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悪役令嬢(ところてん式)

なみあと

一章 異世界トリップ(ところてん式) (2)

「何事?」

 って立ち上がり、教室を飛び出す。廊下では、皆が階段の近くに集まって――一階?

 ひとがきけて、階下を見る。一人の女子学生が、階段下にたおれていた。

 遠巻きにながめる学生たちが、先生を呼んだだの呼ばないだのとさわいでいるが、だれひととして彼女に近づこうとはしない。

 自分から進んでトラブルにれたくはない、ということなのかもしれないが――放置しておけるか!

 急いで階段を下りると、倒れる女子学生の側に座り、声をかけた。

「大丈夫? しっかりして!」

「う……ん……?」

 わたしの呼びかけに彼女がうめき、そしてゆっくりと、目を開けた。

 セミロングの赤毛に、とびいろひとみ。美しいという言葉には見合わないけれど、あどけない、ぼくりよくがある。

 その姿に、わたしはつい、息をんだ。

 少女があまりにも愛らしかったから……ではなく、彼女の顔を知っていたからだ。

 そしてわたしは、彼女の名前も知っていた。

 彼女こそがこのゲームの主人公――シャーロット・オリバー。

「えっ……!?

 シャーロットはわたしを見て、大きな目を、さらに大きく見開いた。

 青白い頬で、わなわなと全身をふるわせ始める。

 なぜだろう、となやむ必要もなく理由に思い当たった。当然か、わたしは『悪役』。彼女にとって意地悪なクラスメイトなのだから――

 と、思ったのだけれど。

「わ、わ、わ――」

「わ?」

「わ、わ、わ、わ、わ――」

 わわわ。ミュージカルでも演じたいということではないだろう。

 であればいったい、何が言いたいのか。

「大丈夫、シャーロット?」

 落ち着かせようと、わたしは手をべる。

 しかしその手は鋭くたたとされた。

「わ、わ、わたくしが――」

 シャーロットが、ひぃ、と息を吸う。

 それからわたしのかたを両手でつかみ、わたしをぐに見て――

 こう、さけんだ。

「――わたくしがなぜそこにいるの!」



 叩かれた手に、じんじんとした確かな痛みを感じながら、わたしは思う。

 これはきっと、VRではない――

 ――ちょっと進化したVRだ。


 腹の奥で騒ぐ違和感は全力で無視!




「ど――どどどどどどういうことですのこれぇ!!

 保健室にて。

 二つあるベッドの片方にじんり、カーテンを閉め、シャーロット(※内容物はパッケージと異なります)にそっと手鏡を差し出すと、彼女は力の限りそう叫んだのだった。

 わたしはそのしゆんかん、養護きようが不在だったことに心から感謝した。

「なんで、なんでわたくしがあの田舎いなかむすめに……!?

 鏡が本物であることを確かめるように、ぺた、ぺたと自分の顔に触れる。

 もちろん鏡の中の彼女も同じ動作をして、見ているものが正しいことを証明した。

「何、何よわたくしが何をしたっていうの……今日はただ、あの田舎娘に、バケツいっぱいのバナナの皮をかぶせてやっただけ……!」

 わりと悪いことしてるじゃないですか。

「ぎゃあ髪のにバナナついてる!」

 こういうのもインガオーホーというのだろうか。

 熱にかされたようにぶつぶつ、ぶつぶつと何事かつぶやいているが、アイリーンの勢いはいくぶん弱まった。

 この分なら、落ち着いて話ができそうだ。

 わたしはえて、そとの方で彼女を呼んでみた。

「改めて、こんにちは。ミズ・オリバー」

「無礼者、わたくしはオールディントン家が一人ひとりむすめ、アイリーンですわ! あんな田舎娘と二度とおちがいになりませんよう!」

 顔を真っ赤にしながら叫ぶ、赤毛の少女。しかしその顔はすぐに、白くなる。

 見た先に、『オールディントン家が一人娘、アイリーン』とまったく同じ外見をした女の子――つまりわたしだ――がいたせいで。

「あ、あなた」

「……うん?」

「あなた、なんですの。答えなさい!」

 とはいえしかし、わたしが何かと問われても。

「何なんですかね……?」

「ごまかさないで!」

「うわ」

 まくらを投げつけられて、あわててキャッチ。

 勢いは弱く、痛くない。

「わたくしの体を乗っ取ってどうするつもりですの! 答えによっては承知いたしませんわ!」

 承知しないって、いまのあなたに何ができるというのかしら――つい悪役ムーブしたくなってしまうのをかくし。

「いや、わたしも、ここがどこなのかわからなくて困ってるんです。気づいたら、教室の一席に座っていて……

 叫びごえが聞こえて、見に行ったらあなたが階段の下で倒れていたので助けたんです。信じて、アイリーン……さん」

 一応、けいしようをつける。

 しかしそれは、彼女の心をやわらげる要素にはならなかったようだ。声はまだ、固い。

「……ならばなぜ、わたしの名前を知っているの」

「いましがた、自分で名乗ったじゃないのさ」

「そうだったかしら」

 お、こいつ意外とバ……もといくみしやすいぞ。

「むしろ、アイリーンさんの方が、この事態にくわしいのかと思ってましたけど」

「わたくしだって、何も知りませんわ」

 そっぽを向き、むくれるアイリーンじよう

「つまり、あなたもこのみような事態に『巻き込まれた側』ということですわね?」

「そういうことですね」

 アイリーンは、チッと舌を打ち鳴らした。

「なんて使えない」

 そりゃ申し訳ございませんでした、っと。

 さて、さっそくまりだ。どうしたものかな――と思いつつ、わたしは事態解決の方法を一つ思いついていた。

 問題は、アイリーンにそれを教えていいものかどうか、だ。

 うーん、とうなっていると――

「あなたの名前は?」

 とうとつに、アイリーンが言った。

「え?」

「もちろん、『中身の』よ」

 当たり前だが、ガワの名前など聞くまでもないということだろう。

 わたしは、わたしの――都内で大学生をやっている、このゲームのプレイヤーであるはずのわたしの名前を答えた。

「クスノキコノミ」

「……変な名前ね」

 そりゃどうも。

 わたしはその感想を、最初、彼女の『悪役』たる性格ゆえだと思った。

 つまるところ、バカにされたのだと思ったのだが、

「どこまでがファーストネームなの? クス? クスノ?」

 眉を寄せたまましんけんな顔でそう続けたから、本気でわかっていないのだと気づいた。

「コノミがファーストネーム、ファミリーネームがクスノキ。我々の国では、ファーストネームをあとに名乗ります」

「ふうん。じゃあ、コノミ、でいいわね。コノミ、あなたの本当の職業とれきは?」

「十九さい、学生。日本という国で大学生をやっています」

「日本? ……知らないわ」

「小さな島国だから、無理はないと思う」

 あるいはこの世界に日本という国は存在していないのか。

 わからないけれど、知らないのなら同じことだ。

「大学というのはわかりますか?」

「そのくらい知っているわよ。学士バチエラーを育成するための機関でしょう」

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