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俺と彼女の恋を超能力が邪魔している。

助供珠樹

第一章 俺と彼女の出会いをアダルトビデオが引き合わせる。 (3)

 再びぴしゃりとふすまが閉められ、姉が廊下を歩き去る音を聞きながら、大治郎はほっと胸をで下ろした。

 だいろうの母は彼が小学生のころに亡くなっていて、家事は父や姉と持ち回りの分担制で行われているのだが、今日の当番が姉だということをつい失念してしまっていた。

「くっそー……せっかく盛り上がっていたところだったのに」

 しかし、今ならまだ挽回出来ると思った大治郎は、再びが分身をふっくらさせんがために、とっておきの脳内エロフォルダの検索に入ろうとしたところで、

「──おい大治郎」

「だあああっっ、もう!!

 今度は父がふすまをわずかに開けて、にゅっと顔を突き出してきた。

「お、親父おやじもっ!! 姉ちゃんみたいにそうやって勝手に部屋開けるなって!! プライベート空間だぞ!!

 またしてヤる気が削がれてしまって抗議の声を上げると、大治郎は父を締め出そうとふすまに手をかけた。すると顔だけ突き出していた父が、近所のレンタルビデオショップの貸し出し袋を大治郎の前へと突き出した。

「なんだよこれ?」

「返してきてくれねぇかな。返却が今日までなんだ」

「はぁ? なんで俺が……」

「いいだろ? 酒入っちまって眠いんだよ。お駄賃やるからさ」

「いつもはした金しかくれないじゃないかよ。いいから親父が返しに行けって──」

 と、そこまで口にしたところで袋の中からDVDを取り出した父が、そのタイトルを見せつけながらぼそりとつぶやく。

「……『マジックミラー号Vol.5』。二四〇分超の大ボリュームだ」

 大治郎の動きがぴたりと止まった。

「……姉ちゃんは今風呂に入ってる。どうせだしお前もちょろっとていけ──」

 その言葉を最後まで聞くことなく、大治郎はそのDVDを取り上げた。

 すかさずそれをプレーヤーにセットしてテレビの前に座ると、父もまた彼の隣に並び、床に転がっていたリモコンを手に取った。

「この父が、スゲー良かったと思うシーンをダイジェストで抜粋してやろう」

「頼もしいな、親父」

「尊敬しろよ、息子むすこよ」

 言いながら父はリモコンで頭出しボタンを連打する。

 やがてとうがいのシーンがテレビ画面いっぱいに映し出され、親子ともども鼻の穴が大きく広がったその時、

「──ねぇやっぱ最後にそうしたいから、あんたが先に入りなさいよ」

「うわあああああああ!?

「だああああああっ!?

 に入っているものだと思っていた姉がやって来て、二人ともども大絶叫する。

 すかさず父がテレビのリモコンで適当なボタンを押したその瞬間、画面いっぱいの肌色映像からぱっとニュース番組に切り替わった。

 間一髪とはまさにこのことである。だいろうは冷や汗をきながら、

「お、俺は後で入りたいんだって!! つーか、今からDVD返してくるからその後で!!

「なによ。それならさっき言えっての」

 ぶすっとしながらふすまを閉めて去って行く姉。

 それを大治郎はしっかりと見届けてから、

親父おやじ!! 姉ちゃんが風呂入ったかどうか、ちゃんと確認しとけよ──」

 そう言って振り返ると、父はリモコンをつかんだままテレビのニュースをずっと続けていた。

『──アメリカで、未就学の児童の約二百人が新種のウイルスかと思われる病気にかかり、現在医師団はその詳しい原因を調べています。児童はウイルス性脳炎に非常に近い症状を訴えており──』

 アナウンサーの言葉を聞きながら、父はぽつりとつぶやく。

「そういや、昔もこんなことがあったなぁ」

「昔?」

 大治郎が聞き返すと、父はうなずきながらこちらに向かって顔を上げる。

「お前がまだ六歳の時だ。日本でもこのニュースと似たようなことがあってな。子供ばかりが原因不明の病気に罹るウイルスってことで俺もよりもすごく心配してたんだ。結局いつの間にか収束してたんだがな」

 頼子とは大治郎の亡くなった母親の名前であった。やがてアメリカで起きているというそのなぞの病気のニュースからスポーツニュースへと切り替わると、父はその場をゆっくりと立ち上がって、

「なんか、酔いも覚めちまったわ。悪いけど後は頼んだ」

 そう言ってリモコンとともに五百円玉をぽんと大治郎に渡すと、父はそのまま自分の部屋へと戻ろうとしてしまう。

「珍しくはした金じゃない!? って……ちょっと、親父厳選のダイジェストは!?

「早く返しに行かないと店閉まっちまうぞー」

 手を振る親父の後ろ姿から、部屋の時計に目をやると時刻は二十三時を過ぎていた。

 閉店まで一時間もないなと思い、適当に上着をひっかけると大治郎は外に出た。

 家族共用ママチャリのかごにレンタル袋をほうり込むと、よっこらしょっとペダルを漕ぎ始める。

 平和でえない日常は、いまだ何も代わり映えのしないまま平常運転で流れ続けていた。

 学校から帰ってきたら飯を食って、ゲームして、マンガ読んで、に入って、慰めて、そして寝る。毎日がほとんどそれの繰り返し。

「はぁー……高校生活も今日から二年目だってーのに」

 照明に照らされたレンタルビデオ店の大看板が見えてくる。

 だいろうは歩道からレンタルビデオ店の駐車場内に入ると、看板下にある自転車置き場にママチャリをめた。

 そこから店の自動ドアまで歩いていき、ドアをくぐって返却レジへと向かう間にも大治郎はぼんやりと考え続けていた。

 今日から同じクラスになったあのりようというチャラい男ほどではなくても、もっと自分も色々なことに対して積極的に働きかけていくべきではないかと。

 それは別に、部活や委員会的な活動でもいい。

 何か新しい趣味を見つけて、外に目を向けるのもいいだろう。

 とにかく明日も明後日あさつても教室の隅っこでくろうどと語り合いながら、クラスの中心でにぎやかに青春をおうしているリア充たちを横目に過ぎていく日々だけは避けたいと大治郎は思う。

 理想の青春を渇望するおもいがその場でふわふわと、どこにも行き場所がないままさまよっている感覚だけがそこにはあった。

「ん? これ──」

 返却レジの手前まで来てから、確認のために大治郎はレンタル袋の中にあったレシートを見てみると、返却期限が明日の日付になっている。

「あの、お客様? ご返却ですか?」

 レンタル店の女性店員がこちらに手を差し出しているのを見て、大治郎はすかさず首を横に振ってレジの前から離れた。

「……親父おやじのやつ、オカズを最後まで使い切らないで俺に返却を頼みやがって」

 文句のようにそうつぶやきながらも大治郎の顔はニヤけていた。返却期限が翌日ならば、今夜姉が寝静まったあとで好きなだけるチャンスがある。

「ついでにあっちのほうものぞいてから帰るか」

 先ほどまでの「変わろう」という決意も忘れて、上機嫌の大治郎は店の奥にあるピンク色の暖簾のれんがかかったコーナーへと向かう。

 と、その途中で大治郎はふと足を止めた。

 奥のピンクコーナーの手前にあった旧作洋画コーナーの前に、パーカーのフードをかぶった小柄な人物がいた。

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