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年下寮母に甘えていいですよ?

今慈ムジナ

おかーさんとであいました (1)


 カーテンかられる日差しで、僕は起床した。

 とんをのっそりい出ると、壁にかけた学校指定のブレザーが目に入った。

 四月になり高校二年生になって、ようやく着慣れたかな。高校で初めて「先輩」になっても、僕自身に変化はない。

 いつもどおり、そう機の電源を入れる。築三十年の二階建て鉄筋アパートは、壁が薄くて騒音トラブルが発生しやすい。なので、お隣さんがいない時に掃除をすることにしている。

 学生の一人暮らしには少し広い1DKの部屋だが、手間はない。

 洋室に本棚とテーブルと古いテレビと衣装棚ぐらいで、服は着回せるものばかりでかさ張らない。部屋はいつも小ざっぱりだ。

 目立つ所持品は洋室を飾る、ピタゴラ装置を作れる積み木。

 この積み木、ほんとすごいんだよ。

 細い溝が刻まれた木製ブロックを組み合わせ、創意工夫あふれるコースが作れる優れもの。

 この積み木の凄さにおさなじみは理解を示さず、たくさん優れた点を語ってさしあげたのに「うん、そっか」の一言で片付けられたのが、いまだに納得いかない。

「今日は赤ビー玉の鮮血のレッド、君に決めた。ふふ、お前は今日もれいな鮮血色だね」

 ビー玉をつまみ、木製のとりでのようなピタゴラ装置のスタート地点へ置いた。

 すると、溝に沿って転がり出したビー玉が、道中に配置された他のビー玉を小気味よい音で弾いて連鎖的な玉突き衝突を起こし、次々にブロックの仕掛けが発動する。

 少し前にここへ監視しに来た真菜が、この玩具で一人楽しんでいた僕を見て、「大丈夫? 私と一緒に早朝ランニングする?」などと、健全な魂は健全な肉体に宿るとでも言わんばかりの妙な誤解をされた。なので、立派に一人暮らししている姿を見せた。

 それなのに真菜は、「ゆう君はアホ……じゃなくて、抜けた部分があるし、変に人がいいとこあるんだから気をつけてね? 素ボケするし」と小言で終わらせたが納得いかない。

 僕はちゃんと社会に適応して、他人との距離を守り、誰にも頼らず生きている。

 僕は自立した大人だと、真菜へ言ってやりたかった。

 食パンを平らげ、登校時間になったのでブレザーに着替えて身なりを正し、ゆうぞうじいの形見のレザーバンドの腕時計を身につけてのフル装備。

 玄関でかわぐつを履いていると、小さな靴箱の上のカラフルな写真立てが目についた。

 写真は入っていない。

 この写真立ては前の入居者のものだ。いらないそうだから置いていったと管理人のおばあさんは言ったが、まだらなペンキ跡や木片のズレた接着面を見るに、子供が作ったものだ。

 この写真立ては、子供の思いが詰まったものじゃないか?

 そんなことを考えると捨てられず、結局は置きっぱなしだ。

 でも、僕の家族の写真を飾る気もない。この写真立てに中身が入ることは多分永遠にないな。

 写真立てから目をらし、僕は壁にもたれるようにして玄関扉を開けた。



 春の陽気が眠気を誘発し、欠伸あくびみ殺す。

 都心から離れた住宅街なので周辺は一軒家ばかりが目立ち、個人所有の雑木林がまばらに乱立する。高層建築物といえば、大学や駅前に密集した高層マンションぐらいだ。

 だからか、ほう西せい大学付属高等学校の周辺施設が離れていても遠望できる。

 都心の通行量と思えるほどの生徒達が、僕と一緒になって登校していた。

 学校の規模はかなり大きい。

 法西付属は、キャンパスや記念館等の大学周辺施設等と密接し、高校生が使えるグラウンドが三つもある。内一つの人工芝の大きなグラウンドは高校に隣接しており、テニス用、陸上用と専門で区分け、朝礼を校内アナスウンスで済ませるといえば、その規模がうかがえると思う。

 一等地の病院みたいな清雅な校舎内に入り、下駄箱で上履きに履き替える。

 さっさと三階校舎のA組に向かい、クラスの真ん中の席へさくっと座った。

 座席の位置がクラス内での立ち位置を表すかのように、僕の学校での立ち位置は可も不可もなく。クラスメイトから遊びに誘われたら、都合が合えば顔を出すぐらい。

 クラス内で特色がないのが僕の特徴。どのグループともそこそこ話せる立ち位置だ。

 空気よりは存在感があって、とはいえいつでも代替の効く存在みたいな。

 不満はない。無難な対応で親しい人間は作らずに、けれど孤立はせず、対人関係で波風も立たない。他人ひととの距離を侵さない、お気楽ポジションだ。

 それなのに、この四月になってからというものの、

「HR終わりー。それから昼休み中、みや君は私のところへ来るようにー」

 たびたび担任のわたなべ先生から呼び出しを食らっていた。

 なんなの。僕を好きなのこの人。

 昼休み、クラスメイトのあわれみの視線を避けるように職員室へ顔を出す。

 高齢の教師に「四ノ宮、またか」となごやかに話しかけられたし、僕は常連の認識なのか。

 微妙に目立っているというのは嫌だな。

 僕はさっさと渡辺先生の下へ行き、指示されたダンボール箱を持ち上げるが、辞書でも入っているのか結構重い。

 と、に座っていた渡辺先生が魅惑的に足を組みなおし、無言の僕を見上げてくる。

 渡辺先生、若いのにしようっけなくて地味な格好で眼鏡めがねなのに、変に色気あるんだよな。

みや君って愛人の素質あるよね」

 僕は意識して目を細めた。

「残念です。わたなべ先生が対価型セクハラによって解雇されるなんて、残念で仕方ありません」

「やだな。変に誤解しないで、四ノ宮君には愛人の素質があるって言ってるだけよ」

「言葉どおりじゃないですか……なんですか、その愛人の素質ってのは」

「四ノ宮君、を誰にもこぼさないでしょう? 飲み会でねーあるの、本人がいなくなってからの愚痴大会。自分も言われているかもなのに、好き放題言ってあとで不安にならないのかな? だからある年齢になるとね。四ノ宮君みたいな相手を求めるの。ああ、飲みたくないなあ」

 ようは断れない飲み会に誘われたので、誰かに愚痴を零したいらしい。

「ツバメーツバメはなぜ若い。あ、四ノ宮ツバメってわいくない?」

「先生が解雇されても僕にはメリットしか存在しません。ご理解下さい」

「でもツバメじゃなくて、酒場のママさんもいいかも。四ノ宮君。男も港の時代」

 僕がじいちゃん子だからギリでネタわかるけど古すぎませんかね。

「先生、僕の話を聞く気ないでしょう」

「ああ、癒やしが欲しいなあー。旅行も準備を考えるだけで疲れちゃうしなー」

 ご覧のとおりですよ。でも、生徒の悩みはしんに聞いてくれるし、悪い先生ではない。

 教職は気苦労が多いと聞くし、ストレスをめているのかな。

 仕方ない。そっとしてあげるのも良識ある大人の行動だ。

「四ノ宮君へ今日のアドバイスー。変な女にだまされちゃだめよー」

 黙ってダンボール箱を運ぶ僕へ渡辺先生はそう言ったが、それに返事はしなかった。

 今日のアドバイスシリーズも、最初は僕も無難に対応していたが、

「女を巡って友達とけんしてはダメ、その女には本命がきっと他にいる」「地味な子のよさは、自分だけが気づいていると思わない」「クラスメイトとの夜遊びは午前二時の踏切まで」

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