異世界チート開拓記
2 《物質移動》 (2)
ルイーナの外見は十代半ばの少女に見えるのに、物凄い巨乳だった。小麦色の肌を持ち、エルフのように耳が長い銀髪美少女ルイーナは巨乳ダークエルフ美少女であった。

巨乳の乳母と比べ、母親があまりに貧乳すぎて、哀れにすら思えるぐらいだ。
いや、母親が哀れ乳でも、息子の俺には関係ないけど。
母カーラが、生徒に指導する教師のように言う。
「《物質移動》のコツは、対象を動かすという確固たる意志と、動いているイメージを強く抱きながら精神を集中し、念じるのです。さぁ、やってみなさいカインズ」
ほう、確固たる意志と強いイメージ、ね。あとで自分もやってみるため、覚えておくことにする。
カインズが頬を搔きながら、
「でもカーラ。《物質移動》って、真語を唱えて発動させる真正魔法ですよね? 私、呪文を知りませんけど」
「《物質移動》程度の基礎魔法ぐらい、真語を唱えない無詠唱でできなくてどうしますか」
「え、え~~。あ……それから、魔法の発動体である杖もないんだけど」
「杖の補助なしでも、意志力と精神力、それに魔力で発動してみなさい」
「そんな無茶な」
「無茶なことないわ。私は6歳のときに、無詠唱かつ杖の補助なしで《物質移動》を成功したわよ」
「カーラ、君は、ユーシア大陸でもっとも魔法文明が発達しているルーンレシア王国の出身者ですからね。しかも、名門魔導貴族であるホークウッド本家のお嬢様。それに引き換え私は、魔法文明が30年は遅れている、新興海洋国家イーズの、平民との境界が曖昧な下級貴族。それも長男ではなく次男のため、教育は放置気味でした。それこそ魔法なんて、今の今まで、まったく習う機会がなかったぐらいの――」
「ウダウダ言わずに、さっさと練習しなさいっ」
カーラがピシャリと言ったら、カインズはサッと黙った。
…………尻に敷かれているなぁ、俺の父親は。
カインズって一応、領主様らしいのに。
「む……むむむ……むむ…………むむむむ」
父親のカインズが、唸り声をあげている。
寝室のベッドに置いてある熊のぬいぐるみに向かって、右手を伸ばしながら精神を集中しているようだ。《物質移動》とかいう魔法で、ぬいぐるみを動かそうとしているのだろう。
俺は、母親に抱っこしてもらいながら顔を横に向け、その様子を窺う。
――1時間近く経過した。
ようやく、ピクッとぬいぐるみがほんの少しだけだが動いた。
念動力のようにも思えるが、これも〝魔法〟らしい。
「ハァァ、ダメダメね。1時間近く精神集中して、その程度だなんて」
カーラは頭を横にふり、呆れかえっていた。
「う、う~ん、やはり私には、魔法の才能がないみたいですね」
頬を搔き、照れくさそうにするカインズ。
それはそうと、この父親は言葉遣いがやけに丁寧だな。
家政婦のルイーナにたいしても、丁寧語で喋っているし。使用人にまで、そんなふうに喋っていたら、舐められ、軽く見られる気がするのだが。
父親は顔が優男ふうの美形で、身体の線も細い。どこか気弱そうな外見とあいまって、あまり頼りがいを感じられない。
「確かにカインズ、あなたの総魔力量はたいしたことないわ。たったの5Mしか、ありませんもの。それに、成人しているあなたの総魔力量が今後、急激に上がることはまずないでしょう」
カーラが溜息まじりに言った。
むぅ……。成人したら、総魔力とやらはあまり増えないのか?
ならば、俺は子供のうちから総魔力を増やすトレーニングしなければ。どうやったら、総魔力が増やせるのか、トレーニングのやり方はまだ知らないけど。
「……剣も駄目、魔法も駄目。カインズ、本当にあなたってへっぽこね」
「ははは」
「威厳もないから、領民には舐められているし。あなたには、統治能力もない。領主としての素質もないの。なさすぎるの……この駄目領主」
「いやぁ」
「…………妻にこうまで馬鹿にされて、ヘラヘラしないで。男なら、奮起しなさいよ」
「でも事実だからね。私がへっぽこなのも、駄目領主なのも」
「…………はぁぁ」
妻からの罵倒も、ヘラヘラ笑いながら聞き流すカインズ。
情けない気はする。ひょっとしたら、他人の非難・嘲笑に動じない〝大物〟なのかもしれないけど。
「僕は不甲斐ない男です。でも、カーラ」
「……なによ」
「君を愛する気持ちだけは、誰にも負けませんから――決して」
「…………カ、カインズ」
母親が、そっと俺をゆりかごに戻した。
その後、見つめ合う若い美形夫婦。そして始まる、メイクラブ。
――またか。
俺は、内心ゲッソリとした。
俺が普段寝ているゆりかごが両親の寝室にあるため、2人のイチャイチャをどうしてもそばで見ざるをえないのだ。〝夫婦の営み〟も、ね。正直、勘弁してほしい。
俺の意識が目覚めてから週に数回、同じ部屋の、それもすぐそばで両親の愛の行為が行われていた。
俺がまだ何も分からない赤子だと思って、遠慮しなさすぎだぞ、この若夫婦は。
「ああ……カインズ……愛している、愛しているわカインズ。ああ、ああああ。素敵……素敵よカインズっ!!」
ほんと、勘弁してっ!
両親が2人ともまだとても若く、そのうえ、ともに美形という点は救いだけど。これが容姿の冴えない中年夫婦による夫婦の営みだったら――そ、想像したくない。
…………しかし、《物質移動》ね。
俺は、ゆりかごの横に置かれた熊のぬいぐるみに顔を向けた。
動け。
動け。
動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け。
ぬいぐるみが動く様子をイメージしながら、念じてみる。赤子の身では、やることもなかったし、念じ続けた。母親の喘ぎ声が正直ウルサイけど、精神を集中し続けた。
――数分後。
ピクンッ!
動いた……確かに、動いた。
熊のぬいぐるみが確かに動いたぞ。カインズのときよりもハッキリと。それも、集中に要した時間は、はるかに短く。
ひょっとして、俺って魔法の才能あるかも?
などと浮かれていたら、急に意識が……遠のいてきた。
なんだか――身体がフワッと浮くような感じで、とても――気持ちいい。
「おや、エニードがもう眠ってしまったようですね」
「ふぇ?……………………あ……そ、そうみたいね、あなた。あ、あの、つ、続きを――」
まだ愛の行為を続けていた両親の声が、薄れゆく意識の中で聞こえた。
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