勇者の代わりに魔王討伐したら手柄を横取りされました

赤丈聖

一章 魔王討伐の手柄を勇者に横取りされました (2)

 ジリュウが持つ紋章は、俺の紋章と全く同じ形だが、唯一異なる点があった。

 俺が持つ紋章は、ジリュウが持つ【勇者】の紋章とは真逆になっていたのだ。

 俺の紋章は【勇者】ではない。ジリュウが取り寄せたという紋章図鑑にも載っていない。

 では一体、これは何の紋章なのだろうか……。

 ジリュウが持つ【勇者】とは、似て非なる紋章……【偽者】とでも言うべきなのか?

 声もなく落ち込みうなれる。そんな俺の姿を見たジリュウは、俺のことなどお構いなしに口を開く。

『偽者だろうが何だろうがどうでもいいけどよー、暇なら俺様について来いよ。紋章の形も似てるし、二人の勇者ってことで国王に話をつけてやってもいいぜ?』と。

 急な誘いに驚きはしたが、正直嬉しくもあった。村で唯一、俺の存在を認めてくれたような気がしたのだ。だから俺は二つ返事で了承し、旅支度を済ませた。でも、

『いやあ~、すまねえなあ~。二人の勇者ってことで話をつけるつもりがよー、さすがに紋章の向きが逆じゃあ無理だったぜ。でもよー、その代わり、これからお前のことを俺様が【勇者】の力で生み出した分身ってことにしようぜっていう話になってな! 俺様と同じ装備をもらってきてやったから、有り難く思えよ~?』

 ジリュウは、一国の王と共謀して、ひとつの事実を作り上げた。

 勇者の固有能力で生み出した存在が、この俺なのだと。

 故に、言葉が話せず。

 故に、紋章が似ていると。

 ロザの国王にしてみれば【勇者】の紋章とほぼ同じ謎の紋章を持っている男を、野放しにはしておけない、ということだったのだろう。

『ってことだからよー、今日から絶対に喋んじゃねえぞ? てめえが裏切ったら、勇者の名が地に落ちちまうんだからなあ? いいか、分かったな?』

 勇者の分身体として生きて行くことを余儀なくされた俺は、見た目から全くジリュウと同じ聖銀製の装備を身に着けることとなった。違いは、ジリュウだけがロザ王家に伝わっていたかつての勇者が振るったという宝剣を授かったことだけだ。

 幸いなことに、兜を被ることで、他者と目を合わせたり言葉を交わす必要はなくなった。だが、それによって俺は、その後仲間となったエーニャやホルンを欺くことになってしまった。

 そして、それこそがジリュウの狙いだったというわけだ。

 俺が人間ではなく分身体であるのだ、と。より深く、より印象に残るよう、外堀を埋めていた……。


「分身と言われるのは、もう懲り懲りだ……。ジリュウ、俺はお前の分身なんかじゃない」

「……アルガ。お前さ、魔王に呪われでもしたんじゃねえの?」

 こいつは何を言っているのか。

「確かあの時よ、魔王の魔法を喰らっただろ。それが原因で俺様の言うことを聞かなくなっちまったのかあ?」

「意味が分からないことを言うな」

 片足を犠牲にホルンが身代わりになってくれたおかげで、俺への影響は何もない。

「っていうかよ、結局てめえは何が言いたいんだよ。……あー、ひょっとしてアレか? 魔王討伐の手柄を奪われたとか思ってんのかあ?」

「よく分かってるじゃないか」

「ククッ、クカカッ、全くてめえは間抜けだぜ。誰が誰の手柄を横取りしたってんだよ」

「ジリュウ、お前が俺の手柄を横取りしただろ」

「いーや、そりゃ間違いだぜ、アルガ」

 ふらふらとソファから立ち上がり、ジリュウは背伸びをする。

 だが鎧が邪魔なのか、思うように伸びが出来ずに舌打ちした。

「いいか、アルガ? てめえは所詮、俺様の影武者でしかねぇ」

「……今、なんて言った」

「おいおい、聞こえなかったのかあ? だから俺様はてめえのことをただの影武者、つまり偽者だって言ったんだぜ?」

 魔王討伐を果たした俺達は、無事ロザ王国へと戻った。盛大な催しに賑わう王都の城下町は、今もなお静まることを知らない。しかしながら、俺の心は何も祝う気にはなれない。

 そしてジリュウは、決して言ってはならないことを口にした。

「偽者と言うな……。魔王を倒したのは俺だ……」

 それだけではない。

 二年にも及ぶ長旅の中、魔物との遭遇や戦闘は幾度となく行われた。けれどもジリュウは、自分の手で魔物を倒したことは数えるほどしかない。俺に命じて倒したものが、ほとんどだ。

「は? 俺様は勇者なんだぜ? 魔王討伐をてめえなんかに任せると思ってんのか?」

 ジリュウが俺を睨む。何故こいつは息を吐くように嘘を口にすることが出来るのか。

「実際、俺とホルン、それとエーニャに任せっ放しだったじゃないか」

「まあな、そうかもな。……アルガ、お前にはそう見えたのかもしれないなあ」

 くくっと喉を鳴らし、ジリュウはゆっくりと息を吐く。そして、ニタリと口角を上げた。

「だけどなあ、残念ながら【勇者】の紋章を持ってんのはアルガ、てめえじゃなくて、この俺様だ」

「──ッ」

 その一言は、この世界ではどんな言葉よりも深く、何よりも重いものだ。

「俺様が魔王の首を獲ったって言えば、誰もが俺様の言葉を無条件で信じるんだ。何故なら俺様は【勇者】の紋章を持つ男だからなあ……。違うか、アルガァ?」

「そ、それはそうだが……」

「アルガ、アルガアルガアルガァ、この俺様の分身くん。てめえは何にも分かっちゃいねえな。誰が途中まで頑張ったかなんてことは重要じゃねえんだよ。この世で最も大事なことはなあ、誰が魔王に止めを刺したのかってことなんだぜ?」

「……それがお前の答えなのか、ジリュウ」

「ああ、それだけだなあ。……で、聞きてえことはそれだけか、アルガァ?」

 魔王討伐の証明に、俺達は魔王の頭部を王都へと持ち帰った。世界中の人々が大いに沸き、勇者であり英雄の誕生に感謝した。

 しかしだ。ジリュウはロザ王国に魔王の頭部を献上する際、魔王を倒したのは自分だと公言した。

 つまりそれは、俺の手柄を横取りしたことになる。

「俺は、都合のいい道具扱いか……」

「よく分かってんじゃねえか、その通りだぜえ」

「……もういい。ジリュウ、お前のことを信じた俺が馬鹿だったよ」

「カカカッ、今更だぜぇ。馬鹿だってことぐらい、最初ハナッから知ってたからなあ?」

 話せばきっと分かってくれるはずだ。そう思っていた。だがその考えは間違いだったらしい。

「今から国王に直接話してくる」

「無駄だ無駄だ、止めとけっての。口下手なてめえが俺以外の奴としっかり話せんのかぁ? それにあのジジイだって、てめえを俺の影武者扱いするって話には一枚噛んでるんだぜぇ? それを今から覆せるってのか?」

「それでも言うさ。もうこれ以上、お前の言いなりになるのは御免だからな。……それに、俺が魔王を倒したことは仲間が証言してくれる」

 初めは一人だけ。ジリュウだけしかいなかった。だが、今の俺には信じることが出来る仲間が二人いる。ホルンとエーニャだ。あいつらなら、きっと俺の味方になってくれるはずだ。

 ただ、ジリュウは笑うのを止めない。

「ホルンとエーニャかぁ? クカカッ、てめえはほんっとーに間抜けだよなあ?」

「……何が言いたい」

「あいつらは俺様が倒したって思ってるぜ?」

「馬鹿なことを。そんなはずがないだろう。今までずっと一緒に旅をしてきたんだ。ジリュウの嘘を信じるはずが……」

 そこまで言って、俺はようやく気がついた。

「まさか全てはこの為に……魔王に止めを刺したのか」

「思い出したかあ~? そのまさかなんだよな~」

 ニヤニヤと笑い、ジリュウは俺と向かい合う。腕を組んで顎を上げ、挑発するかのような表情を作り出し、舌を動かす。

「あいつ等はよー、てめえじゃなくて俺様が止めを刺すところを見てるんだからなあ~」

「だがっ、止めを刺すまで実際に戦っていたのは……」

「アルガァ、てめえは本当におめでてぇなぁ? ホルンとエーニャもボロボロだったあの状況、しかも魔王がおあつらえ向きに視界まで封じてくれたときたもんだ。本当のところがどうだったかなんて、あいつ等にはわからねえよ」

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