話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

悪役令嬢(ところてん式)

なみあと

一章 異世界トリップ(ところてん式) (3)

 その皮を被ってひたすらゲームに明け暮れているクズ学生でございます。

 とは思うものの、話をややこしくする必要はあるまい。

「それがどうして、このわたくしとわったの」

「ううーん」

 正確には入れ替わりというより、たまきというかところてん式というか。

 何かのしようげきでわたしがアイリーンの中に入り込んでしまい、押しされたアイリーンがたまたま空いていたシャーロットプレイヤーキヤラクターに入ったということなのだろう。

 そして理由はおそらく単純に『ゲームがバグったから』なのだけれど、それをアイリーンへ説明するのはとても難しい。

 ……どう話したものか悩んでいると、

 がちゃり。

 保健室のドアの開く音がした。

「失礼いたします」

 わたしとアイリーンは、視線をわして息をひそめた。悪いことをしたわけではないから堂々としていればいいのに、なぞの共犯意識。

 しかし訪問者は、そこに人がいるのをあらかじめ知っていたかのように、迷うことなくわたしたちのいるベッドのカーテンを開けた。

 現れたのは――

 くろかみ黒目、整った顔立ち。見た目こそ若く我々とそう年齢はちがいそうにない。

 が、身につけた、しわのない上等なのうかいのスーツとブラックタイ、白いぶくろかれが確かに職業人であることを主張している。

 わたしは彼を知っていた。ゲームの説明書に姿が描かれていたからだ。

 それは、こうりやく対象としてというよりも――

「ウィン!」

「おぶ」

 アイリーンが、けていたとんけて彼にる――布団が思いきりわたしにぶつけられる。今度こそけいかいしていなかったわたしは、頭からそれを被った。

 アイリーンは構わず声を張り上げる。

「ウィン、わたくしよ! あなたなら、わたくしの従者なら、わかるでしょう!?

 ウィンストン・ホークヤード。あいしようウィン。

 オールディントン家に仕える使用人で、アイリーンの身の回りの世話を務めている従者ヴアレツト。年齢は確か、十九だったか。

 本来なら、従者が自分の世話する令嬢のことを忘れることなどありはしないし、あってはならないことだ。

 ただ――

 いまの、彼女は。

「お嬢様のクラスメイトの、オリバー様、でしょうか。いつもお嬢様がお世話になっております」

 アイリーンが。

 言葉を失った。

 あってはならないことが起きて、頭がついていかないといった様子だ――しかし。

 わたしはたずねた。少しだけ、あきれていた。

「あなた、わかっていますね?」

「いえ、何も。ただ」

 とぼける気はないようだった。

 ホークヤードは、すずしい顔をしている。わたしを見て、

「どのような理由かはわかりませんが、あなたがが勤め先のご令嬢、アイリーン様でないことくらいはわかります」

「えっ」

 おどろきと同時に、アイリーンの瞳に光が戻る。

「あなたが本物のお嬢様であったとしたら、オリバー様の撥ね除けたお布団があなたに当たった時点で、げきこうしていたでしょう。

 お嬢様は、そこまで心の広いお人ではありません」

「やったぜアイリーン、お前の心がせまかったおかげで話が早いぞ」

「口をつつしみなさい!」

 肩に手を置くと、思いきり叩かれた。

 二回め。

「実は」

 ホークヤードには話が通じそうだ。わたしは彼に、彼女が本物のアイリーンであることを話した。

 直立の姿勢はくずさず、白い手袋をはめた手をあごに当て「ふむ」と唸る。

「アイリーン様がオリバー様のお体に入り、アイリーン様のお体の中に、別のどなたかが入っていると。……失礼ながら、信じがたい話ですね」

「ホークヤードさん。わたしたちのこの状態を見ても、信じてはくださらない?」

みようじようきようであることは確かですが。しようがありません」

「それはさっき、ウィン、あなた自身も――」

「先ほどのものは『こちらのアイリーン様の外見をした方がアイリーン様ではない』理由に過ぎません。『オリバー様がアイリーン様である』理由ではないでしょう」

 補足説明をされて、さすがのアイリーンもみつくのをやめた。

 また、雨にれた子犬を思わせる表情で、

「だったら、どうしろっていうの……」

「つまり、あなたがアイリーンであることを証明できればいいんですけど。何かない?」

 わたしの助けぶねに、アイリーンは考え込んで。

 やがて、何を思いついたのか頬が赤くなる。

 親指のつめを噛みながら「いたかたないわね……」と呟いて、

「……っ、聞きなさい!」

「はい」

 ホークヤードに何事かを耳打ちした。何を伝えたのだろう。

 真っ赤になった顔をおおうアイリーンと対照的に、曲げた腰をもとのように伸ばしたホークヤードは、

「それをご存じなのはアイリーン様だけ。信じましょう」

「何言ったの」

「絶っっっっ対にあなたには教えませんわ!」

 ホークヤードのしんらいが逆に気になる。何度かアイリーンをつついてみたが、かたくなにきよしたのであきらめた。

 いま大事なのは、彼が信じてくれたということだ。

「もしわたしをだますためにお二方がきようぼうしているのだとしても、お嬢様に、協力して悪だくみをするほど仲良しのお友達ができたというのなら……お嬢様に……お友達……

 ……失礼。なみだが」

「アイリーンさんよう、あなた性格悪すぎでは」

「うるさいわね!!

 ポケットから取り出した白いハンカチで目元を押さえるホークヤード。

 アイリーンはそんな彼に対し、令嬢らしくない舌打ちをすると、やはり令嬢らしくないけんゆがんだ表情で、

「そもそも、ウィン。あなたもわたくしの従者なら、さっさとわたくしのことに気づきなさい。まったく、それでもオールディントン家に仕える身で――」

「それでは帰りましょうか、お嬢様」

 ホークヤードは、これ以上付き合っていられないとばかりにアイリーンの言葉をさえぎると、うながすように手を差し伸べた――

 ――わたしに。

「え」

「う、ウィン!?

 眉一つ動かさないホークヤードと対照的に、わたしとアイリーンは声を上げるほど驚いた。

 きっとわたしたちは、同じような顔をしていた。

「何をしているの!?

「本日はピアノの先生がいらっしゃることになっています。あまり余計なことに時間を使ってはいられません」

「え、いや、でも、ホークヤードさん――」

「さあ、お嬢様」

 促されて、わたしは立ち上がるしかなく、

「う、ウィン! コノミ、あなたも待ちなさい!」

「ホークヤードさんっ?」

 わたしたちに呼ばれても、ホークヤードはにこりともしない。

「ここは学園のしきないですし、一晩くらいお一人でいたところで、死にはしませんよ。

 ――わたしは『お嬢様』を守れれば、だんさまのおしかりを受けることはありませんしね」

「あ、あ、あなた……!」

「行きましょう。お嬢様」

 アイリーンの声が震えているのは、いかりか、絶望か。

 いずれにせよホークヤードは構わず、わたしを連れて保健室を出ていった。

「悪役令嬢(ところてん式)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます