NGな彼女。は推せますか?

海津ゆたか

TRACK.1 初恋サイダー (2)

 そして、同じように合格を知った隣の見知らぬ美少女と抱き合い、喜びを分かち合うのだ。

 その後、美少女は「やだ、思わず抱きついちゃった(テヘペロ)。初めまして。これから新入生同士よろしくね(ウインク)」である。

 うん、良い。

 美少女は輝く瞳でれた唇。そして、恥ずかしそうに、ほおをサクランボ色に染めるのだ。

 うん、良いよ。ベタこそ王道だ。

 このように、合格の瞬間、美少女と出会うと確信している。

 俗に言う、運命の出会いというやつだ。

 その彼女は、俺がアイドルの素質を見いだしてプロデュースしてあげると、またたく間にトップアイドルになるに違いない。

 そして、俺は希代の敏腕プロデューサーとして時代のちようになる。

 ロスに私設スタジオを持つほどにセレブでバブリーな日々、幼い子どもからお年寄りまでもが俺の名を知っている国民的名声……。

 若くして成功し、人生という名のレールを踏み外してしまわないかという心配すらある。

 そんな殊勝な気持ちをいだいていると、ようやく石段を上り終えた。

 バカでかい石畳の広場が視界に飛び込んできた。


 広場には、合格番号が張り出された掲示板がばんちようじようのように立ちならんでいた。その無数の掲示板の前には、俺と同じように合否結果を確認しにきた中学3年生の黒い頭がひしめいている。

 さすがは普通科入学者、1千人分の合格発表会場だな。

 ちなみに、学院で大半を占める特進科やスポーツ科、芸能科、音楽科といった普通科以外の受験生の合格番号はここにはない。エイドスは全12学科ごとに街が分かれており、今日はそれぞれの街ごとに、それぞれの学科の合格発表が行われている。

 ここは、普通科を主体とする街、第5学区だ。

 さて、俺の番号はどこにあるのかな。

 歩きながらポケットから受験票を取り出す。

 番号は5356番。

 5千番台の掲示は会場の奥のようだ。まあ、どうせ合格しているのだから、慌てずにゆっくり歩いて行こう。

 無数の掲示板を眺めながら進んでいると、至る所で受験生たちの悲喜こもごもが爆発していた。

 笑う者、泣く者、受験票を破り捨てる者、アメフト部の先輩たちに胴上げされる者など、テレビや漫画でよく見る合格発表会場の光景の全てがここにあった。

 しかし、不合格で悲しんでいる元ライバルたちを見ると心が痛むので、そちらは見ないようにする。もちろん、野郎が喜んでいる様子なんて見ても面白くもない。

 ということで、俺の目に映るのは必然的に、合格して喜んでいる女の子のみとなった。

「受かった。受かった!」

 喜びのあまりピョンピョンと跳びはねるツインテールの女の子。

 うむ、かわいい。

「エイドスに行ける……」

 感涙して瞳を潤ませるロングヘアーの女の子。

 美しい。よき。

「お母さん、うち、受かったけん!」

 スマホで遠方の母に合格を伝えるショートカットの女の子。

 方言って、3割増しでかわいいよなあ。

 ……てか、マジで全員が全員かわいいんだが。

 普通科にしてこのレベル。

 芸能科の生徒ならば、美のパラメータがカンスト状態もあり得るな。

 これがエイドスの実力か。

 俺と共に青春の日々を送る予定の女の子たちが全員かわいい……。

 至福の妄想に浸りながら歩いていると、5千番台の数字を張り出した掲示板が目に入った。

 俺の5356番がそろそろ見えてくるはずだ。

 ここにきて心臓の音が増してきたような気がしないでもない。

 ちゃんと合格してるよな……。


 5331。

 5338。

 そろそろ来てほしい。

 5349。

 5356。

 受験票の数字と見比べる。

 どっちも5356。

「いやったあああああああああああああああああああ!」

 ほら、やっぱ、合格してるじゃん!

 俺、すごい、天才、ジーニアス!

 この圧倒的な自己肯定感!

 何者にもなれそうな、この最強な感じ、たまらん。

「俺は理想のアイドルをプロデュースする男になる!」

 そうだ、俺はエイドスという最高の舞台で必ず成功してみせる。

「俺のサクセスストーリーがここから始まる! ぬははははあ!」

 人生の勝者としての笑いが止まらない。

 おっと、喜びに浸りすぎて肝心なことを忘れていた。

 運命の出会いは?

 俺の理想のアイドルはどこだ?

「さあ、俺の手でトップアイドルになる幸運な子は誰かな?」

 クルリと反転し、アイドル候補を迎えるために両手を広げてみた。

 えーと、右隣には誰もいない。

 左にもいないな。

 というか、俺の周りに人がいない。心なしか、女の子たちが距離を取って、少し遠巻きに俺を見ているような……。

 まったく、みんな恥ずかしがり屋さんか?

 デビュー前からそんなんじゃ、ステージで緊張して歌えないぞ。

 よし、ここはプロデューサーらしく、みんなが持っているアイドルとしての可能性を指摘することで自信を与え、モチベを上げてやるとしよう。

 半円状に俺を取り巻く美少女たちに語りかける。

「心配しなくてもいい。女の子は誰だってアイドルになれるんだ。これから俺がその理由を教えてあげよう」

『かわいいは正義』は真理だが、絶対条件ではない。

 アイドルにとって必要なのは、己の個性を引き出す感性と、弱点を克服する努力と根性だ。

 特に努力と根性が一番大事。オタクは頑張っている女の子を応援したくなるんだ。

 よし、まずは、正面にいる活発そうなポニーテールっ子を指導プロデユースしてあげよう。

 はい、一目で彼女の特性が分かりました。

「元気と笑顔でオタクに光を与えろ」

 俺が指さすとポニーテールっ子の肩がビクンと動いた。

 歓喜に打ち震えたって感じだな。

 次は斜め前にいる美人系の黒髪ロングを指さし。

「クールな塩対応でオタクのぎやくしんをくすぐれ」

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