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エリィ・ゴールデンと悪戯な転換 ブスでデブでもイケメンエリート

四葉夕卜

2 どうすんのこれ (1)

 

2 どうすんのこれ

 

 ブスだ。

 あとデブ。

 ブスでデブだな。うん、間違いない。デブスだ、デブス。

 ――くそっ!

 右手に持っていた手鏡を、思い切り地面へ叩きつけた。

 ――どうなってやがる!

 どうやら手鏡で自分を見た後、あまりの衝撃に何時間か失神していたようだ。

 何度も何度も確認した。だが、間違いではなかった。

 手鏡の中にはぽっちゃりと丸い顔をして、肉の厚みで目が陥没している少女がいた。不摂生をしていたのか、脂物ばかり食べていたのか、ひどいニキビ面だ。そんなブスが申し訳なさそうな顔で手鏡に映っている。一ヶ月契約を取れなかった営業マンのような、うちひしがれた表情で手鏡に映り込んでいた。

 年齢はおそらく十二から十五歳ぐらいだろう。いまいち外人は外見から年齢が判断できない。

 まあ、そんなことはどうだっていいんだ。

 鏡というものは光を反射させ、正面にある物体を映し出す、そりゃもう日本でも世界でも生活に欠かせない道具だ。もちろん自分の顔を確認することができる。世の中の女性は、バッグに必ず手鏡を携帯しており、いつでも化粧や髪型が乱れていないかチェックするもんだ。そう、この手鏡だってそうだ。自分の目の前に持ってくれば、あら不思議。顔をしっかり見ることができるんだ。すごいなー、鏡ってすんごぉい。人間の文明社会には必須なアイテムだ。

「あら不思議。じゃないわよーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 思いっきり叫んで、バンバンと布団を叩き散らした。

 なぜ、俺が、デブで、ブスで、ニキビ面の、外人で、女で、少女になってるんだ!

 おかしいだろ、これ!

 くそ、顔を引っ張っても痛いだけだ。

 おー、神よ!

 我を救い給え!

 神様、信じてないけど。

 あー、もうなんなんだよ、これは!

 このデブ! くそ! どうなってやがる!

 自分の腹をパンチしても、ぽよん、と小気味良い弾力で押し戻される。

「誰か説明してちょうだい!」

 あれ、しゃべれる。声、女の声じゃん……。

「あーあーあー」

 なんだこの可愛い声は!

 きゃわいい声は!

「わたしの名前は小橋川デス」

 自分の名前を言ってみるが、何だろう、違和感しか感じない。

 あれ、そういえば身体が動くな。

 試しに、思い切り力を込めて起き上がった。そしてその巨体に驚いた。たぶん起き上がれなかったのは身体の具合がよくなかったせいもあったが、身体が重かったことも理由だろう。

 ベッドから下りるだけなのに、転びそうになる。

 必死に(じゆう)(たん)にぶっとい足を伸ばして立ち上がった。軽い立ちくらみがしたものの、すぐに平気になったので、ゆっくりと歩いてみる。

 うお、何だこれ。すんげー重い。

 本当の自分の身体機能は素晴らしかった。全身筋肉だったしそこまで体重は重くなく、運動神経も悪くなかった。大股で早歩きをすれば小さい女子が走るのと変わらないぐらいのスピードが出た。

 だが、これはなんだ。

 歩く度にどこかしらの肉がぽよんぽよん上下に揺れて邪魔。身体全体にバーベルがついたように重い。乳と腹が出ているせいで真下が見れない。

 何度か転びそうになり、タンスや壁にもたれかかった。

 ふらつきながら部屋をうろうろしていると小さなドアがあった。開けると、そこは小さなクローゼットになっていて、ドアの裏側が全身鏡になっていた。

 不意に映った姿を見て、口を開けて、完全に放心してしまった。

 身長は一六〇センチほど、体重は一〇〇キロはあるであろう金髪の少女が、ぽかんと口を開けていたのだ。

 そう、俺だ。いや、俺、なのか?

「お嬢様いけません! 歩いてはお体にさわります!」

 ドアを開けて入ってきたクラリスと呼ばれていたメイドが、俺にしがみついてくる。

 そしてオバハンメイドは白いぷよぷよした腕を掴み、顔を覗き込んできた。

「どうされたのです?」

「これは、誰?」

 鏡に映っているおデブな少女は、鏡の向こうで自分を指さしていた。

「なにを言っているのです。エリィお嬢様に決まっているじゃないですか」

「エリィ……」

「はい。由緒正しきゴールデン家四女の『エリィ・ゴールデン』お嬢様でございます」

「ゴールデン……ヨンジョ?」

「はい。そうでございます」

「ゴールデン……ゲキジョウ?」

「はて。私物の劇場などございましたか?」

「いえ、なんとなく……」

「さようでございますか。それではベッドに戻りましょう」

 オバハンメイドが言い終わるか終わらないかのタイミングで、この現実についていけず、目の前が真っ暗になって卒倒した。

 

◆ ◆ ◆

 

 降りしきる雨の中、空中をさまよっていた。

 身体にあたる雨粒は、透明な俺の身体をすり抜けて地面で弾け、吸い込まれていく。天空には見ているだけで焼け焦げてしまいそうな巨大な稲妻が走り、大音を轟かせ、世界を丸呑みにしようとしていた。

 大木を中心にした池のほとりに誰かがいる。

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