青春絶対つぶすマンな俺に救いはいらない。

境田吉孝

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第一話 恥の多い青春を送ってきました



 負けていた。どうしようもなく、俺は負けていた。

 自分がこの世で最もおとったダメなやつだと、思ったことはないだろうか。

 俺はある。俺は毎日、毎分、毎秒、そう思いながら生きている。

 人に誇れるようなものなど、なに一つとして持っていない無価値な人間。

 ダメ人間であり、負け犬であり、日陰者であり、人生のらくしや。それが俺だ。

 けれど、あの日。高校二年生になった始業式の日。

 灰色の青春を送る俺に、彼女は優しく手を差し伸べてくれたのだ。

 それは、まるで奇跡みたいに。

 ──だから、それはたぶん運命だった。


「大丈夫、やまくんは全然ダメ人間なんかじゃないと思うわ」

 と、彼女はそのとき花開くようなほほみを浮かべてそう言ってくれた。

 アイドルのように可愛かわいらしく美しい彼女のその笑顔に、俺は不覚にもドキリとしてしまって。

「ねぇ、狭山くん?」

 彼女は、小首をかしげて尋ねてきた。

「そもそも、どうして狭山くんは、そんなに自分に自信がないの?」

 俺は答えた。それは、いままで一度も誰かに勝ったことがないからだと。

 勉強もダメ、スポーツもダメ、ロクに人望もなく、女にもモテず。そんな何一つとしていいところのない、完全無欠のダメ人間である俺に、自信なんてあるはずもない。

「そんなの、全然気にすることないわ」

 けれど、彼女はやんわりと首を振って。

「だって、欠点なんていくらでも克服できるものでしょう?」

 そう言い切った彼女の笑顔は、自信で輝いているように俺には見えた。

 いや、それは決して錯覚などではないだろう。

 なぜなら、彼女はこんな負け犬の俺とはおよそ正反対の人間なのだから。

 成績優秀。スポーツ万能。誰からも好かれる人気者で、学年中の男子の心を奪ってしまうほどの美少女な彼女。

 彼女は、つまりそんなかんぺきな女の子なわけで。

「ね? だから、そんな風に自分をやみするのって、よくないわ。もっと自分に自信を持たなきゃ。そうじゃないと、せっかくの高校生活、楽しめないって思わない?」

 彼女の声は、俺の心にどこまでも優しげに甘やかに響いた。

 それは、まるで恋愛ドラマやラブコメ漫画の第一話みたいなワンシーン。

えない主人公の前に、ある日、美少女が現れて……』みたいな、ベタにベタを上塗りしたボーイミーツガール。

 あぁ、こんなかんぺきな美少女と、青春を共に出来ればどんなにか素敵だろう。俺はほんの数秒、彼女との輝かしい学校生活を思い浮かべ、そして、その美しい瞳を見据えて──。

「……で?」

「え?」

「いや、だから。……で?」

「あ、あの、だからやまくんはもうちょっと自信を持ったほうが、素敵な学校生活を……」

「…………」

「えっと、狭山くん?」

「……んのか、てめぇ」

「へ?」


「ナメてんのか、てめええええええええええええええええええええ!!


「え? えぇっ!?

 と、俺の唐突な絶叫に戸惑う美少女A。

 いや、違うんです、これは。だってほら、俺ってこれまでの人生、ずーっと負けに負け続けてきた負け犬野郎ですから? そんな、いきなり「やれば出来る」的なテキトー極まりない就活サイトのCMみたいなこと言われても、「お、おう……」って引いちゃうくらいだし?

 てか、そもそも俺ってこういう成績優秀でスポーツも万能で顔も良くて、っていう勝ち組っぽい人間とか基本的には大嫌いですし?

 で、そんな女にやっすい同情なんてかけられた日には、はらわたの底に沈殿してる劣等感という名のガソリン的なもんに火がついて。

「おっ前、さっきっから黙って聞いてりゃ、高いトコから耳心地抜群のポジティブワード連発しやがって。なにが、『素敵な学校生活』だ、ナメてんのかテメェ!? じゃあ聞くけど、小学生の頃からお前らみてぇなリア充貴族どもの陰に隠れて、ゴミみたいな扱いされてきた俺の気持ち考えたことあんのか? なんの法的根拠もないのにクラスの女子全員から『性犯罪者』ってあだ名付けられて一週間学校休んだ俺の気持ち考えたことあんのか? んーな簡単に前向きになれるほど、こっちは優しい人生送ってきてねぇってんだバカ野郎がよー!!

 と、これこの通り。ついついしつの感情が倫理と平常心を飛び越えて、おうかくまくからマジカルダイブしちゃうよね、みたいな。

「つか、お前アレだろ? 大企業の社長とか、成功したスポーツ選手とかの格言的なもんネットで見かけたらツイッターでつぶやいちゃうタイプだろ? 『努力は成功の母』みたいなペラッペラの言葉、真顔で読みこんじゃうタイプだろ? 俺が一番嫌いなタイプじゃねーか、世の中の明るいとこだけ歩いて来たようなリア充女に、俺の気持ちがわかってたまるかってんだまったくよー!!

 とかなんとか、こういうのって一回言い出しちゃったら止めどないよね。

 その後も俺のぞうごんは続きに続き──。

「いいか、リア充女、よく聞けよ」

 言いつつ、俺はぼうぜんとした彼女にビシッと人差し指を突きつけた。

「誰がなんと言おうと、俺はおよそ欠点しかないダメ人間だし、他人から見下されてばっかのゴミクズみたいな負け犬野郎だ」

「…………」

「けど、だからって俺はお前らみたいな勝ち組なんかにあこがれねぇし、そうなれるように努力もしねぇ、びへつらったりなんか死んでもしねぇ」

「…………」

「むしろ、俺はお前らみたいな勝ち組の足を引っ張ることにだけ全力を捧げる。お前らの青春をぶっつぶすことだけに命を懸ける。なら……」

 それは、よく晴れた美しい春の日のこと。

「何故なら、それは俺が最低最悪のルサンチマン野郎だからだ。ざまーみろ、バァ────カッ!!

 そんな俺のゲッスい絶叫は、舞い散る桜の花弁に乗って、のびのびと木霊こだましたとかしなかったとか。


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 で、それからアレやコレやがありまして、数か月がち季節は流れ、せみの合唱が遠く聞こえる放課後の現在。

 校内の外れにある、かんさんとした校舎のうちのとある一室にて、俺が春に起きたそんな出来事について語り終えると、でらかおるは、心底うざったそうにためいきき、言った。

「はぁ。やま……。あんたって、ホント、救いようのないゴミクズね」

 と。

 つややかな長髪に、すらりと伸びる白くまばゆたい。そしてなによりも目をくだろう、どこか冷たげで、けれども、やたらと綺麗なかおかたち

 そんなお美しい容姿を持つ彼女は、ついでとばかりにこうも言った。

「あんた、一体どこまでバカなの? がいこつのなかにスポンジでも詰まってるの?」

 と。

 控えめに言っても失礼過ぎるとう流石さすがに、なにか言い返してやろうかとも思ったが、よくよく考えてみると、割りと正論なのでぐうの音も出なかった。いや、がいこつにスポンジとか詰まってるわけとかないですけども。いや、レントゲンとか撮ったことないので、詰まってないとも言い切れませんけども。

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