物理的に孤立している俺の高校生活

森田季節

1 物理的に孤立している男子はクラスの同類の秘密を知った (2)

 この力が発現したのは小学校の五年生だったから、小学校時代はすでにある人間関係の貯金でぎりぎり逃げ切れた。友達は一時的に五十センチに入ってもいやな顔もしなかった。

 中学生活は異能力のせいで灰色。むしろ無色。無視されたんじゃなくてガチで危険視された。一メートル半くらいだった間隔が二メートルに延びていた。

 異能力者を対象にした高校の生活も二年目に突入したが、やはり灰色。むしろ無色。異能力者の高校なら理解されるかなと思ったが、同情も共感もなし。すいじやくさせる力って気味悪いからな。

「俺に色をつけてくれ!」と大声で叫びたかった。

「おかしいだろ! 他人を弱体化させる異能力なんて高校生にはまったくメリットないぞ!」と大声で叫びたかった。

「罪もない俺が負け組の中の負け組になるのはおかしい! ほかは割りと高スペック。場合によってはこのスペックなら彼女がいるまである!」と大声で叫びたかった。

 声に出すことはできなかった。

 そんなことすれば異常行動と認定される。

 俺は「性格はまともな奴」から「性格もキモい奴」に降格になる。

 いったい俺は前世でどんな悪いことをしたんだ? 教えてくれ! それがわかり次第、前世に干渉する異能力者を探し出して、前世の俺を殺してもらう! 自分の前世にあたる人間の運命を変えたら、来世の俺の運命も変わるんじゃないか? いや、もしかしたら、俺が消滅して全然違う人間になるかもしれないから、まずいかな……。タイムパラドックス的には大丈夫な気がするけど……。

なりひら、この英単語の意味、わかるか?」

 どう先生に当てられていた。ヤバい。いきどおりの結果、授業中ということを忘れていたのだ。でも、わかる質問でよかった。

「ええと、isolationですね。意味は『孤立』です」

 俺はで答えたつもりだった。

 だけど、先生の顔色が変わった。

「あ、すまん……別にお前への当てつけじゃないんだ……。偶然、そういう単語だっただけだ……。あっ、かといってお前が一人でずっといると考えてたわけでもなくてだな……」

 あああっ! 当てつけでないと弁解したら、今度は孤立してると認めてることになるから、それも弁解しないといけない流れ、ものすごく面倒くせええええええ!

 差別はダメだと言った瞬間、差別があると認めたことになってしまうというこの一連の流れ、やりきれん……。これが社会問題であればむしろ顕在化させることで解決に乗り出すこともできるが、ぼっちを顕在化させてもそこに友達になろうと突っ込む人間はいないのだ。

 くそ、いっそ不良にでもなってやろうか!? 席のポジション的には完全に不良だし。ダメだ。そんなことをしたらAO入試にちやちやひびく! 大学進学に悪影響が出る! というか、不良仲間すらできない気がしてきた!

 ならば、いっそ自分から「ぼっちでーす」とネタにするか!? いや、それ、失敗したら大事故だ。クラスメイトがまあまあ本気であわれんでいた場合、笑ってすらくれないおそれがある。

「先生、俺、気にしてないですから」

 心を殺して、俺は言った。

 むしろ、俺を殺してくれ。俺は絶望でできた砂浜に一人立っている。手ですくっても、すくっても、絶望しかつかめない。足下には幾千、幾万の絶望があるだけだ。

 一日中、悲しみに暮れつつ不遇の改善を祈った。


 祈ってる間に、その日の授業が終わっていた。

 祈りでこの世界を変えるなんて、最強の異能力は存在しない。


    


 祈り続けてダメだから、俺は再度行動する。

 俺は戦う男だ。友達を作るためなら悪魔にでもなる。

 授業が終わっても放課後というロスタイムがある。まだ今日は終わりじゃない!

 高校生活は人生で三年しかない(留年した場合などを除く)。それもすでに二年目に突入しているから三分の一は終わっている。のんびりしてると半分が消化される。

 友達いないまま、三年間が終わるのだけは避けたい。

 これで俺がなんらかのゲームやスポーツに打ち込んでる人間なら、そっちに集中していたという言い訳も立つが、そういうのはとくにない。スポーツで対戦相手に近づきすぎるのは、異能力上、基本的に反則になるから出られないし。

「掃除、俺も手伝うよ」

 いつもどおり掃除担当の列でもないのに、俺はそこに加わってほうきを取る。

 こいつ、いい人間だなと少しでも思ってもらいたいのだ。

 一ミリでも可能性があれば行動する。会話のきっかけでも生まれるかもしれない。

 たとえば、こういう展開だ。

「ほんと、なりひらって偉いよな」「まあ、俺、帰宅部でひまだしさ」「俺も今日は部活サボるわ。業平、いつしよに帰らねえ?」「ああ、いいぜ。コンビニでアイスでも買ってくか」「お前、割りと近づいてくるんだな」「だって一メートルって意外と寄れるぜ。大丈夫、大丈夫」

 そう、そう。こんなどこにでもいる男子高校生のちょっとした友情みたいなのがいいんだよ! この気取らない関係におもむき深さがある! ソシャゲも音楽も格闘技も俺なら話できるよ! 君のしゆに合わせられるよ! 下ネタもエロネタも君が望むなら対応しよう!

 ──今日の掃除担当の列は全員女子だった。

 ぼっちで異性の友達を作るとか、魚類が陸上生活を通り越して、宇宙に挑戦するとか言ってるようなもんだぞ! まずは陸上生活でいいから。地に足つけたいから。

 掃除をしているほかの人間から、距離をおいて箒を動かす。

 不幸は重なるものだ。窓の外を見てたら、雨が降り出してきた。

 チャリ通なので、雨はこつにテンションが下がる。

 かさを差して自転車を走らせることは厳密には道交法違反だし、かといってレインコートを着て走るとあとでかさばるし、大阪のオバチャンがよく使用している傘を自転車に固定する道具はアバンギャルドすぎる。

 どうするかというと、小雨だとヤケクソで自転車をこぐ。小雨程度で風邪をひくことはないから、これが一番現実的だ。

 それでも家と高校まで距離があるから、着いた頃にはなんだかんだでぬれている。

 じゃあ、電車通学にしろとしたり顔で言うやつは、地獄にでも通学しろ。俺が電車やバスに乗ったら、周囲の人間をすいじやくさせる。どうしても乗らないといけない時もひんぱんに下車したり、車内を移動して、被害を減らすことを考えているのだ。

 窓の外では、雨の中をかさ差しながら空飛んで下校するやつが見えた。空を飛ぶぐらいのことができる奴はたまにいる。江戸時代は飛脚として活躍した能力で、文字通り飛んでいたらしい。

 現代でも交通費が浮く。こうけんレベル4ぐらいもらえてるんだろうな。少なくとも、就職したら出張費浮くから、会社としてはありがたい人材だ。

 高校生にもなると貢献レベルの差でマウンティング取る奴も威張る奴もいないが、就職する際にちやちや影響してくる。うわさでは大学進学も推薦で行きやすいという。

 なので高二になって微妙に入試の「にゅ」ぐらいを意識している俺は、ついつい他人の貢献レベルを考えてしまう。たしか異能力で実績を出せばレベルも上がるはずだ。

 敵よ、来い。

 俺がほどほどに負傷しながら最後は勝利できる程度の敵、来い。

 ほうきを動かしながら都合のいいことを考えた。

 友達のことなんてすっかり忘れてしまえるような、長い戦いの日々とか訪れれば苦しまずにすむ。くいけば周囲から感謝されたり尊敬されたりもする。

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