に訪れていた。

 これから二次会へと向かうふたりは、その準備を終えたところだ。

 式の中盤から真っ赤なドレスに身を包んでいた新婦は、二次会ではホワイトのミニスカートドレスを着る予定になっていて、それに合わせたヘアメイクにお色直ししていた。

「とても温かい、素晴らしいお式でした。感動しました」

 先ほどまでの感動の場面を回想し、ふたりに微笑みかける。

 参列している誰もが笑顔になれる、幸せ溢れる結婚式だった。半年近く一緒に準備してきた私にとっても、今日という日は感慨深い。

 私の言葉に、笑みを浮かべていた新婦は顔をゆがませた。

「柏さんが僕たちのプランナーさんで、本当によかったです」

 今日までを振り返ったように、新郎はしみじみと感謝を口にする。

 私は恐縮して「いえ!」と首を振った。

「何軒も式場回って、柏さんになら、私たちの結婚式をお願いしたいって、思えたんです」

「そんな……至らないところもあったのに」

「そんなことありません! 本当に、ここで挙げられてよかった。一生の思い出になりました」

 満面の笑みを浮かべた新婦の目からは、ポロポロと大粒の涙が溢れ出していた。

 そんな姿に、私のるいせんも緩みそうになってしまう。

「私こそ、おふたりの大事な日をこうして見守らせていただき、本当に幸せでした。どうぞ末長くお幸せに」

 ふたりから贈られる感謝の言葉。

 式を終え、誓いを交わしたふたりの最高の笑顔を目にすることが、この仕事の喜びであり、私のやりがい。

 どの結婚式にもそれぞれのストーリーと感動がある。

 私は、その瞬間に立ち会える、最高の仕事をしている。


 その日のすべての仕事を終え、自宅に戻ると、今日の式の素晴らしさをを文章に起こす。

 開いたパソコンの画面には、新郎新婦の仲睦まじい姿と、共に画面に収まる私の姿が写っている。

 今日の式の様子を撮影させていただいた写真を眺めながら、またひとり画面に向かって笑みがこぼれていた。

 私が式場の記録として残している『ウエディングプランナーのどちゃんのHappy Wedding Blog』。許可をくださったお客様の式の様子や、私がお手伝いさせていただいた式のこだわりなどを掲載している、うちの式場の運営ブログだ。

 このブログが大変いいとの声を多くいただき、今では私の大事な仕事のひとつとなっている。仕事というよりは、私自身が一番楽しく記事を作っていて、趣味のようになっている感じだ。このブログを見て、うちの式場に訪れてくれるお客様も非常に多い。

「のどか……?」

 部屋のドアから声が聞こえて振り返ると、中を覗くようにして澄子叔母さんが立っていた。

「起きてたの。ノックしたんだけど、声がしなかったから」

「あ、ごめんね。気付かなかった」

「ブログ、書いてたの?」

 ドアを後ろ手で閉め、間接照明のみが灯る薄暗い部屋へと澄子叔母さんは入ってくる。私が掛けるデスクの横まで来ると、画面の中を覗き込んだ。

「今日も、いい式だったわね」

「うん……幸せおすそ分けしてもらえた」

「そうね……のどか、いつもありがとうね」

 澄子叔母さんはにっこりと微笑み、見上げた私の頭を撫でてくれる。

 子どもの頃から変わらない優しい眼差しに、ほんわかと心が温まる。

「それは私のセリフでしょ? 澄子叔母さんが、私にこの仕事の喜びを教えてくれたんだから」

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