青春絶対つぶすマンな俺に救いはいらない。

境田吉孝

第一話 恥の多い青春を送ってきました (2)

 が、なにはともあれ、あの日、俺があのリア充女に吐いてしまった暴言の数々は、そんなそしりもやむなしとしなければならないほど、愚かな行為だったと言っていい。

 そして、愚かなる行いにはいつだって、報いがあるのが世の常だ。

なら、それは俺が最低最悪のルサンチマン野郎だからだ。ざまーみろ、バァ────カッ!!

 なんて、クソみたいなシャウトの五分後。

『さ、サーセンした……』

 と、廊下に額をこすりつけ、する俺の姿がそこにはあった。

 それはそうだ。何故って、俺はここまでさんざ語った通り、あらゆる面で底辺なミソッカスであり、対するあのリア充女はこの学校において、あらゆる面でトップクラスに優れた雲上人。

 そんな女にあんなたんを切れば、どうなるか。考えなくてもわかるだろう。

 騒ぎを聞きつけ、どこからともなく集まってきた彼女の取り巻き男女十余名にブチ切れられ、袋叩きにされたあげ、俺は人の往来も激しい廊下のど真ん中で、床にキスすることと相成った。

 と、同時に、やまあきというクズ人間の名は、またたく間に全校中にとどろいてしまったわけで。

 いまじゃ、誰も彼もが、俺を見ればまゆひそめる。

 今日も、廊下を歩いてるだけで下級生女子から後ろ指を差され、「うわ、あの人って……」とかささやかれてしまう始末だし、クラスメイトたちからは陰であざわらわれてるような気がするし。

 そんな俺の現状をまとめて、でらごく簡潔にこう評した。

「自業自得ね。同情の余地が欠片かけらもなくて、逆にすがすがしい」

 と。……えぇ、まぁ、それはまさしく、その通りだと思いますけども。

「そもそも、狭山はそのゆがみきった負け犬根性がめんどくさいのよ。弱い犬ほどよくえるっていうか」

 その点についても、やっぱりおつしやる通りで抗弁のしようもありませんけども。

「ていうか、あんたって基本スペックからして人として優れてるところが一つもないのに、性格まで悪いってなんなの? どういう人生送ったらそんなやくまんみたいなクズになれるの?」

 それは、俺も常々、不思議に思ってはいますけども。ていうか、小野寺さん、そろそろ悪口長すぎだと思うんですケドモ。

「だいたい、あんたは……」

「だーもー、うるせーうるせー! こんなにも無抵抗な人間に、ネチネチとしつようしゆうとアタックかましやがって、人の傷口に塩をり込むのがそんなに楽しいか、てめぇは!?

 なんて、あまりにもグサグサくるとうの数々に、思わずでらにらみつければ、同じソファに横並びで腰かけるその女は、まるでゴキブリでも見るかのような不快げな表情を浮かべていた。

「ねぇ、やま。逆に聞きたいんだけど、あんたこそ、そんな欠陥だらけの人間性で生きてて楽しい? たまに、死にたくなったりしない?」

「う、うるせぇ、マジトーンでそんなほのぐらいこと聞いてくんな。深く考えだすと、夜寝られなくなっちゃうだろうが」

 ちなみに、どうでもいいことだけれど、俺にも割りとせんさいなところとかなくはないので、たまに自分の悲惨さをかえりみて、悲しくなる日もあったりなかったりしないでもない。現に、あのリア充女とのいざこざについて思い返すと、軽くブルーな気分になってしまう今日この頃。

「……いや、そりゃまぁ、俺だって流石さすがにわかってんだよ。自分が、どうしようもないダメ人間だってことくらいはさ。けどな? だからって、俺みたいなのをクズだとかロクでなしだとか言っちゃう世の中の風潮にも問題がある」

「はぁ。あんたがクズじゃなかったら、一体なんなのかって話になると思うんだけど」

 と、ひどくけだるげなハスキーボイスで言う小野寺に、俺は答えた。

「いや、だからさ。俺はクズなんじゃなくて、ちょっとばかし人よりも素直なだけなんだよ」

 言った途端、小野寺は『こいつ、何言ってんの?』みたいなあきれ顔を浮かべましたけども。どころか、その表情には『こいつ、頭おかしいんじゃないの?』みたいなドン引きのニュアンスさえ見え隠れしていますけども。

 が、しかし、人にけいべつされるのに慣れ切っている俺はそんなリアクションにも負けない、泣かない、くじけない。

「だって、考えてもみろよ。世の中は理不尽だし、不合理だし、不平等なもんだろ? 俺みたいに社会の底辺をいまわってるダンゴムシもいれば、世の中を楽しんじゃってる系の不快なやつらもいるわけじゃん?」

「ま、あんたからしたらそうかもね」

 と、そこはかとなく見下しが入り交じってはいるものの、一応はうなずいて見せる小野寺。

「たとえば、街で恋人つなぎしながら幸せそうに歩いてるバカップルとか見かけたら、こいつら避妊に失敗して人生設計狂わせねーかなー、とか思うだろ?」

「別に思わないけど?」

「SNSで調子に乗ってリア充アピールしてるバカな大学生とか見ると、ネットで炎上してさらし者にされねーかなー、とかも思うだろ?」

「別に思わないけど?」

「人気絶頂で金持ってそうな芸能人とか見ると、スキャンダルでも起こして仕事干されねーかなー、とかは思うだろ?」

「別に思わないけど?」

 ……なんだか、やたらとコピーペーストな返答が三連続で返ってきた気もするけれど、いちいちつっこんでいたら話が進まないので気にしない。

「だからさ? 人間、誰しもこういうみにくい心を持ってんだよ。でも、皆、保身とかとか考えて隠してんだ。いわば、自分に嘘をいてるわけだ」

 なぜかというと、人にしつすることを悪とする倫理が、現代社会には確固としてあるからで、ゆえに自分より優れたるものをもとしなければならないセコい空気が、そこかしこにまんえんしてしまっているからで。

 ルサンチマンとは、『弱者が強者へいだく嫉妬の感情』みたいな意味の言葉らしいが、世間は俺たちのような負け犬には厳しい。俺たち持たざる者は、持つ者へのじくたる思いにふたをして、むしろ称賛し、あるいはすうはいしなければならないというのが、この社会のルールなのだ。

 なんて不健康なライフスタイル。これをまんと言わずになんと言う。

「けど、俺はそんじょそこらの嘘吐きどもとは格が違う。俺は、たとえ誰にクズとされようとも、自分よりも幸せそうな奴に対して、つばを吐きかけることもいとわない。なぜか? 簡単だ。それは、俺が誰よりも自分に正直でピュアな男だからだ」

 と、まぁ、つまりあのリア充女とのいざこざだって、そういう俺の真っすぐな心根の発露だったと、そういうわけですねー。

……とかなんとか、理路整然と説明し終えると、なぜかでらは先ほどよりも更に温度の低い氷点下のまなしで俺を見ていた。で、言った。

「……開き直りもここまでくると曲芸の域ね。ねぇ、あんたもう存在が不愉快だから速やかに自殺してくれない?」

「あれれ? 小野寺さん、もしかして俺の共感性抜群の自己正当化演説聞いてなかったのかな? よかったら、もう一回説明してあげてもいいんだけど?」

「いらない。あんたのカスみたいなくつ理論とか、もううんざり。自分で自己正当化とか言ってるあたり確信犯だし」

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