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年下寮母に甘えていいですよ?

今慈ムジナ

おかーさんとであいました (2)

 僕のキャラに合わないアドバイスが続くので、冷たくあしらうようになった。

 それだけならまだしも、以前、僕の内面に踏み入るような話をされた。

「困った人は助けても借りは返させたがらないとか、相手も納まり悪いのにね。自立意識が強いのかな? 誰にも頼りたくないのか……ツンデレで頑固よねー」

 他の誰かの話だよって口ぶりだったが、あれは遠回しにたしなめられたと思う。

 だったら、距離は開けておきたい。クラスメイトのように無難な距離でいられないのなら。

 そうして僕は、一人で重いダンボールを運んで行った。



 放課後、クラスメイトから遊びに誘われたがアルバイトを理由に断り、教室をあとにした。

 下校中、陸上部員と談笑している中性的な子が遠目で見える。だ。

 高校生活をおうする真菜に反して僕はと考えたが、とりたてて不満がなかった。

 僕は望むままに一人暮らしを謳歌しているし、クラスでも望んだポジションにいる。

 頭のモヤを払うように、僕はバイト先のファミリーレストランへ向かった。

 到着してすぐにスタッフルームで制服に着替え、今日もキッチンで仕事を始める。

 そうして懸命に働く僕へ、店長から吉報が。なんと時給がアップするらしい。

 ついでに苦手なホールでの接客業も任されるようになり、キッチンとホールを同時に回すという二人分の作業と、十円アップの時給は本当に等価値なのか誰か教えて下さい。

 結局、きっちり二人分働いて、ようやく本日の業務終了。

 夜もけ、外灯の光を頭に浴び、疲れた身体からだを引きずるように薄暗い道路を歩く。

 晩御飯は今日も手にぶら下げたコンビニ弁当だ。

 コスパを考えれば自炊が一番なのだが、あれは毎日調理して材料を使い切るのが前提だ。

 休日はゆうぞうじいのつてを頼り、工事現場で働いたりするので家に帰ればぐったりだ。

 ふらふらと歩いている内に、アパートに到着する。

 びた鉄階段を上っていくと、れいな女の人が二階通路に座っていた。

 女の人は沈んだ表情で三角座りになり、隣の家の玄関扉を直視している。セミロングの黒髪は毛先がウェーブ状で、白いブラウスに上品なスカートを穿いているが、通路の汚れを気にしていない。涙目で耳を赤くし、なんだか男にフラれたような情調だ。

 僕を察知したか彼女──さんじようさんは、半世紀ぶりに人と出会ったような顔を向けてきた。

ゆう君! 電気! 電気がかないの! カチカチッてしても、カチカチッのままなの!」

 半泣きで僕に詰め寄り、女性にしては少し長身のたいで、身振り手振りで説明してきた。

「音子さん悪いことしていないの! でも全然わからないの! あのね!」

「三条さんの至らなさはよくわかったので、深呼吸して下さい。はい、落ち着けー」

 三条さんは何度もうなずいて深呼吸を始めると、ゆったりとした服の上からでも形のよくわかる大きな胸が呼吸と一緒に上下したので、僕は思わず目をらした。

「うん。優斗君。音子さんの部屋。電気が点かない。わかりません。音子さんお手上げ。さあ、答えはなぜでしょーか? あのね、今なら音子さんチャンスで得点倍率高いと思うの」

「答えが簡単すぎます。とりあえず三条さんのおうちに入れて下さい」

 ひとまず、子供みたいな三条さんに玄関扉を開けてもらい、真っ暗な部屋へ侵入する。それから玄関側のブレーカーを探し当て、スイッチを入れなおして部屋の電気を点けた。

 廊下に戻ると、すっかり元気になった三条さんが拍手をした。

「見事な正解でしたー。優斗君は音子さんポイントを稼ぐのがお上手だねー」

「これぐらい常識です。問題ばかり起こさないで下さい」

「うー、音子さんの痛い部分を突く……学がないのを気にしているのになー」

「生活力の問題です。まあ困ってる隣人を助けるのも、できる大人の役目ですかね」

 さんじようさん、本人はしがないフリーターと話していたが、本当はいいとこのお嬢様じゃないのかな。普段かられいな服を着ていて、優しいお姉さんって感じの人だ。

「いつもじゃないよ? たまたま、たまによ? さんはしっかりした人なのでー」

「はいはい。たまたまですね。外見だけはたまたまなぜか、しっかりしている人です」

 三条さんは小さくうなって、小石をるようなねた仕草をした。

「でも音子さんの炊事力はねー。ざっと見積もってゆう君の三倍はあるのだよー」

 三条さんは右手人差し指と中指を立てる。

 三倍と二倍を間違えたのかと疑ったが、自信満々な三条さんのVサインだと理解した。

「そういうわけで、炊事得意な音子さんが優斗君へ、またお礼に夕食を作ってあげるー。優斗君なにがいい? 肉じゃがにする? 肉じゃがにする? それとも、に・く・じゃ・が?」

「肉じゃがしか作れないんでしょう。知ってます。肉じゃが魔人と契約したんですよね」

「ざんねーん。努力家の音子さんはレパートリーを増やしたのでしたー。はい、失礼なことを言ってのけた優斗君は問答無用で音子さんの手料理を食べないといけませんー」

「肉じゃがしか作れないのろいだとか言い訳していたじゃないですか!」

 最初はただのお隣さんな交流だったのに、彼女がよく問題を起こすから関わりが増えている。

 これ以上僕の領域へ踏みこむなら強く言うべきかと、僕はわざとらしくせき払いをした。

「……前にも言いましたけど、僕は借りを作りたくないんですよ」

「知ってるよー。お礼だって念を押してようやく肉じゃがを受け取るくらい、頑固でツンデレだもんねー。でもね、持ちつ持たれつ、不器用同士お互いを必要としよ?」

 三条さんは中腰姿勢で見上げる、その大きな胸を強調するポーズはめていただきたい。

「……考えておきます。あと、僕は頑固でもツンデレでも不器用でもないんで」

 僕がそっぽを向くと、三条さんの苦笑した声が聞こえた。

 そのあとすぐに、お互いの部屋に戻る。三条さんはなんだかんだで距離を保つ人だ。僕が納得しなければ料理は作らない。僕の領域へ乱暴に踏み入らない人だ。

 僕としてはそこがとても助かる。

 疲れから寝室にへたり込んだ僕は、黄色のビー玉こと「雷神サンダー」をピタゴラ装置に配置した。黄色ビー玉は木造レーンを稲妻のように駆け、他のビー玉を弾いていく。

 ここよい音色を聞きながら、今日の僕の採点を開始する。

「今日も僕は誰にも頼らずにいけた」と思う。「普段より器用に立ち回った」と思う。

「孤立せず、他人との距離を保ち、僕はこの年で普通に一人暮らししていて偉い」と思う。

 でも、みんなが高校を卒業して一人で生活するようになったら、この優越感は? 全員とスタート地点が同じになったら? 僕に誇れるものは残っているのか?

「僕は誰にも頼らず生きられる。ご立派すぎるじゃないか。栄誉勲章ものだよ」

 一人で生きられる自分が誇らしい。誰かと深く関わらなくても人間は生きられる。

 この先ずっと、僕の生活は崩れやしない。



 次の日の夕方のことだ。僕に悲報がお届けされる。

「アパートを取り壊す? あと一か月で?」

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