物理的に孤立している俺の高校生活

森田季節

1 物理的に孤立している男子はクラスの同類の秘密を知った (3)

 それに異能力バトルってたいてい友情とか恋愛みたいなの、ついてくるし。全キャラ、ぼっちで独自行動してるなんて作品はない。

 掃除をしている女子たちは楽しそうに笑いながら話している。

 声は聞こえてくるが、俺には笑えるような内容には感じなかった。

 友達というのは、しょうもない話題でも楽しく笑って話せる関係を言う。もし、俺がしんでんさんの友達だったら、「一身田さんの名前、毎回、しんでんしんを思い出すんだけど」って言葉で絶対に盛り上がるのだ。「なりひら君と心通じ合いたくない(笑)」「ひでー(笑)」みたいなじゃれあいすらありえた。

 でも俺は友達でもなんでもない。掃除をしている他人。

 部外者の言葉は自動的に不気味だし、だからおもしろくもならない。

「ごめん、部活のミーティングがあるんだ……。先抜けるね!」

「ゴミ入れるのだけ、やっといて! お願い!」

 女子たちが勝手なことを言い出した。ゴミまとめるだけなんだから最後までいろよ。協調性ないんじゃないのか? ──なんてこと言えるわけがないので俺は、

「うん、いいよ。やっとくよ」

 と答えた。そう、気の弱い奴って、ルールはよく守るのだ。協調性ないのはむしろリア充のほう。だからリア充は三日に一回、口に口内炎できて、苦しめばいい。

「ありがとねー、業平君!」

 軽い調子でさっきまで盛り上がっていた女子四人がばたばた帰っていく。何が「ありがとねー」だ。その感謝の気持ち、五秒後には忘れてるだろ。残されたのは俺と女子一人だけ。ほとんど終わっているとはいえ、押しつけられた格好だ。

 女子と一対一か。俺とタイマンで最悪とか思われたらいやだな……。そう思いながら、残ったのは誰だろうと確認して──俺は硬直した。

 ある意味、俺と似た存在がそこにいた。

 たかわしえんじゅ──通称「氷の姫」。

 高校一年の時、ペーパーテストではずっと学年トップの成績をマークしていた。

 そのうえでバカと話すことはないとばかりに、誰とも話さずに超然としている。二年で同じクラスになってからも、休み時間はたいてい大きめのヘッドフォンで外部の音をシャットアウトする徹底ぶり。

 そう、話す人間がいない点だけは俺と共通しているのだ。

 今日も高鷲は「氷の姫」という名にリアリティを感じるぐらいに、すべてを見下しているような冷たいひとみと貴族みたいな長い髪をしていた。もちろん、姫という言葉がしっくりするほどに顔も整っている。女子の中では背も高くスタイルもいいから、モデルっぽさもある。

 天は二物を与えずという言葉があるが、はっきり言ってガセもいいところである。

 たいてい、多くを持ってる人のところにはさらにいろんなプラス要素が集まる。

 逆に何もかもくいかない人間は、性格もひがみっぽくなったりくつになったりするから、余計にダメな要素が増えがちだ。

 だいたい高鷲にぴったりな「さいしよくけん」ということわざからして、すでに「天は二物を与えず」とじゆんしている。ことわざ業界はもうちょっとまともに仕事してほしい。

 ──もっとも、高鷲の評判は、ぶっちゃけ悪い。

 そう、高鷲は才色兼備ではあるが、人格面で難がある(らしい)。

 うわさでは関わろうとした人間には徹底した毒舌で応戦し、泣かした女子は数知れないとか。

 すべての女子にイライラするようなあだ名をつけているとか。

 一年の時、「性格ブス? うん、じゃあ、あなたは性格以外ブスね」と歯向かった女子に言い返して、撃退したらしいとか。

 伝聞情報なので、全部「とか」です。

 少なくとも、二年で同じクラスになって一か月ちょっとがすぎたけど、休み時間はたいてい大きめのヘッドフォンをつけて、外部の音を完全シャットダウンしていた。今はさすがに外してるが。

※やけにくわしいと思われそうだが、俺はクラスの一番後ろなので、クラスのことは詳しい。

 ただし、そういう噂を俺は素直に信じてない。

 これだけいろんなギフトを持って産まれてきたら、うらやむ同性だっているだろう。そういうやつから根も葉もない噂を流されたんじゃなかろうか。

 俺はぼっちだからこそ、孤高に生きる奴を差別したりなんてしな──

「ったく、酢豚系パイナップル、かさつきアブラゼミ、限りなくほくろ、作画崩壊モブ……あのグループ、掃除ぐらいにやりなさいよ。掃除やれない人間は何やってもダメよ」

「ほんとにあだ名つけてた!」

 たかわしのつぶやきにツッコミを入れてしまった。

 出すぎたをした。ふだんはそんな友達同士でないと絶対変な目で見られるようなことはしないのだが、今のはタイミングがよすぎた。いな、悪すぎたのか?

 それで、高鷲はちらっと目つきの悪いひとみを俺に向けて、すぐにどこかにそらした。

 ふあ~あ、とけだるげなあくびをして、左手で押さえてから、

「ああ、もう一人いたんだ」

 いかにも「どうでもいいです」といった心情が強く伝わってくる声。俺のほうは見もしない。

 高鷲は粒の大きな雨が降る窓の奥を眺めていた。ほうきを持っているから魔女みたいに見えた。

「雨なのはつらいけど、酢豚系パイナップルたちがかさ持ってないと想像すれば、少しすっきりするわ。こんぽうざいのぷちぷちを一個つぶすたびに、あの子たちに一つ不幸なこと起きないかしら」

 いや、掃除を押しつけられた格好だから腹立ってるのわかるけど、口が悪すぎる!

「わざと、あの子たちの、ちょっと引いて、誰かが勝手に放課後に座ってた感を出そうかしら。なんか生理的にいやよね」

 直後、高鷲は本当にその列の椅子を微妙に引いていた。ずずずっと嫌な音がした。

 こんな人間が実在するのか。友達を作ろうとするどころか、自分以外一切信じないとばかりに武器を持って他人を追い払う生き方を選ぶなんて……。

 椅子の引き方に満足したのか、高鷲はうんうんとうなずいていた。

「あのさ……高鷲さん、俺にもあだ名つけてたりする……?」

 聞いたのは、好奇心からじゃない。

 知らないままなのが怖かったのだ。

「えっ? 君はすみっこネズミ野郎だけど」

 やっぱりけっこうえげつないの来た!

 しかも、ショッキングなことに、彼女は俺のほうに向きもしない。

 視界に入れる価値すらないということか。

「あの……もう少しオブラートに包んでいただけないかな……?」

 さらに言葉をかけられて、高鷲は値踏みするように俺をようやくいちべつし、またすぐに視線をそらす。お前とのコミュニケーションは有料なのか。

「じゃあ、『予選落ちをいい経験したと無理矢理ポジティブな記憶に変換する系男子』」

「ネガティブよりはいいだろ! 許せよ!」

「『SNSで勝手にからんできて、相手の反応が悪いと勝手にキレて去っていくやつ』とかは」

「俺、そこは自制心あるし、SNSは実質やってないからな!」

 こんなに人の尊厳を傷つけられるのって、もはや異能力ではなかろうか。

 そういえばたかわしの異能力って見たことがない。「氷の姫」と言われるぐらいだから、氷関係か。マジで毒舌そのものだったりして……。

「た、高鷲さんって、友達いらないんだね……。つ、強いね……」

 こんな点をめる必要もないかもしれないけど、俺にとってこの女子はたしかにあこがれの一つではあった。

 俺が「殺さないでくれ、殺さないでくれ!」と言って結局殺されるモブだとしたら、高鷲は勝てない敵に剣をとって殺されるキャラなのだ。

「物理的に孤立している俺の高校生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます