田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い~
投獄 Imprisonment (3)
痛いの痛いの飛んでいけ。
ひっそりと念じてみる。
すると瘡蓋は瞬く間に小さくなり、おぉ、スゲェ、数秒とかからず肌の上から完全に消失したではないか。これが回復魔法のパワーか。実際に使ってみるまで半信半疑であったけれど、こうして目の当たりにするとシビれるな。
「…………」
他方、当人はと言えば、治癒に気付いた様子はない。どうやら想定したとおり大した怪我ではなかったようだ。なるほどなるほど、これは思ったより使い勝手が良さそうだぞ。もっと大きな怪我とかで試してみたくなる。
他に対象はないだろうか。
それとなく意識を巡らせると、鉄格子を挟んで反対側の牢屋にこれを発見。筵の上に横たわり、ウンウンとうなり声を上げている女性だ。見れば両目が潰れており、涙の代わりに赤いものの垂れて固まった様子が窺える。
「……よし」
次はヤツだ。
先程と同じく、痛いのを飛ばすべく、唸る。
すると、今し方に眺めたものと同様、早々に傷口が癒えてゆく。肌に付着した血液こそ変わらずであるが、開いていた患部は、やはり数秒とかからず早々に塞がり、元あった瞳の輝きを取り戻した。
「っ!?」
流石にこちらは自らの肉体に起きた変化に気付いたよう。筵から身体を起こすと共に、あっちを見たり、こっちを見たり。忙しなく動き始めた。
まさか気付かれては面倒なので、早々に彼女から意識を外して元の太ももへ。
「…………」
なんかちょっと良いことした感あるな。
辻ヒールってヤツだ。
次だ、次の獲物を探すぜ。
お、発見したぜ。
斜め向かいの牢屋だ。
今度は両腕を潰されて、うっわ、エグいな。マジかよ。本人も目が死んでる。俺もう明日からどうやって生きていけばいいんだよ、みたいな顔してる。即日で中央線にダイブしてしまいそうな気配をまとっているぞ。
けど、これもちゃっちゃと治しちゃうんだぜ。
悪人にも最低限の人権ってヤツは必要だろ。
奥義、痛いの痛いのゴーアウェイ。
先の二度と比較して、少しばかり強めに念じてみる。すると、これは驚いた。速攻で怪我が癒えたではないか。治ってゆく過程を確認することすらままならないほど。なんかこう、ボフっと潰れた部分が膨らんだよう。
スゲェ。回復魔法すげぇ。これは面白いわ。
だもんだから、そこから先は手当たり次第である。自身が放り込まれた部屋はフロアの中央に存在しており、囲う四面が全て格子となっている。おかげで見通しが良く、これがサーチアンドサンクチュアリを加速させた。
牢屋に放り込まれている手合いなど、誰もが少なからず怪我を負っている訳で、これを格子越しに見つけては、回復魔法を飛ばしていった。都合、目についた罪人全てを完治である。効果の程はどれも圧倒的であった。
「……ふぅ」
一通りを治したところで、ちょっと達成感。
同時に何やら身体に違和感。どうにもこうにも漲るパワー。エナジードリンクを短い時間で大量に摂取したような。如何とも形容しがたい充実感を得たように思える。
何がどうした。
こういう状況こそステータスウィンドウの出番だろう。
名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:3
ジョブ:特になし
HP:209/209
MP:90500000/90500000
STR:30
VIT:20
DEX:31
AGI:29
INT:5702000
LUC:12
おう、二つもレベル上がってる。スゲェ。
HPが増えたのありがたいね。
流石に九のままだと不安だろう。
どうしていきなりレベルアップしたのか、些か疑問に思わないでもないが、まあ、アップしたのならアップさせておけばよい。これといって害はないだろう。
「貴様、さっきから何をしている?」
かと思えば、急に同居人発でトークイベント発生。
これは嬉しい。
疑問の解消は後回しとして、今は巨乳トークに全力を尽くそう。
「え? あ、いえ、少し思うところありまして」
「魔力の気配を感じるが、そのような真似は無駄だ。ここの牢獄は魔力を決して通さない。如何に力んだところで、内側に暴発させるのがオチだ。貴様が死ぬ分には構わないが、私まで巻き込むな」
「そうなのですか?」
「ここの牢獄に入れられている者たちは一般的な罪人とは異なる。当然の処置だ。設計、製作をファーレン閣下ご自身が為されたのだ、およそ国内でこれを内側から魔法的に破壊可能な術者は存在しないだろう」
「……なるほど」
そうは言っても、普通に回復してたけどな。
っていうか、俺の扱いも一般的じゃないのかよ。
まあ、いいや。深く考えても仕方がない。
「いいか? くれぐれも妙な気は起こすなよ?」
「ご忠告痛み入ります。十分に気をつけるようにしますね」
「ふんっ……」
こちらを気遣ったというよりは、今述べたとおり自身の身を案じての発言だろう。表情には依然として嫌悪の色が窺える。
一方で自分はといえば、彼女と言葉を交わせたことに悦びを感じた。やっぱりコミュニケーションは大切である。人は孤独に弱い生き物さ。
更に相手が胸と尻の大きなパツキン美人ともなれば罵倒も立派な交流だ。
「…………」
「…………」
ただ、やはりというか、すぐに続くところは失われてしまう。
急いては事を仕損じるとも言うし、ここは今し方に進んだ貴重な一歩を崩さぬよう、少し時間を置くとしようか。かれこれ結構な時間を活動している。少し身体を休めるのも良いかも知れない。
あぁ、そうしよう。
ベッド上、適当に身を転がして眠ることとした。
*
人の動く気配で目が覚めた。
薄ぼんやりと瞼を開く。すると、視界の隅でこれまで延々と体育座りで過ごしていた彼女がいつの間にか正座となり、更に太ももを擦り合わせてモジモジとしていた。腰のあたりの小刻みに蠢く様子がエロい。叶うことなら後ろからも見たい。
強ばった表情の、どこか焦りを思わせる赤みと相まっては、なるほど。
「…………」
「っ……」
目と目があった。
途端、睨まれた。
恐らくは催してしまったのだろう。
そう言えば、このネーチャン、ステータスはどんなもんだよ。
名前:アンネローゼ・レープマン
性別:女
種族:人間
レベル:36
ジョブ:近衛騎士
HP:4253/6850
MP:175/950
STR:2580
VIT:998
DEX:1121
AGI:1233
INT:914
LUC:707
ほう、レベル三十六ですか。物語も中盤といったところですね。
いいや、最近のネトゲ全盛な価値観だと、まだまだ序盤か。
ところで近衛騎士とか、かなり身分としては上の方にあるような気がするんだけれど、一体何をして牢屋に放り込まれたのだろう。もしかして、本当に冤罪とかだったりするのだろうか。
「一つ伺いたいのですが……」
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