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悪役令嬢(ところてん式)

なみあと

プロローグ / 一章 異世界トリップ(ところてん式) (1)

プロローグ



 気がついたとき、わたしは見知らぬ教室の一席にこしかけていた。

 いったいここはどこだろう、と思ってしまったのは、わたしがぼけていたというわけではない。

「どうなさったの、アイリーンさん」

 おそるおそるわたしに声をかけた女子学生にも見覚えはなく、さらにわたしとかのじよが着ているややそうしよく過多な制服にだって覚えはない。

 いま、わたしのむなもとに流れているかみは金色をしているが、染めたおくもない。

 そしてそもそも、さいたま生まれ埼玉育ち純日本人のわたしは、アイリーンなんていう名前キラキラネームではないはずなのだ。

「あの、体調でもお悪くて――」

「……ちょっと待って。整理するから」

 わたしは、ここがどこであるのか理解するのに、しばしの時間を必要とした。

一章 異世界トリップ(ところてん式)




おとゲームもわりとおもしろいですよ」と。

 ある日大学サークルのこうはいに言われたのは、どういう話の流れだったか。

 ――そう、確かサークルの部室にて、ポータブルゲームで遊んでいたときのことだ。

 ソロプレイで大剣をぶん回しているわたしに対し、後輩がぽつりと、

せんぱいの指の動きがヤバい」

 なんて言ったことから始まったのだった。



「慣れれば簡単だよ」

「わたしはアクションそつち系は、反射神経よくないので、あまり。

 どちらかというと、恋愛ゲームの方が好きです。女の子向けの」

「ふーん。面白いの?」

「まぁ、いろいろですね。名作もさくもクソゲーもあります。

 先輩はやらないんですか?」

「あんまり」

 そんな話をした、翌日。

 くだんの後輩が、一本のゲームを持ってきた。

「先輩もやってみませんか」とわたされたのは、パステルカラーの中に複数の男の子がえがかれた箱。

 タイトルは、やはりパステルカラーで『ぷろみすFortune』と書かれている。

 対応ゲーム機は携帯型ポータブルの一種。わたしも持っているゲーム機だからプレイはできるけれど、

「難しい?」

「や、それほどでは。プロフォはいつぱんてきなやつですよ」

 プロフォ、というのはゲームタイトルのりやくしようか。

「一般的、ねぇ」

「はい。へいぼんな女の子である主人公が、ある学園に入学して、男の子とこいに落ちるみたいな。で、だれか一人のルート入ってこいなかになれたらクリア」

 恋愛ゲームにあまり親しまないわたしには、もちろん乙女ゲームにもぞうけいは深くない。

 とはいえ後輩が「初心者向けです」と言うなら、まぁ。借りてみてもいいだろう。

 パッケージを裏返す。男の子が数人とその簡単なプロフィール、それと――目つきのきついきんぱつの女の子が、うでを組み、かたはばに足を開いた姿勢で立っていた。

「あ、個人的にはこのキャラ好きです、わたし」

「……女の子が?」

 乙女ゲームっていうと、男の子キャラとれんあい関係になることを目指すイメージが強いけど。女の子も口説けるゲームってことだろうか。

 しかし、もちろんと言うべきか、後輩は笑って首をった。

しは別ですよ。そうじゃなくて、意地悪なんですけどなんかにくめないって意味で」

「ふうん」

「まぁ、ほとんどのルートで、やり過ぎてめつするんですけど」

 それは「憎めない」と言っていいのだろうか。

「じゃ、借りるね」

「はい。よき乙女ゲライフを」

 ひらひら手を振る後輩にわたしも手を振りかえし、別れる――

 その直前、気になっていたことを思い出した。

「あ、最後に一個だけ教えて」

「なんですか?」

「武器の強化アイテムは誰がドロップ」

「しません」

 しないのか。


* * *


 スケジュールを見てみたら、次の講義が必修ではなかったから。

 一度くらい欠席しても、とがめられはしないとわかっていたから。

 わたしは誰もいないサークルの部室にて、そのゲームを起動してみたのだった。



 そこまでは覚えている。

 というか、それが直近の記憶だ。

 気づいたら、この席にすわっていたのだから。

 ……窓ガラスに、うっすら自分の姿が映っている。

「アイリーンさん?」

「いや……だいじよう

 げんそうにまたわたしを呼んだ女子学生へ、わたしはゆるりゆるり手を振った。

 正直なところ大丈夫ではないのだけれど、知らない女の子に心配をかけるのは気が引ける。だからそう答えれば、彼女はやはり怪訝そうな表情のままで、自分の席にもどっていった。

 ありがとう、名も知らぬ女子学生よ。

 ――見回す。

 そこらにいる少年少女の制服は、ゲームパッケージに描かれていたそれそのものだし、教室の風景は描かれていたイメージイラストによく似ている。

 それはつまり。まゆを寄せ、けんに指を当て、頭をフル回転させて――

 なるほど、VRか。最近のポータブルデバイスは進んでいやがる。

 そんなわけあるか。

 無理やりひねり出した結論になんとかなつとくしようとしたのに、腹のおくから現実的この上ないてきが飛んでくる。ちくしょうめ。

 情報を整理する。

 VRゴーグルを被った覚えはないが、ここは例のゲームの世界によく似ている。

 ゲームの世界に入り込んでしまうなんて非現実的なことを、大学生にもなったねんれいで認めていいのか迷いはした。が、認めなければ話が進まない。

 そして――窓に映った自分の姿を見る。

 きつめの目つき、ウェーブのかかった長い髪。この子は確か、主人公のクラスメイトの、意地悪なおじようさまだったはず。

 どうやらわたしは、後輩に借りたゲームの中の、悪役になってしまっているらしい。

 さて、そうなってしまった以上、わたしはこれからどういう行動を取ればいいのか?

 案その一。これは単なるわたしの夢で、わたしは夢の中にいるから、夢から覚めればもとの世界に戻れる。

 ほおを思いきりつねってみた。

 痛い。

 失敗。

 案その二。何の因果か知らないが、ゲームの登場人物アイリーンになってしまったのだから、アイリーンとしてのプレイングを楽しむ――

「……ん?」

 不意に、かんを覚えた。

 その意味に、違和感の正体に、わたしの思考はすぐたどりつく。

 そもそも、だ。

 わたしはわたしだ。埼玉出身都内大学ざいせき中の女子大生で、このゲームをプレイしようとしたゲーマーの一人だ。

 ――えよう。

 わたしは、このゲームの主人公となって、ゲームをプレイしようとした。

 だから、百歩ゆずって、このゲームの『主人公』になってしまったのなら理解はできる。

 しかし。

 胸元の金の髪。ガラスに映るするどい目つき。

 わたしはなぜ、主人公ではないのだ。

 わたしはなぜ、悪役れいじようになったのだ。

 さらに言うなら――プレイヤーわたしが悪役令嬢だと言うなら――

「アイリーンは?」

 ――『本来このキヤラにいるはずの』アイリーンの中身はどこに行ったのだ?

 そんな疑問がわたしの頭を満たしたとき。

「き――きゃあああ――!」

 ろうから、かんだかい悲鳴が聞こえた。

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