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六畳間の侵略者!?

健速

四月四日(土) 陣地設営 (1)

 五千円。

 それがころな荘一〇六号室の月々の家賃だった。

 ころな荘は築二十五年の二階建ての木造アパートだ。加えて中心街からやや外れているので、元々家賃は安めだ。だが六じようワンルームキッチンバストイレ付きで月五千円は破格の安さだった。実際、一〇六号室以外の部屋の家賃はこの十倍ほどになる。そのうえ一〇六号室はしききん礼金無し、共済費も全額めんじよとなっているのだ。

 一〇六号室だけが激安である事には理由がある。これまでこの部屋に入居した人間は、例外なくすぐに出て行ってしまうのだ。最短で三時間、最長で三げつ。三日ほどで飛び出してしまうのがつうだった。おかげで家賃は下がる一方。今年に入って一万円の大台を割り、春になる前には五千円になっていた。

「雑にあつかうなよ、マッケンジー。その箱に入っているものはお前の命よりも高い」

「それを俺に言うか、コウ。だんのお前に比べたら、俺はいつだってどんなものだって大切に扱ってるっつーの」

「分かっているなら結構。キリキリ働いてくれたまえマッケンジー君」

「はいはい。どっちがしを手伝ってるんだか………。ったく………」

 そんな格安の物件に入居しようという少年がいた。

 かれの名前はさとこうろうおさなじみまつだいらけんは彼の事をコウと呼ぶ。逆に孝太郎は賢治の事をマッケンジーと呼んでいる。二人とも十五さいで、入学式を明後日にひかえた高校一年生だった。

 今日は四月四日の土曜日。

 父親の急な転勤のおかげで、孝太郎はこの春からきゆうきよ一人暮らしをする事となった。そこで孝太郎が向かった不動産屋でしようかいされたのが、このころな荘の一〇六号室だった。父一人子一人で育った孝太郎だったから、父親の負担にならないこの部屋に真っ先に飛びついた。それも家賃がこの値段である理由を聞く前に、だ。

「しっかしコウ、このタイミングで良くこんないい部屋が空いてたなぁ?」

「ラッキーだった。この間、親父おやじにいきなり転勤の話を聞かされた時は正直あせったもんな」

 父親の転勤が決まったのは二月も半ばを過ぎてからの事だ。それは孝太郎の高校入試が終わり、あとは合格発表を待つばかりというタイミングでの出来事だった。

「とはいえどうりようをして行けなくなったんならどうしようもないしな」

「そういうこった」

 もともと転勤は孝太郎の父親ではなく、その同僚がする予定になっていた。しかしその同僚が事故にっておおを負ってしまい、代わりに孝太郎の父親に話が回ってきたのだ。

「話は急でおどろいたけど、男の自立には良い機会だったかもしれないな。もう高校生なんだし」

「前向きだな」

「男の旅立ちを祝ってくれ」

「なんのこっちゃ」

 孝太郎と賢治は二人で衣装ケースを運んでいく。さきほどから二人は荷物をかかえて、表に止めてあるし業者の軽トラックと一〇六号室とを往復していた。

「お客さーん、冷蔵庫は流しの所で良いのかい?」

 すると二人の向かう一〇六号室から作業着姿の中年男性が顔を出した。彼はトラックを運転していた引っ越し業者の人間で、孝太郎達同様に荷物を運んでいた。

「はい、お願いします!」

りようかいー」

 孝太郎の返事を聞くと、男はすぐに部屋の中に引っ込んだ。孝太郎と賢治もその後を追って部屋に入っていく。

「これが月々五千円っていうんだからなぁ………。安過ぎるぞ」

 二人で開け放たれたドアをくぐると、賢治は何度目かのいきをついた。

うらやましいだろ」

「これで五千円なら俺が借りたかったよ」

 部屋は多少古めのデザインの和風の造りになっている。げんかんを入ると板張りのろうがあり、それがおくの六畳間に続いている。廊下の右側にはキッチンユニットが設置されていて、左側にはとトイレがある。見た目は確かにふるくさいのだが、部屋はきちんと手入れされていて清潔だった。

「気をつけろコウ、ケースがかべに当たりそうだ」

「わーってるわーってる」

「どうだか………。おじさん、後ろ通ります」

「おう、すまねえなメガネ君」

 キッチンで冷蔵庫を設置している男の背後をけ、孝太郎と賢治は六畳間へと向かう。畳張りの六畳間には段ボール箱や家具が運び込まれたまま雑然と置かれており、二人はそれをうようにして部屋に入っていった。

「んで、この衣装ケースはどうするんだ?」

「そうだな、おしれの下段に入れよう」

「オッケー」

 孝太郎と賢治は、協力して衣装ケースを押入れにし込んだ。そして二人が背筋をばして立ち上がった時、業者の男も六畳間へやってきた。

「お客さん、確か荷物はそれで最後でしたよね?」

「あ、はい。これで全部です」

「よし。じゃあ俺はこれで帰るよ」

「ありがとうございます」

 体育会系の縦社会で育ってきた孝太郎は、自然と男に頭を下げた。

「頭を下げるのはこっちさ、お客さん。よう、ありがとうございました」

 男はにゆうがおかべると、深々と頭を下げる。そして彼はいくつか書類を残して部屋を去っていった。

「さてと、これで一段落だな」

「ほい、マッケンジー」

 メガネの位置を直している賢治に向かって、孝太郎はお茶のペットボトルをほうげた。

「おっとっと、サンキュー」

 賢治は難なくペットボトルを受け取る。付き合いの長い二人だから、こういう事には慣れっこだった。

「ちょっとぬるくなってるのはかんべんな。冷蔵庫は今付いたばっかりだからさ」

 そう言いながら、孝太郎は自分の分のペットボトルをビニールぶくろから取り出した。それらは少し前に近所のコンビニで買って来たものだった。

「分かってるって」

 パキ

 そして二人は同時にペットボトルを開け、中身に口を付けた。

「はぁ~~、生き返る~~」

 孝太郎はお茶を飲みながら、二段に積み重なった段ボールにこしを下ろした。賢治は六畳間の入り口の所の柱に寄りかかってお茶を飲んでいる。そんな時、賢治は壁にかかっているカレンダーに目を留めた。

「早いなぁ、もう明後日が入学式だ」

「そうだった。今日中に必要な分はこんぽう解いちまわないと」

 孝太郎も賢治同様にカレンダーを見る。そのカレンダーは、孝太郎がここへやってきてすぐに時計といつしよに壁に取り付けたものだった。

「ん? 明日やりゃ良いじゃないか」

「明日はバイトが入ってるんだよ」

「入れてあるのか? 引っ越しの時ぐらい休みゃあいいのに」

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