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ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~

餅月望

第 二 話◆ミーアの嫌いなものと記憶の中の声 (1)

第二話 ミーアの嫌いなものと記憶の中の声

意識を取り戻した後も、ミーアはぐったりとベッドに横たわったままだった。だらんとだらしなく手足を投げ出し、

「気分が……優れませんわ」

食事ものどを通らなくって、ろくにランチを食べることができなかった。

あれは、悪夢だったと信じたい。

けれど、その割には残っている記憶はリアルで、こうして血染めの日記帳を見てしまった後となっては、とても夢だとは思えなくなってしまった。

「うー……」

うなり声を上げ、ごろごろ、ごろごろ、ベッドの上を転がる、転がる。

悩み、悩み、悩むこと……三十分。

「……お腹がすきましたわ」

ぐぅ、とお腹が鳴った。

昼食を辞退してから、一時間もたっていなかった。

「そうですわ、たしか物を考える時には甘い物がいい、と聞いたことがありましたわ」

ぽん、と手を叩く。

こいつはいいアイデアだ! と、その顔がぱぁっと明るくなる。

スタスタとベッドから降りると、ミーアは自室から飛び出した。


ミーアたち、皇帝一族が暮らすのは白月はくげつ宮殿と呼ばれるお城だった。

緑金グリーンゴールド白月石はくげつせきに飾られた廊下、絢爛豪華けんらんごうかな装飾は、没落する前、繁栄の絶頂期の帝国の姿そのものだった。

とてとてと廊下を歩き、やってきたのは、四つある食堂の一つ、白夜の食堂だった。

広い部屋に入ると、中にいた男が怪訝そうな顔を向けてきた。

「これは、ミーア姫殿下、いかがなさいましたか?」

クマのような大きな体と、もこもこのヒゲという特徴的な顔を見て、ミーアは少しだけ驚く。

──こいつは……、たしか、わたくしがクビを言い渡してやった料理長じゃなかったかしら?

嫌いな野菜ばかりを出してくる料理長に、ミーアがクビを言い渡したのは、彼女の十四歳の誕生日の時だった。

「今から二年後ぐらいかしら……」

「あの、なにか?」

「いえ、なんでもありませんわ。お腹がすいたので、おやつを用意していただけるかしら? ムーンベリーのパイなんか素敵ね」

それを聞くと、料理長は渋い顔をした。

「まことに言いづらいことなのですが、お昼の食事をされずに、おやつを出すというわけにはいきません」

その言葉が、なんだか懐かしく感じてしまい、ミーアは思わず微笑んでしまう。

思えば、こんな風にミーアに意見してくれたのは、彼だけだったのだ。

彼の後に来たシェフは、ミーアの言うとおりの物を作ってくるだけだったから、結局、ミーアは飽きてしまった。なんでも自分の思い通りというのは、それはそれでつまらないものなのだ。

「そうですわね。でしたら、お昼の残りでよろしいから、出していただけるかしら?」

「は?」

ミーアの言葉を聞いて、なぜだか、目をまん丸くする料理長。

「なにか?」

「いえ、なんでもありません。それでは、ただいまお持ちいたします」

大して時間がたたないうちに、ミーアの目の前に料理が並んで行く。

ふんわりと香ばしい焼きたてパン、季節の野菜がふんだんに入ったシチュー、紅魚ルージュサーモンのマリネ、それに、フルーツの盛り合わせだった。

「ああ、懐かしいですわ、これ」

ミーアは、特に野菜たっぷりのシチューを見て、頬をゆるめた。

シチューには、しっかりと、ミーアが嫌いな黄月トマトまで入っている。

──この酸味が、ダメなんですのよね。

ミーアはスプーンに乗せた黄月トマトを見つめて。

──でも、これ、なんとなく美味しそうですわね。

ふいに、牢屋の中で食べさせられた物を思い出した。

歯が折れそうなほどに硬いパン。その表面にはカビのようなものまで生えていて、ボソボソしててとても食べづらかった。

時々出てくるシチューもどきも、何が入っているものか、灰色ににごっていて、使われている野菜は雑草じゃないか、と思うものだった。

マズイだけならまだしも、数日間、お腹が痛くなるのは、なんとかしてほしかった。

飢饉ききんが続いて食べ物がなかったと聞いてはいたけれど、あれは、ただの嫌がらせだったに違いない、とミーアは思っている。

その証拠に、ミーアが嫌いだと知って、しなびた黄月トマトのみの日もあったのだ。

──あれは辛かったですわ……。

無理やり口に押し込まれた時の、あの何とも言えない青臭さと酸っぱさとえぐみ……。

思い出すだけで鳥肌が立つ。

そこで、改めて目の前の黄月トマトに目線を戻した。

──あの時の物と比べると……、なんだか、すごくツヤツヤしてますわ。

残すつもりでいたミーアだったが、ほんの少し興味をひかれて、トマトの欠片を口に入れてみた。

瞬間、その瞳が、カッと見開かれる!

「シェフ! これ、シェフをお呼びなさい!」

ミーアの剣幕に、メイドたちが震えあがる。

「あっ、あの、ミーア姫殿下、いかがなさいましたか?」

「いいから、料理長をお呼びなさい!」

「なにか、お気に召さぬことでも……?」

騒ぎを聞きつけて料理長が現れた。その顔は緊張で、いささか強張こわばって見えた。

「これは……、なんですの?」

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