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六畳間の侵略者!?

健速

四月四日(土) 陣地設営 (3)

 事情を知っている孝太郎は少々あわて始める。

「だって気になるじゃないか。これだけれいな部屋で、大家さんはしっかり者で、特に問題があるようには見えないんだからさ」

「だがなぁ、このアパートは大家さんのりようしんのこした大切な───」

「構いませんよ、里見さん」

 静香をおこらせまいかと心配していた孝太郎だったが、彼女はおだやかに微笑んで首を横にった。

「マッケンジーさんの心配ももっともです。ふふふ、それに分かりませんか? マッケンジーさんは里見さんの事を心配していらっしゃるんですよ?」

「大家さん………」

「それにこの件は、わたしがどうこう出来る話では無いですし」

「は、はぁ………」

 そして孝太郎が申し訳なさそうに頷くと、静香は賢治の方に向き直った。

「実はですね、この部屋、出るんです」

「出る? 出るって何がですか?」

「この部屋、ゆうれいが出るってもっぱらのうわさなんです」

「ゆ、幽霊………!?

 賢治は驚き、きょろきょろとあたりを見回し始める。

「わたしはまだ見た事が無いんですけど、入居される方はことごとくご覧になるらしくて………。それであまり長い間住んで頂けないんです」

「幽霊………。にわかには信じがたいですが………」

「それはわたしもです。でも、入居者の方々がそうおつしやって出て行ってしまうのは事実ですから」

 こんわくする賢治に、静香はしようしながら肩をすくめてみせる。

「大家さん、任せて下さい。おれは幽霊なんかには負けません」

「頼もしいです。是非、幽霊の噂をすほど長く住んでくださいね、里見さん」

「はいっ!」

「しかしこの部屋に幽霊とは………」

 まだ納得いかないのか、賢治は再び部屋をぐるりと見回す。

「グチグチ考えたって始まらないさマッケンジー。せっかく大家さんが来てくれたんだから、さっさと片付けを始めようぜ?」

「………ああ、そうだな」

 孝太郎にうながされ、賢治はブルっと首を振ってからだんの表情にもどった。

どんかんなコウなら幽霊も平気だろうさ」

「言葉にトゲがあるぞ」

「ワザとだ」

「知ってる。………んじゃ、始めましょう、大家さん」

「はい、里見さん。………でも、お二人って本当に良いコンビなんですね?」

 孝太郎と賢治のやりとりを見ていた静香はまた笑い始める。

「そうですか?」

「大家さん、気色悪い事を言わないで下さいよ」

「マッケンジー、それは言い過ぎだぞ?」

 そうして孝太郎達はワイワイさわぎながら、一つずつしの荷物の梱包を解いていった。

 賢治と静香の協力のおかげで、夕食時になる前に何とか一〇六号室は生活できるレベルまで片付いていた。

「俺はこれで帰るけどな、明日はバイトなんだから、片付けもほどほどにしてとっととろよ?」

「わーってるわーってる。ごしたらまずいからだろ?」

「お前の分かってるは一番信用ならないんだ」

 賢治は溜め息をつきながら玄関にててあったくつに無造作に両足を突っ込む。

「それではわたしもこれで失礼しますね、里見さん」

「大家さん、『里見さん』なんて呼ばなくて良いですよ。明後日から同級生なんだし」

「ええと───じゃあ、里見君」

「その方が感じが良いですね」

「うん、そうさせてもらうね?」

 静香はにこやかに笑いながら、きちんとそろえて脱いであった靴に両足を入れる。それと同時に賢治がげんかんのドアを開いた。

「今日はありがとうございました、大家さん」

 そんな孝太郎の礼を聞きながら、二人はドアをとおり抜けて行く。

「いいえ。こんなことならいくらでも」

「………俺には礼は無しかよ」

「お前は普段から持ちつ持たれつだろうが」

「俺にはそうは思えないんだがなぁ………」

「それじゃ里見君、また」

「さようなら、大家さん」

「早く寝ろよ」

「分かってる分かってる」

 ギィッ、バタンッ

 こうして賢治と静香は一〇六号室から姿を消した。

 一人になった孝太郎が片付けを再開したのは、コンビニで買ってきた弁当を食べ終わった後の事だった。

「んー………このバットはどうするか………こいつばかりはつうのバットとは違うから、かさてに入れておくって訳にもなぁ………」

 孝太郎は一本のバットを手になやんでいた。そのサイン入りのバットはげきの神様と呼ばれた伝説のスラッガーが使っていたもので、孝太郎の宝物の一つだった。

「おし、こいつは台座を付けてかざるとするか。でも、今日の所はすみっこでまんして貰おう」

 コトン

 孝太郎は部屋の隅にバットをたてかけると、新しい段ボールに手をかけた。

「これは何だっけか………」

 ベリリッ

 ガムテープをがし、孝太郎は箱の中をのぞき込む。

「これも貴重品だったか」

 トロフィー、賞状、記念のたて。そして愛用していたグローブ。それらはすべて孝太郎の中学時代の思い出の品だった。

「おっと、こいつはここに入っていたのか」

 そんな数々の品物の中に、一つだけふんの違う物が入っていた。

「こいつはちゃんとこっちにしまっておかないと………」

 それは編みかけのセーターだった。孝太郎は近くにあった紙でそのセーターを丁寧につつむと、おしれの衣装ケースのおくにそっとしまいこんだ。

「これでよしっ、っと」

 ぱんぱん

 押入れから離れ、孝太郎は両手を打ち鳴らした。

 ぷるるるるるるっ

 すると丁度その時、部屋の隅のコンセントでじゆうでん中だったけいたい電話が鳴り始める。

「ん? 親父おやじか」

 孝太郎の携帯で、着信音が初期設定のままの人間は一人だけだ。

 里見ゆういちろう

 携帯のえきしよう画面に映っていたのは、孝太郎の父親の名前だった。

 ピッ

 孝太郎は手をばして携帯電話を取ると、通話ボタンをして顔に押してた。

「もしもし、親父?」

『おお、居たか、孝太郎』

 携帯電話から聞こえてきた声は、やはり孝太郎の父親の雄一郎だった。

『そっちの様子はどうだ? 荷物は片付いたか?』

「ぼちぼちってとこ。マッケンジーと大家さんが手伝ってくれたから、どうにか暮らせるようにはなったよ」

『そうか。二人には良く礼を言っておくんだぞ?』

「うん。親父の方は?」

『こっちはどくしんりようだからな。何もしなくても飯は出るし、にも入れる。えだけしておけば当面は問題ないさ』

「良かった。親父は俺以上に何も出来ないからさ、ちょっと心配だったんだ」

『ハハハ、耳が痛いな』

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