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田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い~

ぶんころり

投獄 Imprisonment (2)

「ふひひぃいいいいいいいっ!」

 ちっくしょう、やべぇ。追いつかれそう。

 必死こいて走ってるけど、もう無理そう。

 五十メートル十秒を舐めるな。がいこうでガチガチに固めた兵士を相手に、全身カジュアル装備が敗北しそうだ。肩越しにガッチャガッチャと、耳かしましい音が近づいてくる。それが殊更に胸の鼓動を速くして、もう無理、無理だわ。

「はっ、はっ、はぁっ」

 はい、駄目。

 ゲームオーバー。

 捕まりました。

「このっ! 捕まえたぞっ!」

「うっ、き、気持ち悪っ、急に走ったから……」

 気持ち悪くなってすっ転ぶ。

 痛い。

 倒れたところを捕縛されて、胴体を縄でグルグル巻き。

 問答無用で連行された。

 牢屋まで。

 望まない形で街の中に入れてしまったぞ。



 訪れた先、放り込まれた牢屋には先客がいた。

「あ、どうも……」

「っ……」

 でらべっぴんだ。

 歳は十代後半くらいだろうか。色白い肌に彫りの深い顔立ち。腰下まで伸びた長い金髪と、青い瞳とが印象的な西洋美女である。ちなみに大変立派な胸をお持ちであり、これから下るところ腰は引き締まる一方で、再びお尻に大きな膨らみが。

 グラマラスってやつ。

 金髪へきがんグラマラスってやつ。

 特に今は牢屋に放り込まれている都合、薄いブラウスのようなものを一枚着ただけの姿である。おかげで身体のラインが強調されてヤバいのなんのって。角度によっては乳首がうっすら透けて見える。

 エロ過ぎる身体だ。

 セックスしたい。はらませたい。出産させたい。

 しかも手首にはかせが、足首にはあしかせが嵌められている。牢屋の中というシチュエーションも相まって、最高にいい仕事をしている。左右の手枷は同じ側の足枷と鎖で繋がっており、これが意外と短くて、ろくに背筋も伸ばせないほど。

 ヤラセでは得られない本物の臨場感というヤツをひしひしと感じる。

「初めまして、私は田中と言うのですが……」

「うるさい、黙れ」

「…………」

 いきなりコミュニケーション失敗。

 今の今まで腰を下ろしていた彼女は、ゆっくりと中腰になり、カニ歩きで隅まで移動だ。やがて、その背が格子へ接する所まで歩んだところで、こちらに向き直り、再び腰を落ち着けた。ちなみに体育座り。両手足の枷が邪魔して、他の着座姿勢が取れないもよう。

 なんというか、ほら、あれだ。

 電車の席に腰を落ち着けたところ、すぐ隣にいた女の人が、自分と入れ替わるよう無言で他の席へ移っていくような、そんな切なさほとばしる。あれってコンビニでお釣りを高いところから落とされるより傷つくよな。レベルが二つくらい上だと思う。

 更に今回は移動するに飽きたらず、こちらを威嚇するよう全力で睨み付け。

 これ以上を話しかけるなと、言外に本気で訴えてやまない眼差しだ。

 完全に犯罪者を見るそれだ。

「…………」

 ただまあ、ふと冷静に考え直してみれば、牢屋で出会った三十過ぎのブサイクなオッサンとか、年若い女の人がまともに扱う訳がない。もしも自分が同じ立場だったら、きっと大差ない態度すると思うもの。

「…………」

 ちょっと申し訳なくなったので、大人しくすることにした。

 彼女が座った位置とは部屋の中央を挟んで対面に腰を下ろす。

 同時にそれとなく牢屋の中を見渡した。

「…………」

 一応、ベッドとトイレは完備されているよう。とはいえ、前者はわら敷きであるし、後者に至っては部屋の隅に溝が掘られている限りだ。全体的に多少の湿りが確認できる点から、定期的に水が流れて汚物を流す仕組みなのだろう。

 広さは六畳ほどで、二人部屋としてはいささか狭い。

 ただ、藁敷ベッドが二つ用意されている点から、想定通りの定員なのだろう。

 その他に特徴的なのが、この個室はフロアの中央に位置しており、四方向が格子により区切られている。都合、他の囚人たちから、我々の一挙一動は丸見えという、酷く羞恥心を刺激されるステージだ。

「…………」

 そうした只中、正面に腰掛けた彼女の姿勢がヤバイ。

 薄い部屋着が一枚限りであるから、体育座り、膝を折って両腕に抱きしめたもも裏の合間より覗く、太ももの寄り添う様子に自然と意識が向かう。その引き締まった健康的な両下肢にガッチリとホールドされてみたい。

「…………」

 まったく衛兵は何を考えて、男女を同じ檻に入れたのか。

 素晴らしいルームサービスだ。

 しかし、だからと言って凝視する訳にはいかない。ずっと見ていては警戒されてしまうからな。彼女には出来る限りリラックスしていて欲しい。ゆえに牢屋の中が珍しいのですを装いつつ、チラ見で回数を重ねる作戦だ。

「…………」

 チラチラ。

 チラチラ。

 チラチラが止まらない。

 電車のロングシート、向かい合わせの席にミニスカートの女子高生が座った時のような。しかも友達とのお話に夢中で無防備にも足を広げている時のような。そんなドキドキワクワクが視線を向かわせる。

 これだけでも捕まった価値はあったな。

「……おい」

 しばらく視姦していると、不意に先方より声をかけられた。

 しかも随分と不機嫌そうではないか。

「なんでしょうか?」

「チラチラとこちらを見るな、うっとうしい」

 思いっきりバレてるじゃん。

 だがしかし、部位までは特定されていないようで、体育座りの姿勢に変化はない。良かった、ギリギリセーフだ。ここは適当にヨイショしてご機嫌を取るとしよう。万が一にも視線の先を悟られてはいけない。

「すみません。牢屋に似つかわしくない方でしたので……」

「黙れ、犯罪者から世辞など言われても嬉しくないっ!」

「いえ、その点は誤解があって、自分の場合は誤認逮捕というか」

「悪者はどいつもこいつもそう主張するものだっ!」

「とはいえ、牢屋に入っているのはそちらも同じだと思うのですが」

「わ、私は違うっ! 無実の罪だっ! 冤罪なのだっ!」

「では私と同じですね」

「だから貴様と一緒にするなっ!」

「…………」

 難しいお年頃だな。

 しかしながら、自身の外見をかんがみれば、これも致し方ないところ。身なりこそ小綺麗なものだが、如何いかんせん中身が無残である。更に背景へ鉄格子が嵌まっていたりしたら、誰しも近づきたいとは思うまい。自分だって嫌だ。

「…………」

「…………」

 仕方がない、今は大人しくしておこう。

 チラ見も十秒に一回から、一分に一回としてペース変更だ。

 ああ、これならきっと大丈夫のはずだ。

 焦ることはない。

 テンポ良くやっていこう。

 仮に一日の活動時間を十二時間としても七百二十チラリ可能だ。



 チラリチラリとチラリを重ねること数十回ほど。

 ふと気付いた。

 愛しい太ももの付け根に傷があるではないか。そう大した怪我ではなくて、大きさは爪の先ほど。既に出血も止まりかさぶたとなっている。当人にも意識した様子は窺えない。とはいえ、この美しい太ももに怪我などとは、景観をそこねる由々しき事態だ。

 丁度良い機会だし、ここは一つ、神様から頂戴した魔法を試してみよう。

「…………」

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