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クールな社長の耽溺ジェラシー

春奈真実

意外な一面 (3)

「仲を深めているところ悪いけど、挨拶はもういいかな?」

 新野社長のことがいまいち掴めないと思っていると、正司さんがあいだに割り込んで盾になってくれた。

「あんまり高塔さんをからかわないでもらいたいんだけど」

「し、正司さん……」

 さっきまであんなに新野社長と関わらないようにしていたのに。私を守ってくれる背中にときめいてしまう。

「からかったわけじゃないですよ」

 新野社長は不服そうに眉を寄せる。嫌悪を露わにしたその表情から目をそらすように、正司さんは腕時計を見た。

「実はこのあと打ち合わせがあるんだ。僕はそろそろ失礼しようと思うんだけど」

「あ、そうですね。コンセプト練るとか、計画とかはまたの機会にしましょう。こなっちゃん、テーブルそのまんまでいいからモニター隅にやって、ブラインド下げといて」

「はい」

 広瀬さんの指示にうなずくと、モニターを片づけてブラインドを下げた。会議室が人工的な明かりで満たされる。

「それじゃ、おさきに失礼させてもらうね。……新野社長」

 正司さんは貼りつけたような笑顔で、あからさまに語尾だけ強調した。

「社長はやめてください。前のままで結構です。広瀬も……あと、高塔さんも」

 去ろうとしていた正司さんを引き留めると、私を振り返る。

「え、わ、私も?」

 勢いよく返事をすると、新野社長はクッと笑みをこぼした。

 会議のときは笑いそうもない人だと思っていたのに、さっきから笑った顔を見ている気がする。しかもすっごく爽やかな。

「あの……そんなに返事がおかしかったですか?」

「いや、悪い。〝高塔〟って感じじゃないと思っただけだ」

「笑ったことよりそっちを謝ってください」

 これでも小柄なのを気にしている。仕事の現場で背伸びしても届かない電球に出会うたび、もう少し背が高ければと悔しい思いばかりしているのだ。

 思わずつっこんでしまったけれど、いやな顔はされなかった。

「名前、小夏だったよな?」

「そ、そうですけど」

「小夏も適当に呼んでくれたらいい。同じポジションなのに、社長なんて呼ばれたら仕事がやりにくいから」

「同じポジションって……」

 とんでもない。新野社長はリーダーで私はただのアシスタントのようなポジションだから明らかに違う。

 とはいえ、これから数ヶ月間プロジェクトを一緒に進めていくのに〝社長〟なんて呼び続けるのは堅苦しい気もしていた。なので、その気遣いはありがたかった。

「では、新野さん……と呼ばせてもらいます」

「ああ、そのほうがいいな」

 満足そうにうなずく。その表情は真顔なのに、どこか優しく見えた。


 正司さんがさきに会議室を出ると、私と広瀬さんで新野さんを下まで送ることにした。

 大きな会議が行われることが多いフロアなので、廊下は静まり返っている。タイルカーペットで足音は立たないとはいえ、歩くことにも少し気を使った。

「見送りはいい。エントランスくらい覚えてる」

「まぁまぁ、これも俺らの仕事ですから」

 エレベーターの前まで来ると広瀬さんはボタンを操作し、へらっと笑った。

「それより新野さん、今回のコンセプトってもう掴めてます?」

「まぁ……だいたい。けど、それは次の打ち合わせで話し合うんだろ」

 コンセプト……。頭の中でぐるぐるとその言葉が回り出す。

 エレベーターが到着すると、広瀬さんがドアを押さえてくれたので新野さんに次いで乗り込んだ。

 私なら、どうするだろう。どうやってライティングしようか。

「コンセプトって言っても裏のほうですよ。会議がはじまる前にちらっとクライアントから聞いちゃって。新野さんならさきに聞いてるんじゃないですか?」

「ああ、なんか聞いたな。――カップルが集まる街づくり、だっけ」

 黙って話を聞いていた私は、反射的に肩をピクリと揺らした。

 そう……今回のコンセプトは、表向きは〝人が集まる〟だけど、裏は〝カップルが集まる〟というものらしい。私が苦手とするコンセプトだ。

「あれ、冗談じゃなかったのか?」

 新野さんは本気にしてなかったのか、わずかに目を丸くした。

「本気っぽかったですけどね。メディアにも取り上げてもらいやすいですし、若者の口コミで人が集まるんじゃないかって」

 クライアントの考えでは、カップルを集めれば、その結果として人が集まる……という図式のようだ。もちろん、それを大々的に謳うと「おひとり様は? ファミリーは?」と反感を買うので発表はしない。

「要はロマンチックにしてほしいってことなんですよね」

 広瀬さんはさも簡単なことのように呟くと、エレベーターの〝開〟ボタンを押す。いつの間にか一階に到着していた。

「小夏は? 気合い入ってたみたいだけど」

 三人ともエレベーターを降りると、新野さんが足を止めて私を振り返る。黒目がちな瞳にまっすぐに見つめられると、なにもかも見透かされそうでドキリとした。

「わ、私は……考えてもわからないので、実践しようかと」

「……実践?」

 新野さんが怪訝な様子で眉を寄せる。わかっている、バカなことを言っているのは。そして、もっとバカなことをこれから口にするということも。

「あ、あの……広瀬さん、私と付き合ってくれませんか?」

 一歩詰め寄って迫ると、広瀬さんは目と口を大きく開けた。

「は!? 俺のこと好きだったの?」

「いえ、恋愛的な意味ではまったく。でも、それくらいしないとわからないと思うんです」

 彼氏いない歴イコール年齢。仕事だけしてきたから、いまさらカップルの気持ちなんてわからない。

 もちろん、いままでだってホテルや商業施設、公園……いろんなシチュエーションで、見る人や住む人の立場を考えて設計をしてきた。

 すべてそのときの力を出し切ったので満足はしている。だけど、どれも先輩から助言をもらって手直しを重ねたもので、まだ自分だけできちんと完成させたことがなかった。

 だから、今回はちゃんとユーザーの視点に立って、求められるものを自分で掴んでいきたい――そう思った。その答えが、これだ。

 広瀬さんをじっと見ていると、新野さんがクックッと肩を揺らして笑った。

「面白いな、照明のためにそこまでするって結構尊敬する」

「う……い、いいですよ、バカにしてくださっても」

「いや、本気で言ってる。いいと思う、その真剣さ」

「えっ……」

 絶対バカにされると思っていたから、その笑顔も熱っぽい視線も不意打ちだった。

「よかったら俺が付き合うけど」

「えぇっ!?

 その言葉も不意打ちすぎて、人目も気にせず大声で叫んでしまった。

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