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異世界サバイバル~スキルがヘボいとクラスから追い出されたけど、実は有能だったテイムスキルで生き延びる~

三門鉄狼

STAGE1 第4話 小見川いやし

 小見川さんについていくと、ぐるりと崖を迂回して、上に登ることができた。

 人間なら、ウサギを抱えて上れるくらいだが、さっきの割れ目で引っかかるオオトカゲは上ってこられないだろう。

 これで一安心だ。

「あれ、さっきの三人は?」

 オレはその場を見回して問う。

 てっきり勇見たちがいるのだと思ったのだが、そこには誰もいなかった。

 小見川さんは首を振って言ってくる。

「三人はコンビニに帰った。私は、別行動するって言って、戻ってきちゃった」

 え、それってつまり……クラスメイトのみんなと一緒にいるのをやめて、オレのほうに来たってこと?

「なんでそんなこと……」

「え、だって、仁飼くんを見捨てるなんてできないよ」

 と、小見川さんは。

 少し気まずそうに、視線を地面に向けながら、言うのだった。

「――仁飼くんは、私を見捨てなかったのに」

 その言葉に、オレの記憶が蘇る。

 二年生になって、最初の一週間くらいのころのこと。

 その後のオレの高校生活のすべてが決まった、きっかけだ。

         ※

「小見川さん、オレたちの班、入らない?」

 たまたま隣の席にいた彼女に、オレはそう話しかけていた。

 男子三人、女子三人でグループを作って調理実習をする家庭科の授業。

 その班決めのときのことだ。

 オレたちのグループは女子が一人足りず、空いている人を探していた。

 それで、オレは思わず、隣で一人、誰にも呼びかけられず座っていた小見川さんに声をかけたのだった。

 二年生になってから、ずっと、気になってはいた。

 小見川さんは、無口で、いつも無表情で、どこか寂しげな印象があった。

 クラスメイトからあまり話しかけられることもなく、いつも一人でいた。

 けど、それだけなら大して気にしなかったかもしれない。

 オレだって、一人で過ごすのがわりと好きなほうだし。

 だけど、数日前に、オレは見てしまったのだ。

 小見川さんが、カバンの中のなにかを探していて、その様子を見た女子数人が、こっそりと笑い合っているところを。

 そのときもオレは声をかけたかったのだけど、授業が始まってしまって、タイミングを逃してしまった。

 小見川さんは体調が悪かったのか、その授業の間に早退してしまったので、結局なにがあったのかはわからずじまい。

 でも、小見川さんがクラスの一部の女子からどういう扱いを受けているかは、はっきりわかっていた。

 それで、オレは彼女を調理実習のグループに誘ったのだ。

 幸い、同じグループのメンバーは、男子も女子も、小見川さんに対して悪感情は持っていなかったようで、すんなり入れることができた。

 調理実習当日も問題は起こらず、むしろ、小見川さんはグループの女子と打ち解けることができていた。

 問題は、オレのほうに起こった。

 調理実習の翌日から、オレが小見川さんの代わりにターゲットになったのだ。

 しかも、小見川さんに嫌がらせをしていたのは女子の一部だったが、オレの場合はクラスの全員だった。

 話しかけても、あからさまに無視される。

 机を倒されたりカバンを踏まれたりする。

 教科書や筆記用具が行方不明になる。

 タチが悪いのは、全部、偶然を装っていることだ。

 オレが話しかけると同時に、べつの奴がそいつを呼んで、そっちに返事をしたり。

 机もカバンも、ふざけて遊んでいて、偶然ぶつかってしまった、みたいなやり方をしてくる。

 行方不明になったものも、授業が終わって、トイレから帰ってくると元の場所に戻ってたりする。

 問い詰められたら、たまたまだとか気のせいだとか言い張れるような嫌がらせばかり。

 で、それから何日か経った、クラス委員決めのとき。

 休み時間や放課後の時間を奪われるウサギの飼育係が「推薦」という形でオレに押しつけられたというわけだった。

 飼育係になって、教室にいる時間が減ると、直接的な嫌がらせは減った。

 しかし、クラスメイトと会話する機会はほとんどなくなり、オレは完全にクラスで浮いた存在になったのだった。

         ※

「あのとき、仁飼くんが話しかけてくれたおかげで、私はクラスに溶け込めた。でも仁飼くんが代わりに無視されるようになっちゃって、なのに私は、仁飼くんみたいに話しかけることができなくて……」

 そう、小見川さんは辛そうに語る。

 仕方ないだろう、とオレは思う。

 オレは、まさかターゲットが自分に移るなんて思わなかったから、気軽に話しかけられたのだ。

 けど、小見川さんは、その推移を見てしまってる。

 もしオレに話しかけたりしたら、またターゲットが自分に戻ってくるかも、と思ってしまう。

 そんな状態なら、オレだって話しかける気にはなれなかったかもしれない。

 オレがそんなふうに言うと、小見川さんは声を詰まらせた。

「……ありがとう。でも、もう私、気にしない。こんな状況なのに、あんなふうに誰かを見捨てる人たちと一緒にいたくないもの」

 オレは頷いた。

 どっちが正解なのかはわからない。

 なにが起きてるかわからないこの状況で。

 小見川さんのように誰かを見捨てない選択と。

 勇見のように、不要な相手を切り捨てる選択と。

 最終的に生き残れるのはどちらなのかはわからないけど。

 少なくともオレは、小見川さんの考え方に、賛成したかった。

         ☆

「仁飼くん、怪我してるね」

 小見川さんに言われて思い出した。

 オオトカゲからみるくを助け出して、逃げるのに必死ですっかり忘れていたが、右腕に樹の枝で引っ掛けた傷があるんだった。

「うっ……」

 思い出すと、急に痛みが戻ってきた。

 走り回ったせいか、さっきより痛みが強くなった気もする。

「服、脱いで。治すから」

「え?」

 小見川さんを見るが、べつに治療用の道具を持っているようには見えない。

 彼女は、オレの疑問に気づいたのか、ちょっと自慢げに言ってきた。

「私のスキル、〈治癒〉なの」

 なるほど、そういうことか。

 オレはみるくを一旦地面に下ろすと、ブレザーを脱いで、シャツの袖をめくる。

「うわぁ……」

 傷口が目に入ってしまい、オレは思わず呻き声をあげる。

 ざっくりと皮膚が裂け、肉も少し見えている。

 あ、やばい。惨状を目にしたら、クラクラしてきた……。

「動かないでね」

 小見川さんはそう言うと、傷口に両手をかざす。

 そして、集中するように目を閉じた。

 すると――。

「おお!?」

 なにやら暖かい空気が傷口を中心にオレの腕を包む。

 そして、みるみるうちに傷口がふさがっていく。

 最後には、腕は何事もなかったかのように元に戻った。

 まるで、腕の怪我の場所だけ時間が逆流したみたいだった。

「すごい……」

 オレは思わず感嘆の声を口にする。

「どう、なんともない?」

 小見川さんに言われ、オレは腕をぐるぐる回してみる。

 完全に元どおりだ。どこかがつっぱるみたいな違和感もない。

「完璧だ。ありがとう」

「よかった……」

 小見川さんは笑みを浮かべる。

〈治癒〉は、オレの『動物の言葉がわかる』スキルに比べてすごく有用そうだ。

 オレを排除したことで、小見川さんにまで逃げられてしまった勇見は、東堂に怒られないだろうか。

 と、思わず、しなくていい奴の心配をしていると。

「あ、ぴょん吉、待って」

 小見川さんの言葉に視線を向けると、みるくが逃げようとしていた。

 っていうかなに、ぴょん吉って。

 それはともかく、せっかくオオトカゲから助けたのに、またいなくなられても虚しい。

 オレは小見川さんと一緒に、慌ててみるくを追いかける。

「みるく、待てって」

 まあ、イエウサギなのでそれほど速くもない。

 オレはすぐに追いついて、みるくを抱え上げる。

 みるくは「ぶぃ、ぶぃ」と不満の声をあげた。

「ぴょん吉、ダメだよ。ここは危ないんだから」

 オレの腕の中のみるくの頭を撫でる小見川さん。

「小見川さん、みるくのこと、見てたの?」

「うん。仁飼くんが飼育係にされてから、気になって、ときどきね」

 そうだったのか。

 ぴょん吉~と言いながら撫でる小見川さんは、見てるだけで安らぐような笑顔である。

 ただ、オレはどうしても気になって仕方がない。

「いや、こいつはみるくって名前なんだけど」

 飼育小屋にわざわざ名前書いた紙も貼ってたんだけどな。

「え、ぴょん吉だよ。あと、茶色い子はぴょん太」

「あっちはここあ」

「むー……」

 小見川さんは困ったように唸り声をあげたが、渋々と言った様子で頬を膨らませて言ってくる。

「まあ、お世話してた仁飼くんが言うなら……」

 そもそもこいつらメスだしな。

 ぴょん吉とぴょん太は違うでしょ。

「みるく吉~」

 いや、混ざってる混ざってる。

 しかし、小見川さんは意外と色々な表情をするんだな。

 全然知らなかった。

「さて……こいつの呼び名も統一できたことだし、これからどうするか決めないとな」

 オレは仕切り直すようにそう言う。

 小見川さんの表情の変化を見ているのも楽しいが、いつまでもそうしているわけにもいかない。

 安全な寝床を、日が沈む前に見つけておきたいし、食料や飲み水も確保したい。

 ここがどういう場所なのか、オレたちはどうしてこんな場所にいるのか。

 山ほどの疑問も解決したい。

「そうだね――あ」

 と、小見川さんはふと声をあげる。

 彼女の視線を辿ると、先ほどまでは樹々に遮られて見えなかった景色が見えた。

 山があって、その上のほうは樹が生えていない。

 そして、その頂上にあるものの一部が、ここから見えていた。

 それは、オレたちが毎日登校するときに見る、時計が設置された壁。

 どうやら、山の頂上には、溝波高校の校舎があるらしかった。

         ☆

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