初恋の美少女が俺を振って、妹になったんだが
第2話 俺に義妹ができるらしいんだが
「他人の私が居たら邪魔だろう。これからのことを三人でゆっくり話合え」
俺達の中で最年少である小三の凛子はそう言い残し、部屋を出て行った。
大人だ。
今、俺の目の前に居るクソでアホな親父にツメのアカを煎じて百トンくらい無理矢理口の中につっこんでやりたいとマジで思う。
ことん。
「彼方くん、どうぞ」
「え? あ、は、はい。どうもすみません」
俺の前に緑茶が置かれていた。どうやら俺がソファーで黙り込んでいるうちにハルカソラ先生が淹れてくれたらしい。客人に気を遣わせてしまった。てか、親父、おめーも、暢気にお茶飲んでんじゃねーよ。おめーが淹れるんじゃなかったのかよ?! 俺は親父の隣に座り、その横顔を睨む。
「お話いいですか?」と正面に座った作家先生が、俺を見た。俺は「はい」と答えるしかない。
「私と沢渡さん――貴方のお父さんは、一週間前に籍を入れたんですけど、少々問題がありまして。私の娘がとても強く反対しているんです。あまりにも突然すぎると。相談もなしかと」
「至極まっとうな反応かと思いますけど」
どうやら、この人にも連れ子がいるらしい。で、その子にも一切何の話もせず、この人達は入籍しちまったようだ。そりゃ怒るわ。女の子なら、俺以上に怒って当然だわ。
「そこで、お前の出番だ、彼方!」
「ぐわっ?! いきなり叫ぶな! てかお茶を俺に吹きかけるなっ!」
唐突にデカい声を張り上げてにじり寄ってくる父さんを、俺は右手で野良犬を追い払うような仕草で遠ざける。
だが、父さんはちっともめげずに更にあろうことか、
「その娘さんをお前が説得してくれ!」
「はあっ?! どういう文脈で、俺がそんな役目を引き受けると思ったんだ?! あんたはそれでも小説の編集者か?」
「彼方くん、リアルな会話は案外繋がってないものなのよ。これ初歩的なテクニックね」
「いや、俺は作家志望者じゃないんで」
くそっ、親父だけでなく、この作家先生もボケ属性だから、ツッコむのが忙しい。
ああ、マスター師匠戻ってきてください。
「なら、ちゃんと考えて。彼方くんは、お父さんが再婚するのは嫌? 仮にずっとこのままなら、お父さんは独身で出版社というスーパーブラック企業で、身も心もぼろぼろにして働きながら貴方を育て上げるでしょう。でも、貴方はやがて独立して家を去る。そして、お父さんは良くて定年、悪ければリストラで社会の片隅に追いやられて、寂しい独居老人になり果て、ある日若い頃の無理がたたって心臓発作を起こして倒れてしまう。でも誰もそれに気付かない。数週間後に腐敗臭が充満したこの部屋で孤独死したお父さんは次の日の朝刊に小さな記事で、」
「……………………………………………………………………父をよろしくお願い致します」
俺は深々と目の前の女性に頭を下げるのだった。
「ありがとう、彼方くん。沢渡さん、息子さんの説得は成功したわ」
ハルカソラ先生と親父がハイタッチして喜んでいた。
いやいや説得じゃないでしょ、脅迫でしょ今の。
チクショウ、プロ作家の表現力に負けた。
「よし、じゃあ、お父さん達のために、協力してくれるな、彼方!」
父さんが右手の親指を立てて、ウインクをする。やめろ、鳥肌が立つ。
「今のハルカソラ先生の話を、そのまま娘さんにもすればいいんじゃない?」
さすがに母親が孤独死してもいいとは言わないだろう。
「したのよ。でも、そうしたら、あの子ったら、自分も結婚しないから、私の死に水は取ってやるって……」
「そうっすか、死に水取ってくれるんすか……」
なかなかにキモの座った娘さんのようだ。
「とにかく明日一度、四人全員で会って話合いをすることになったんだ。そこで、お前が兄として、その子を説得して妹にしちゃってくれ! 兄の魅力で我が娘(予定)に「あっ、この人、ちょっといいかも……お兄ちゃんって呼んでもいいかな……うふふ!」って思わせてくれればいいから!」
「俺に全部丸投げかよ?! 会ったこともないのに、無茶言うな!」
この親父は何を考えているんだ。
「大丈夫よ、彼方くん。ウチの子、私に似て可愛いから、きっと気に入ってくれるわ」
「そーいう問題じゃないでしょうが! 先生も作家で母親なんだから、もっと娘さんの気持ちを察してあげてくださいよ!」
俺はまだ会ったこともない妹(予定)にとても同情した。
きっと、この母親に振り回されて苦労してるんだろうな。不憫だ。
「ともかく、明日の六時きっかりに、ここで家族四人全員が集結する! 沢渡家の未来のために超頑張ってくれ、彼方!」
「お義母さん、期待してるからね、彼方」
ノリノリのアホ親父と、すでに俺の母親きどりの女流作家のハイテンションぶりに、俺は一人置いてきぼりだ。
「……とりあえず会ってはやる。でも、あんまり期待するな」
俺は憮然として、釘を刺しておく。
「お前、父さんが孤独死してもいいのか?! あっ、そうか! 自分に彼女がいないから、モテモテの父さんに嫉妬してるんだな?! この非リア充ボーイめ!」
「いっそ今すぐ死んでくれって思えてきたわ!」
俺はデリカシーのない父親に向かって、辛辣な言葉とともに、グーパンを放つのだった。
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