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エリィ・ゴールデンと悪戯な転換 ブスでデブでもイケメンエリート

四葉夕卜

1 目覚め (2)

 どアップになった、金髪の美女がそこにいた。

 金色の髪にブルーの瞳、桜を散らしたような薄いくちびるは、()(えつ)をこらえて揺れている。輪郭もほどよく丸く、垂れ目なのがどこか保護欲をそそる。()(りよう)は作り物のようにまっすぐ伸び、白い肌は誰もが羨むほど綺麗できめ細かい。まぼろしでも見ているかのような伝説級の美人であった。

 俺は何を隠そう女好きだ。それも相当の女好きだ。追加してイケメンで営業力はトップクラス、趣味も多くて友達も多い。身長は一八〇センチに少し届かないぐらい。最近でいうところの、リア充の完全体みたいな人間だ。まあ冷静に第三者の目で自分を分析しても、他人からかなり羨ましがられる容姿をしている。

 それもあり、女性経験は普通の男より遙かに多いと自負している。

 その俺が伝説級というのだ。間違いなく伝説級の美女だ。そして伝説級にいい匂いがする。

 とりあえず色々考えるのをやめて深呼吸した。肺の隅々まで伝説がいきわたるように、思い切り空気を吸い込んだ。

「どれだけ心配させれば気が済むの……。あなたは私以上に繊細で引っ込み思案で臆病で……」

 ぽかり、と美女が俺の肩を叩いた。

 ぷよん、と肩の脂肪が伝説級美女の手を柔らかく弾く。

「エイミーお嬢様」

「ごめんなさい、クラリス。私ったら病人になんてことを……」

 オバハンメイドに(とが)められた美女は叩いた肩にそっとくちづけした。

 叩いたところにくちづけ?

 くせえ。映画でしか見ねえぐらい、くせえ行動だ。行動も伝説級とは……すげえ悔しいんだけど、なんだかそこはかとなく嬉しい。

「エリィ、今度こんなことをしたら私、もうあなたとは二度と口をきかないからね。嫌いになっちゃうからね」

 そう言って美女はまた涙を流した。

 オバハンメイドが、ハンカチを出してそっと美女の涙を拭こうとする。それを美女は押しとどめてハンカチを受けとり、自分でハンカチの角っこを使って涙を吸い取った。仕草までも伝説級だった。こんな所作ができる女は銀座の一見さんお断りのとある店ぐらいでしか見たことがない。その店にも負けてない。いやむしろ、見た目補正が入って余裕で勝っている。

 しばらくの間、エイミーと呼ばれる美女は俺のぷよぷよになった手を握っていた。

 よほど心配だったらしい。オバハンメイドともろくに口をきかず、ベッドの脇にひざまずいたまま、かれこれ三十分ほどそうしていた。

「早く元気になってね、エリィ。あなたの部屋にあったものは、クラリスに持ってこさせるから。何か必要なものはある?」

 そうだな、とりあえずスマホ、持ってきて。

「あら、まだ声が出ないのね……よほどショックだったんでしょう」

 そうして美女は俺のぷよっぷよの手を握り直して、十分ほど自分の胸に抱いた。

 やわらかい感触を楽しみつつ、嫌な予感を身体で感じた。

 見ず知らずの伝説級美女が、飲みすぎて車に()かれた男を、なぜこんなに心配しているのか分からない。陰謀に巻き込まれた、と冗談ながらも半分本気で推測する。そこまで重要な個人情報や会社の機密は取り扱っていないが、俺の営業力を目当てに引き抜きにくる輩は他社に多数いる。まさかこの美女を使って俺をヘッドハンティングするつもりだろうか。

 こんな美女を雇って引き抜くメリット、費用対効果があるのか?

 去年、派手に他社の契約を全部うちのモノにしたおかげで、ライバルの営業から露骨な牽制をくらった。他社のライバルからなら構わないだろうと、睨まれた営業の担当場所を狙って契約を正規の方法でぶんどった。それ以上はやるなと会社から釘を刺されたぐらいだ。

 普段じゃ拝めないほどの、特別賞与をもらった。ちょっと同僚には話せないレベルだ。

 その年の年収は過去最高だったな。今年の税金も最高だったが。

 まあ、この営業力なら他社に行っても相応の成果は出せるだろう。ヘッドハンティング説は、あるかもしれない。

 そうこうしているうちに、クラリスというオバハンメイドが、部屋に女物の荷物を次々に運んできた。

 それと一緒に、夫婦と思わしき男女と、目のくらむような美女が二人、入ってきた。

「クラリス。エリィは全快したの?」

 部屋に入るなり、美人ではあるが性格がキツそうな女性が声を上げた。見た目は二十代後半に見えるが、修羅場をくぐってきたかのような隙のない雰囲気のせいで、年齢不詳に見受けられる。大きな釣り目を細め、視線をクラリスに投げた。

 厳しい目にも何ら臆することなく、クラリスはメイドらしく一礼した。

「いいえ、奥様。まだお声が出ないご様子でございます」

「そう」奥様と呼ばれた女性は俺のぷよっとした右手を取った。「あなたって子は本当に心配ばかりかけるわね……」

「まったくだ……」

 女性の旦那らしき、垂れ目のイケメンが慈しむように俺の頭を撫でる。

 いや、男に撫でられる趣味とかないから、やめてくれ。と思っても、振り払うほどの力が出ない。

「生きていてよかったわ」

 そして、身長が一七五センチほどはありそうな、エイミーと呼ばれた伝説級美女と似ている女性が、俺の左手を取った。

 男を窒息させるほどの色気が漏れている。大きな垂れ目にくびれた腰。目尻にある泣きぼくろが何とも艶めかしい。歳は二十代前半だろうか。

「エリィはいつもみんなに心配かけるのね。だから普段から、しゃんとなさい、と言っているでしょう?」

 その後ろから、怒っているような悲しいような、どちらともいえない表情をした女性が、ゴージャスな金髪をかき上げて注意してきた。奥様と呼ばれた女性とよく似た釣り目をしている。伝説級美女とお色気美女と容姿が似ているため、三人が姉妹ではないかと推測できた。

 なるほど。最初に病室へ入ってきた男女が父と母で、伝説級美女、お色気泣きぼくろ美女、釣り目ゴージャス美女が三姉妹、ということか。しかも全員が巨乳。遺伝子ってすげえな。

 うん、よく分かった。

 とりあえず、全員がとてつもなくイケてる家族だってことは分かった。

 で、何なのコレ?

 なぜ俺のところに来るんだよ。意味が分からない。ひょっとしたら身体がぷよぷよになっていることと何か関係があるのか?

 これからエリィをどうする、という話を全員でし始め、しばらくすると会話が終わったらしく、四人は出て行った。

「エリィ、できる限りのことはするから、何でも言ってね。学校が終わったらまた見に来るからね」

 エイミーと呼ばれていた伝説級の美女がいなくなると、メイドオバハンも姿を消した。

 くそ、声が出ればあれこれ聞けるものを。

 会社に連絡ができないのは心配だが、まずは身体を治すことに専念しよう。なぜ外人メイドが世話をしてくれるのか、なぜイケてる家族が来たのか、なぜ俺が太っているのか、めちゃくちゃ疑問点はあるものの、現状では何もできない。こういうときは図太く立ち回るのが俺流だ。

 ちらりとテーブルを見た。

 外人オバハンメイドが持ってきた物が整理されて置かれている。

 花柄の可愛らしいポーチ、化粧道具が入っているであろう、これまた可愛らしい両手大の箱、手鏡、雑多な本、ピンクとか白とか男の俺からしたら絶対着ないであろう女用の服がいくつか。あと、皿の上に甘そうなお菓子類。

 ギリギリ手の届く場所にあった手鏡を持った。

 そして、なにげなく覗き込んだ。

 ファッ!?!?!?!?

 そう、俺は何気なく覗き込んだのだ。

 フェッ!?!?!?!?!?!?

 そうなのだ、俺は何気なく覗き――ヒィィィィィィィィィィィィッ!

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