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男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています

若菜モモ

第一章 家族のための男装 (2)

 マリアンヌの気遣いもよそに、ロドルフは意を決したように孫娘ミシェルを見る。

「ミシェル、フランツの代わりに今日からお前が王城へ行き、侍従見習いとして働きなさい」

「ええっ!?

 ミシェルはぜんとして、ピンク色の唇をポカンと開けた。

「お父さん、侍従見習いって? 男であることが条件でしょう? ミシェルは女の子よ?」

 突然わけのわからないことを言うロドルフに、マリアンヌも驚きの表情を隠せない。

「そうだ。ミシェルとフランツは半一卵性だけあって、よく似ている。フランツのフリをして一ヵ月間働くんだ」

「フランツのフリって……男装してってことっ? おじいちゃん、そんなっ! 無理よ!」

 男装するところを思い浮かべ、ミシェルはブルッと身体を震わせる。王城へは行ってみたいのだが。

「お父さん、どうしてそんな無茶をしなくてはならないの?」

 あと一ヵ月で、ロドルフは侍従頭を辞めることになっていた。代々、ベルナディス国王の侍従は、ブロンダン家の男子に引き継がれている。国王の侍従を務めるのは、ブロンダン家の誇りでもあった。

「私のこの怪我は、自分の不注意で階段を踏み外したからだ。それで仕事ができないとなれば、給金はもらえず、この土地も離れなくてはならない。ここは王室の領地だからな。それは仕方ないとして、エレナの薬も困ることになる」

 ロドルフは至極悔しそうな顔になる。

「でも、私が男装してバレたりでもしたら……? 大変なことになるわ。フランツが一ヵ月後に務めるのではいけないの?」

「それはわかっておる。しかし、侍従になりたい者は限りなくいる。一ヵ月後にフランツが戻っても、もう侍従にはなれないだろう」

「一ヵ月後には必ず孫が務めますと、国王陛下に理由を正直に話して……」

 マリアンヌの言葉に、ミシェルは必死にうなずく。

「こんなことで国王陛下を煩わせることなどできん! クロードさまはお忙しいのだ。一ヵ月も待っていられない!」

「おじいちゃん……」

「一ヵ月間、ミシェルが侍従見習いをすればいいのだ。フランツが戻ってきたら代わればいい。そうすれば生活に困ることはない。今なら私の孫、ブロンダン家の一員として、優先的に侍従見習いに就けるんだ」

 ロドルフは素晴らしい提案だとばかりに頷き、ミシェルが淹れたお茶を飲んで、渇いた喉を潤す。

「国王さまの身の回りの世話をするのに、私が女だって気づかれない……?」

「ああ。心配はいらない。絶対に大丈夫だ。お忙しい陛下は気にもしないだろう」

 そんな風に自信を持って言われたら、自分にできるように思えてくるミシェルだ。

(私がお城で働ける……)

 そう考えると、ワクワクしてくるのは否めない。

「お父さん、ミシェルには――」

「私、やるわ!」

 マリアンヌが、やはり無謀な計画だと口を開こうとしたところで、ミシェルが立ち上がる。

 ここでの暮らしは単調で、なにかしたいと思っており、王城に強い興味もあった。ロドルフの口添えで、王城での仕事を頼もうとしていたところだ。

 男装をして約一ヵ月の間、侍従見習いをすることなど、わけない。ほとぼりが冷めたところで元のミシェルの姿に戻って、王城での別の仕事に就けたらいいと思った。

「ミシェル!」

 マリアンヌは目を大きくして驚くが、ロドルフは満足そうに頷く。

「やはりミシェルは思いきりがいい。フランツより活発な性格だからな。なに、きっとうまくいく」

「お父さん、国王陛下をだますことになるのよ? 重罪だわ」

 な性格のマリアンヌは、恐ろしいとばかりに身を震わせる。

「それも考えたが……この土地を出るとなると、エレナにも金を渡してやれなくなるぞ? 私たちの生活は、なんとかなるだろうが……」

「お父さん……」

 フランツが訪ねている叔母のエレナは、マリアンヌの妹で身体が弱く、療養中である。結婚したが、十年前に戦争で旦那を亡くし、働くこともできない妹に、マリアンヌはお金を工面していた。

「お母さん、大丈夫よ。私、やるわ! そうしなければエレナ叔母さんが困るのよ? 一ヵ月くらいなら大丈夫」

 事の重大さに青ざめているマリアンヌの肩に、ミシェルは手を置いて強く言いきる。

「ミシェル……」

 諦めた表情を浮かべるマリアンヌは、ミシェルの頭を胸に引き寄せて抱きしめた。

「そうと決まったら、すぐに支度をしなさい。フランツのよそ行きの服を着て、髪は後ろでひとつに結ぶんだ」

 馬車をいつまでも待たせておくわけにはいかないと、ロドルフは不自由な足で立ち、ミシェルをかす。

 ミシェルはフランツの部屋へ行き、王城へ行っても恥ずかしくない服を選んだ。

 フランツは男性にしては小柄で、ミシェルと握り拳ほどしか身長差がない。まだ十八歳、これからも伸びるであろう。

「これと、これ……あ、靴も」

 ミシェルは必要なものを腕いっぱいに抱え込んで、隣の自室へ入る。

「胸を平らに見せないとダメだから……」

 自分の部屋になにかあっただろうかと、引き出しの中を探す。手に触れたのは、ウエストを締める水色のリボンだ。幅のあるサテン生地で長さも厚みもある。

 着ていた綿モスリンのドレスを脱いで、たった今見つけたサテン生地を、胸の膨らみが目立たないようにきつく身体に巻きつけていく。

 清潔な白いシャツ、黒いズボン、襟にしゅうがされているグレーの上着を羽織る。上着はウエストから切り替えがあり、丈はお尻が隠れる長さだ。身につけたものすべてが少し緩いが、問題はないだろう。

 着替えが終わり、鏡の前に立って、上着より少し濃い色のリボンで髪を後ろでひとつに結ぶ。思ったより男に見える自分に、ミシェルは満足する。

「あとは……荷物ね」

 トランクに、フランツの部屋から取ってきたシャツとズボン、胸に巻く替えのリボン、下着などを入れた。

 それから、町へ行く場合に、プラチナブロンドの髪が目立たないようにつける茶髪のかつらと、女性用の服も一式、荷物の中へ放り込む。一ヵ月あれば町へ出かけられるのではないかと思ったのだ。

「そんなに長くないんだから」

 王城へ行き、国王陛下に会うことを思うと、心配でドキドキする。きっと近くに行くだけで足が震えるだろう。でもみんなのためにやり遂げなくてはならない。

 支度を終えたミシェルはトランクを持って、ロドルフとマリアンヌの待つ居間へ行く。マリアンヌは落ち着かない様子で立っており、ミシェルの姿にホッと胸をで下ろした。

「やっぱり双子だな。フランツに見えるぞ。これだったら大丈夫だ! マリー、案ずることはない」

 ロドルフは満足げに頷き、ソファに置いたハットを手にし、頭にのせて立ち上がる。

「マリー、私は夕方に帰ってくる。しい夕食を頼むぞ」

 夕食と言われて、まだ朝食も食べていないことに気づいたミシェルだが、松葉杖をつきながら玄関に向かっていくロドルフのあとに続いた。


 二頭立ての豪華な馬車に初めて乗るミシェルは、窓から入る風に頬を撫でられながら、変わる景色を楽しんでいた。

「ミシェル、お前は活発な子だが、思慮深いし頭もいい。うまくやると信じている」

「侍従はおじいちゃんひとりじゃないんでしょう? 何人いるの?」

 窓から顔を引っ込めて、対面に座るロドルフに尋ねる。

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