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異世界サバイバル~スキルがヘボいとクラスから追い出されたけど、実は有能だったテイムスキルで生き延びる~

三門鉄狼

STAGE1 第2話 追放

「仁飼くん、よかった。無事だったんだね」

 小見川さんはオレの姿を見つけると、駆け寄ってきた。

 そのまま抱きついてきそうな勢いだったが、そんなことはなくオレの目の前で立ち止まる。

 しかしそれでも距離が近い。

 長い黒髪がふわりと揺れて、いい匂いがオレの鼻をくすぐる。

「なんだぁ、小見川。誰か見つけたのか」

 オレがなにも言えないでいると、続いて男子生徒が姿を現した。

「勇見……」

 同じくクラスメイトの勇見研二だ。

 手に竹刀くらいの長さの、木の棒を持っている。

 そういえば、たしか彼は剣道部だった。

 勇見に続いて、さらに二人が姿を現す。

 全員が、オレと同じクラスの人間――溝波高校二年五組の生徒だった。

「オレだけじゃなかったのか……」

 たった一人、異世界に飛ばされたのかと思っていた。

 だが、考えてみれば、もしオレがここに飛ばされた原因があの地震なんだとしたら、近くにいた生徒がみんな、飛ばされていてもおかしくはない。

 オレは息をつく。

 一人ではなかった、という安堵。

 思わず、座り込みたくなる――が。

 クラスメイトと合流できた。

 

 オレにとってこいつらは――

         ※

「飼育委員は仁飼くんがいいと思いまーす」

「飼育係なんだから、ちゃんと掃除してきなよ。ウサギがかわいそうじゃん」

「なんかさ、あいつの席、ウサギ臭くない?」

「仁飼くん、ウサギの世話で忙しいでしょ? 学祭は手伝わなくていいよ」

「そうそう、オレたちでやっておくからさ」

「早くウサギのところ行ってこいって」

         ※

 ――こいつらは、味方でもなんでもないんだから。

 化け物蜘蛛に遭遇した直後に、見知った顔を目にしたことで油断しそうになったけど。

 彼らが、オレを一緒に行動させてくれるとも思えない。

 それなら、さっさと別れたほうがお互いのためだろう。

 オレはそう思ったのだが、

「――よかったぜ、仁飼」

 勇見がオレの肩を叩いて、そんなことを言ってきた。

「え?」

「クラスメイトを探してたんだよ。見つけたら『拠点』に戻ることになっててな。ほら、行こうぜ」

「よかった。昼休み、仁飼くんは教室にいなかったから……遠くにいるんじゃないかって思ってた」

 小見川さんもホッとした様子で言ってくる。

 二人のクラスメイトも笑みを浮かべていた。

 なんだなんだ?

 日本にいたときとは、ずいぶん態度が違うな。

 だが――オレは思い直す。

 気づいたら、巨大なモンスターが闊歩している異世界にいた。

 そんな状況で、学校の人間関係を気にしている場合ではないのかもしれない。

 オレはまだほとんど移動してないので、この世界のことをよくわかっていないが、クラスメイトみんなで協力していかなければ、生き残れないような世界っぽいし。

 クラスの中心ポジションの東堂か、委員長の灰沢あたりが、みんなにそう言ったのかもしれないな。

 だったら、オレも過去のしがらみは忘れよう。

 クラスのみんなのこれまでの仕打ちは一旦置いておいて、みんなで生き残るために協力しようじゃないか。

「よし、拠点に戻るぞ」

「待って」

 勇見にオレは声をかける。

「さっき、そっちにでっかい蜘蛛がいたんだ。迂回したほうがいいと思う」

「おお、そうか。サンキューな」

 ……まさか勇見に礼を言われる日が来るとは。

         ☆

 オレは、勇見が率いるクラスメイトと一緒に、森を進む。

 木の棒を手にした勇見が先頭で、次がオレと小見川さん。残り二人のクラスメイトが最後尾だ。

 運よく、今のところ、モンスターやなんかに遭遇してはいない。

「拠点って、洞窟でも見つけたのか?」

 オレは気になって、勇見に問いかける。

「…………いや、店があるんだよ」

 妙な間を置いて、勇見は答えた。

 なんでちょっと言葉に詰まったんだ?

 いや、それより。

「店? この世界の住人がやってるのか?」

 こんなジャングルの中で?

 あるいは、ちょっと歩けばこの森からは抜け出せるのだろうか。

「…………そうじゃない」

 また妙な間の後に勇見は言ってくる。

があったんだよ」

「は?」

 ってあのコンビニ?

 冗談かと思ったが、小見川さんも、二人のクラスメイトも、真面目な顔で頷いている。

「どういうこと? 日本にあるコンビニが、森の中にあるの?」

「……どうしてかは知らねえよ。学校の前にあんだろ。あの店が、そのまま、あったんだよ」

 イライラした様子で、勇見は言う。

 わけがわからない状況を人に説明したら、わけがわからないという顔をされたのだからそれも仕方ないだろう。

 だが――嘘ではないようだった。

「あれは……」

 歩いている途中で、オレは信じがたいものを目にした。

 ――信号機。

 鬱蒼と生い茂った草の間から、不自然なほどに真っ直ぐな金属の棒が伸び、その上では三色のダイオードが順番に光っている。

 ちゃんとのだ。

 周りに電線はない。

 なのに、信号機はちゃんと動いている。

 その異常な光景に、オレは頭がぐらぐらした。

 小見川さんが言ってくる。

「私も最初はびっくりした。でも、理由はわからないけど、私たちにとってはありがたいよね」

 たしかに。

 信号機があんなふうに動いているということは、コンビニも同じように稼働しているのだろう。

 冷蔵庫、冷凍ケース、保温機、電子レンジ、湯沸かしポット――それらが使えるということは、コンビニにある食料は、しばらくは保つし、調理が可能ということだ。

 食べ物も飲み物も手に入りそうにないこのジャングルで、それはたしかに、立派な『拠点』だろう。

「ちなみに、コンビニ以外に建物はなかったの?」

「…………いや」

 勇見はまた妙な間の後に首を振る。

「今のところはまだ見つかってねえな。人が集まったら、範囲を広げて探索する予定だ」

 日本にあった建物が全部この世界に来たというわけではないらしい。

 そりゃそうか。

 もしそうなら、この辺も全部建物で埋まってなきゃおかしいもんな。

「ところで仁飼、お前、スキルは持ってるか?」

 ふと、勇見が訊いてきた。

 スキル。

 やっぱりこの世界にはそういうのが存在しているのか。

 ということは、やっぱり、さっき聞いた大蜘蛛の声が、それだったのだろう。

「うん、多分だけど」

「おお、マジか。お前のはどんな能力なんだ?」

 勇見の問いにオレは一瞬迷う。

 自分の持っている特殊能力は、他人に簡単に明かさない、というのがこういう状況でのセオリーだと思う。

 けど……。

 さっき思い直したばかりじゃないか。

 過去のしがらみは忘れようって。

 生きるために、クラスメイトたちと協力しようって。

 だったら、お互い信用を得るためにも、スキルのことは話しておいたほうがいい。

「オレのスキルは、多分だけど、生き物の言葉がわかることだ」

「……………………それだけか?」

 あれ?

 なんか急に勇見の雰囲気が変わったんだけど。

「あ、ああ。さっき巨大蜘蛛に遭遇したけど、そいつの声が聞こえたんだ。『マズソウ』とかなんとか」

「……………………はぁ」

 あれ?

 勇見はため息をつくと、オレに歩み寄ってきて、どん!とオレを突き飛ばした。

 え? なんで?

「なにするんだよ、いきなり――」

「黙れ」

 抗議の声をあげようとしたオレを遮って、勇見はオレに木の棒を突きつけてきた。

「ちょっと、勇見くん!?」

 小見川さんが驚きの声をあげる。

 残り二人のクラスメイトは、無言で成り行きを見守っている。

 勇見は、片手持ちのラフなスタイルだが、妙に様になっている構えだ。

 さすが剣道部……じゃなくて。

 ついさっきまで友好的な雰囲気だったのに、なんで急にこんなことになってるんだ。

 オレが頭を疑問で埋め尽くしていると、勇見自身がその答えを口にしてくれた。

「さっきからなに馴れ馴れしく喋ってんだよお前は? あ? 東堂に『スキルが有用かもしれないしクラス全員見つけよう』って言われたからお前も連れてってやろうと思っただけなのによ。それがなんだ? 動物と話せる? そんなクソみてえなスキルいらねえよ」

 ……ああ、なるほどな。

 オレはようやく、勇見がオレに答えるたびに妙な間を開けていた理由がわかった。

 あれは怒りをこらえてたんだ。

 オレが気安く話しかけてたから。

 まったくオレも甘いな。

 なにが「過去のしがらみを忘れて協力しよう」だよ。

 一人の例外を除いて、オレのクラスメイトは全員オレの敵なんだ。

 それは、このジャングルでも変わらないんだ。

「勇見くん、やめて!」

「うるせえ!」

 その例外である一人——小見川さんが止めに入るが、勇見が一喝して黙らせる。

 そして彼は、ぶん!と木の棒を振り抜いた。

「ぐわっ!」

 すごい風圧がオレを襲う。

 これは――彼の剣道の腕がすごい、というわけじゃないだろう。

 明らかにスキルの効果だ。

 そんなことを冷静に考えつつ、オレはそれに対処することもできず吹っ飛ぶ。

 そして吹っ飛んだ先には――。

「……げ」

 足場がない。

 そこは、切り立った崖になっていた。

 樹が生い茂って、どのくらいの高さなのかもわからない。

 オレはそこに落ちていった。

「ははははは! 動物さんにでも助けてもらえよ!」

 勇見のそんな言葉に、言い返すこともできずに。

         ☆

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