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六畳間の侵略者!?

健速

四月四日(土) 陣地設営 (2)

 賢治は少しあきれた様子で、メガネの向こう側で目を丸くする。

「春先は何かと入り用なんだよ。実家暮らしのお前と一緒にするな」

「お金なら親父さんがいくらか置いていってるんだろう?」

「それになるべく手を付けないのがいきってもんだろうが」

「………粋だか何だか知らないけど、たおれても知らないぞ?」

「知性派のお前とはちがって俺は体力にだけは自信があるんだ」

「はいはい、そうでしょうとも、そうでしょうとも」

 まんげに胸を張る孝太郎に、賢治はかたをすくめる。

「それでコウ、明日は何時からだ?」

「いつもどおり。朝からだ」

「んじゃ例によってむかえにくる」

たのんだ」

 実は二人のバイト先は一緒だ。高校の合格が決まってすぐ、二人は高校の近くのバイトしゆうを選んで一緒におうしたのだ。そしてめでたく二人とも採用され、すでに先月から働き始めていた。

「………なあコウ、学校が始まったらちゃんと起きられるのか?」

だいじよう大丈夫」

「土日のバイトの度に俺に起こされているから説得力無いぞ」

「やかましいわい」

 土日にバイトが入ると普通は朝から働く事になるので、きの悪い孝太郎は賢治に起こしてもらうのが日課となっていた。

「俺も一人暮らしを始めて、大人の男の仲間入りをするんだ。いつまでも子供みたいな事にはならん」

「じゃあ、明日も迎えに来なくて良いのか?」

「それとこれとは話が別だよ、マッケンジー君。明日は来てくれたまえ」

「これだよ………」

 呆れた賢治が肩を落とす。

「いつも済まないねぇ、おじいさん」

「………なんかガクーっとやる気がせた」

「そう言わんと。若いんだから」

 ぴんぽーん

 そんな時、来客を告げるチャイムが鳴った。

「おんや?」

「客か?」

 ガチャッ

 そして孝太郎が返事をする前に、チャイムを鳴らした人物はドアを開けて入ってきた。

「こんにちはー! 里見さん、いらっしゃいますかー?」

 続いて玄関から女の子の声が聞こえてくる。

 ───この声は確か………。

 孝太郎にはその声に聞き覚えがあった。

「大家さんだ」

「大家?」

「ああ。………はーい、今行きまーす!」

 孝太郎は玄関に向かって返事を返すと、すわっていた段ボールから飛び降りた。それを見て賢治も寄りかかっていた柱から背中をはなす。

ずいぶん若い声だな」

「来いよマッケンジー。びっくりするから」

「ん、ああ………」

 そして二人は連れ立って玄関へ向かった。

「こんにちは、大家さん」

「こんにちは、里見さん」

 玄関に居たのは、私服の上からエプロンを身に着けた女の子だった。かのじよあいさつの言葉を口にすると、深々と頭を下げる。彼女のねんれいは孝太郎達と同じくらいで、まだ幼さの残る顔立ちをしていた。長めのかみを大きなリボンでまとめた、さわやかで健康的な印象の少女だった。

「えっ、大家さんって、この子が?」

「そ。この人がここの大家さん。………ビックリしたろ、マッケンジー」

「あ、ああ」

 賢治は目を丸くしてうなずく。大家さんという言葉と目の前の可愛かわいらしい女の子のイメージがつながらず、賢治はあつにとられていた。

「俺も最初驚いたよ」

みなさん驚かれますよ。ふふふ………」

 女の子は軽く微笑ほほえむと、賢治の方を向いた。

「初めまして。ここの大家をしております、かさしずです」

「ど、どうもごていねいに。松平賢治です」

「よろしくお願いしますね、松平さん」

「はい、こちらこそ」

 そして賢治と女の子───静香は頭を下げ合った。

「大家さん、こいつは俺の幼馴染なんです」

「まあ、そうでしたか」

「今後もちょろちょろすると思うんで、気軽にマッケンジーと呼んでやってください」

「マッケンジー?」

 静香は何度か目をパチパチさせると、賢治を見た。

「日本の方ですよね? 松平さんって言っておられたような………」

「ああ、うん、こいつはもちろん日本人です。でも、松平賢治を縮めてマッケンジーなんです」

「なるほど、松と賢治でマッケンジーなんですね」

 なつとくがいったのか、静香は口元に手を当ててクスクスと笑い始める。

「コウが勝手に呼んでるんだけですけど」

「では松平さんとお呼びした方が?」

「マッケンジーで良いですよ。もう慣れましたから」

「はい、マッケンジーさん」

 肩をすくめる賢治を見て、静香はもう一度笑う。するとその長めの髪とリボンがゆらゆらとれた。

「そうそう、大家さんも今年からきつしようはるかぜ高校なんだ」

「へぇ………ぐうぜんだなぁ」

「運が良ければ、同じクラスかもしれないな」

「ふふ、学校でもよろしくお願いします」

 そう言って静香はもう一度ていねいに頭を下げた。

「それで大家さん、何のご用でしょう?」

「ああ、そうでしたそうでした、忘れる所でした」

 パン

 静香は両手を合わせ、孝太郎達の背後にある窓を指さした。

「実はさっき、窓から引っ越し屋さんのトラックが帰っていくのが見えたものですから、そろそろお手伝いが出来る時期かなって思いまして」

「窓から?」

「はい。マッケンジーさん、実はわたし、この上の部屋に住んでいるんです」

「良いだろ、可愛い大家さんとひとつ屋根の下だ」

「まぁ………」

 静香は一度目を丸くした後、にっこりと微笑む。

「お上手なんですね、里見さんは」

「………ひとつ屋根の下も何も、アパートなんだから当たり前じゃないか」

「気分の問題だ」

「ふふふ、おふたりは仲がよろしいんですね。………っといけない、それでですね、こうしてお手伝いをしに来た訳なんです。さっきまでのような力仕事はともかく、ここからはきっとお手伝いできると思うので」

「助かります、大家さん。コウのやつこわしたり散らかすのは得意なんですけど、作ったり片付けたりは苦手なんです」

「コラ、マッケンジー、人聞きの悪い事を言うな」

「事実だろう。いつも俺がどれだけ苦労しているやら」

 そして賢治はメガネの位置を直しながら、盛大に溜め息をつく。

「じゃあ、いつもはマッケンジーさんが?」

「はい、苦労しています」

「感謝はしてるぞ」

「………感謝だけだがな。そうだ大家さん、一つきたい事があるんですけど、よろしいですか?」

「はい、何でしょう?」

 静香は笑顔のまま頷いた。

「どうしてこの部屋が家賃五千円なんて事になってるんです?」

「こ、こらマッケンジー、いきなりそんな事訊くなよ!」

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