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出来損ないと呼ばれた元英雄は、実家から追放されたので好き勝手に生きることにした

紅月シン

元英雄、気楽に辺境の地を目指す (1)

元英雄、気楽に辺境の地を目指す

──アドアステラ王国ヴェストフェルト公爵領ノックス。

アドアステラ王国の中でも南端に位置するヴェストフェルト公爵領の中で最も栄えているその街の中を、ローブを目深に被った人影がひっそりと歩いていた。

賑わっている中にあってその姿に人々からの注意が向かないのは、ここではそういった者は珍しくもないからである。

他国の国境に近いことや辺境と呼ばれる地がすぐそばに広がっていることもあり、様々な事情持ちが流れてくるのだ。

しかしそういった者達の末路は大抵が同じである。

ここにも自分達の居場所がないことに気付くと、早々に街を後にすることになるのだ。

そしてローブ姿の人物もまた、そうであった。

街の外へと向いて進んでいき、そのまま城門をくぐり抜ける。

そうして一度も振り返ることなく、歩き続け──。

「んー……まさか本当に処分しに来ると思ってたわけじゃないけど、何もないってのは予想外だったかなぁ。絶対何かしらのことはしてくると思ったけど……まあ、何をしてこないっていうんならそれに越したことはないか。それなら好き勝手やるだけだしね」

と、不意に呟くと共に、一度だけ振り返った。

だが僅かに目を細めるも、すぐに前方へと向き直る。

おもむろにローブのフードがはらわれ、中から現れたのは少年の顔であった。

少年──アレンの顔は、心底晴れ晴れとしたものだ。

つい先ほど実家から追放されたばかりだというのに、その姿からはそんな雰囲気はまるで感じられない。

そう、アレンが実家から追放されたのは、本当につい先ほどなのだ。

その足でこうして街の外にまで出てきて晴れ晴れとしているなど、先日十五歳を迎えたばかりの少年とは思えない姿である。

とはいえ、それも当然だ。

厳密な意味で言えば、アレンは十五歳ではない──前世の記憶を持っているからである。

──転生者。

そう呼ばれる存在であり、アレンが妙に晴れ晴れとした様子なのもそのせいだ。

何故ならば、誤解を承知で言うのであれば、アレンはずっとあの屋敷を出て行きたいと思っていたからである。

アレンは前世では、英雄と呼ばれる存在であった。

文字通りの意味で世界を救った英雄だ。

しかし英雄だからといって華々しい生活だったというわけではない。

むしろ血みどろの日々だった方が多かったし、権謀術数けんぼうじゅっすう的な意味でもドロドロとしたものによく巻き込まれていた。

暗殺者に命を狙われるのは日常茶飯事さはんじで、心穏やかにいられた時間などほぼ存在しなかったと言っても過言ではないだろう。

しまいには折角世界を救ったというのに、人々から向けられたのは恐怖だ。

さすがに嫌になってしまい、アレンはその世界を去ることに決めたのである。

幸いにもと言うべきか、アレンにはその伝手つてと手段があった。

アレンの英雄としての力は、その世界の女神から与えられたものだったからだ。

世界を救うこととなったのも女神から役目を与えられたからであり、役目を果たした結果、アレンには何でも願いを叶えることの出来る権利が女神から与えられた。

かくしてアレンの願いは正しく叶えられ、こうして転生することが叶った、というわけである。

転移ではなく転生だったのは、どうせならば一からやり直したいと思ったからだ。

だがアレンの願い通りだったのは、そこまでであった。

「僕はあくまでも、平穏な暮らしを求めてこの世界に来たはずなんだけどなぁ……」

だというのに、何の因果か転生した先は公爵家だったのだ。

その時点で平穏な生活からは縁遠そうなのに、さらにアレンは気がつけば神童などと呼ばれるようになっていた。

そう、今でこそ出来損ないなどと呼ばれているアレンだが、かつては神童と呼ばれていたのだ。

それが、アレンが前世の記憶を持っていたからとかであったのならば、自業自得とも言えようが──。

「『レベル』や『ステータス』のせいだとか、当時はどんな嫌がらせかと思ったなぁ」

この世界は、神々と精霊に愛された世界と言われている。

その理由が、『レベル』と『ステータス』、そして『ギフト』だ。

『レベル』と『ステータス』は精霊から与えられ、『ギフト』は神々から与えられる。

故に、神々と精霊に愛された世界、というわけだ。

この話は一般教養と言って良い程度にはこの世界で広く知られていて、この世界の人々の宗教観にも強く影響している。

この世界には、宗教と呼べるものは一つしか存在していない。

所謂多神教ではあるものの、神からの恩恵というものを直接感じる事が出来るからか、複数の宗教が発生しなかったのである。

そして恩恵を感じるがゆえに、当然のようにこの世界の人々の信仰心は厚い。

もっとも、盲目もうもく的に信じているというよりは、自然なこととして受け入れている、といった方が近いだろう。

日々のかてを得られることを神に感謝することはあっても、狂信的に神のために何かをしようとするようなことはしない、というわけである。

少なくともアレンは、この世界ではそんな者達を見たことはなかった。

まあ、見た事がないというだけなので、『教会』あたりにはそういった者達もいるのかもしれないが。

『教会』とアレンはあまり関わり合いがなかったが、設立理由などを考えればいてもおかしくはない。

ちなみに『教会』とは、建物の名称ではなく、この世界で宗教を管理する組織の総称だ。

教皇と呼ばれる者を頂点とするが、実質的な権限はその下に就いている、この国に居を構える大司教が握っている……いや、それは今は関係のない話か。

要するに、宗教関係のことを一手に引き受けている組織が存在しているということだ。

当然のようにそこに所属している者達は信仰心が特に厚い者達なので、狂信者のような者達がいたとしても、不思議はない。

ただ、アレン自身に限って言えば、信仰心は薄い方だ。

ほぼないと言っても過言ではない。

何せ言い方は少しアレなことになってしまうが、前世のアレンは神に良いように使われたようなものなのだ。

納得してやったことなので、恨んでこそないものの、かといって信仰する気にもなれないのである。

神ではなく、手伝ってくれた者に対してならば話は別なのだが……ともあれ。

そんな世界ではあるが……いや、そんな世界であるからこそ、この世界では『レベル』『ステータス』『ギフト』の三つが絶対視されている。

その理由は単純で、基本的にその三つが『絶対的』なものだからだ。

『ステータス』とは、個人の能力を客観的に数値化したものであり、『力』、『素早さ』、『賢さ』、『器用さ』、『体力』、『魔力』、『運』の七つの項目に分けられている。

先に述べた通り、これらの数値は絶対、つまり『力』が1の者が2の者に力比べで勝つことは有り得ない。

たった1の差なれども、そこには圧倒的な差が存在しており、くつがえすことは原則的には不可能なのだ。

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