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転生したらスライムだった件

伏瀬

第一章 初めての友達 (1)

第一章 初めての友達


 暗い。

 真っ暗で何も見えない。

 ここはどこだ? てか、どうなった。

 確か、賢者だ大賢者だと馬鹿にされたよーな……。


 そこで、俺の意識は覚醒した。

 俺の名前は、かみさとる。三十七歳のナイスガイ。

 路上で後輩を、通り魔らしき奴からかばって刺されたんだった。

 よし、覚えてる。大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃないようだ。

 大体、クールな俺が慌てた事なんて、小学生の頃う○こ漏らした時くらいのものだ。

 周りを見回そうとして、気付く。目が開けられない。

 まいったなと、頭をかこうとして……手が反応しない。それ以前にどこに頭があるのだろう。

 混乱する。

 オイオイ、ちょっと待ってくれよ。

 時間をくれ、落ち着くから。こういう時は素数を数えたらいいんだっけ?

 一、二、三、ダァーーー!!

 違う。そうじゃない。そもそも、一は素数ではないんだっけ?

 いやいや、それもどうでもいい。

 そんな馬鹿な事を言っている場合ではないぞ、ヤバイんじゃない?

 あれ? ちょ、どうなってんだこれ!?

 もしかして……ひょっとすると、既に慌てないと駄目な時間なんじゃない?

 俺は焦って、どこか痛む所はないか確認する。

 痛みはない。快適だ。

 寒さも暑さも感じない。実に居心地のいい空間にいるようだ。

 その事に少しだけ安心する。

 次に手足を確認。指先どころか、手も足も反応はなかった……。

 どういう事だ?

 刺されただけで、手や、足がなくなるハズないし、どうなってる?

 そもそも、目が開けられない。

 何も見えない、真っ暗な空間にいるのだ。

 俺の心に、かつて感じた事もないものすごい不安が押し寄せてきた。

 これは……意識不明状態になった、とか?

 実際には意識だけはあるが、神経が切断されて動けないとか?

 いやいやいや、勘弁してくれよ!

 考えて見て欲しい。

 人は、暗闇に閉じ込めるとあっという間に発狂するという。今の俺はまさにその状態であり、更には、自分で死ぬ事も出来ないのだ。

 このまま狂うのみなど、絶望するなという方が不可能だろう。

 その時、サワリッと、身体に触れる感触があった。

 ん? なんだろう……?

 俺の感覚が全て、その感触に意識を集中する。

 腹? の横辺りを撫でるように、草らしきものが触れていた。

 その辺りに意識を集中すると、自分の身体の範囲がおぼろげながらに理解出来た。たまに、葉の先っちょが自分の身体にツンツンと刺さる感触がある。

 俺はちょっと嬉しくなった。

 未だ、真っ暗な中にいる。しかし、五感の内の触覚だけでも感じる事が出来たのだから。

 面白くなって、その草に向かおうとすると――

 ズルリ。

 這いずるように、自分の身体が動くのがわかった。

 動いた……だと!?

 この時、はっきりと、自分がベッドの上にはいないと判明した。自分の腹? の下の感触が、ゴツゴツとした岩のような形状をしていると感じたからだ。

 なるほど……全然わからんけど、どうやら病院にはいないようだ。

 その上、目も耳も機能していない。

 どこが頭かわからないが、草に向けて移動する。接触している部分に意識を向ける。

 匂いは全く感じない。恐らく、嗅覚もないのではなかろうか?

 というか、自分の身体の形状がわからない。

 認めたくないが、流線型のぷよぷよした、あの〝モンスター〟のような形状をしているような。

 そういう気が、先程から脳裏をかすめている。

 いやいや……そんなハズないさ。いくらなんでも、そんなハズ……。

 取り敢えず、その不安は置いておく。

 俺は、人間の五感の内、試していない最後の一つを試してみる事にした。

 しかし、口がどこにあるのかわからない。どうしたものか?


《ユニークスキル『捕食者』を使用しますか?

YES/NO》


 突然、俺の脳裏に声が響いた。

 は? 何、なんだって? ユニークスキル『捕食者』……だと?

 てか、この声はなんだ?

 田村との会話の最中にも変な声が聞こえていたような気がしたが、気のせいではなかったのか?

 誰かいるのか? だが、違和感がある。これは、誰かいるというより……心に言葉が浮かび出ているだけという感じ。

 人の意思を感じない、パソコンの自動音声のような無機質な感じと言えばいいのか。


 取り敢えず、NO! だ。

 反応はない。暫く待ったが、声を感じる事はなかった。

 どうやら、二度目の問いかけはないようだ。選択を間違ったか? これは、YESを選択しないと詰むゲームなのか?

 RPGのように、YESを選択するまで同じ質問を続けて来るのかと思っていたのだが、違ったらしい。

 声をかけて質問だけしてその後放置とは、本当に失礼なヤツである。

 声が聞こえて、実はちょっとだけ嬉しかったのに。

 俺は少しだけ後悔した。

 まあ、仕方ない。さっきやりかけていた、味覚を試すか。

 先程の草に向けて身体を動かす。

 草に触れている部分の感触を確かめながら、草にのしかかった。草を覆うように、身体で感触を確かめる。やはり、これは草で間違いなさそうだ。

 俺が草の感触を確かめていると、草と俺の身体の接触部分が溶け出した。俺の身体が溶けたのかと焦ったが、どうやら溶けたのは草だけのようだ。

 そして、身体の中に溶けた草の成分が取り込まれるのが理解出来た。

 どうやら、草を溶かして取り込んだようだ。つまり、俺の身体は口ではなく、接触部分で草を取り込めるのだ。ちなみに、味は全く感じなかった。


 これはつまり、そういう事のようだ。

 どうやら、俺は人間ではなくなっている。これはほぼ間違いない。

 という事は、やはり刺されて死んでしまったのだろうか?

 疑問というよりは、ほぼ確信しているのだが。それなら、今病院ではなく、岩場のような草の生えた所にいる事にも納得がいく。

 田村はどうなった?

 沢渡さんは?

 俺のPCはちゃんと破壊されたのか?

 疑問は尽きない。しかし、最早悩んでも仕方ないのかもしれない。今後どうするか考えないと。

 となると、やはり今の俺の形態――

 さっきの感触からして……。

 俺は改めて、自分の身体に意識を向ける。

 ぷよん。ぷよん。

 リズミカルに動く自分の身体。

 真っ暗闇の中で、自分の身体の境界がどこなのか時間をかけて確かめた。

 何という事でしょう!

 あんなに格好良くて男らしかったのに、今ではこんなに流線的な洗練されたスタイルに!

 って、アホか! 認められるかぁー!!

 身体の境界を感じる限り、どう考えても、ヤツを連想してしまう。

 いやいや、だって、ねえ?

 嫌いじゃないよ? うん。可愛いと思える事もあるさ!

 でもさ、自分がなりたいか? と聞かれれば、九割の人は心を同じにしてくれるだろう。

 だが、認めるしかないのかもしれない……。

 どうやら俺の〝魂〟は、異なる世界で生まれた魔物に生まれ変わったのだ、と。

 本来有り得ないような、天文学的確率なのかもしれないけれど……。

 俺は、スライムに転生してしまったのだ。



 もしゃもしゃ。

 もしゃもしゃもしゃ。

 俺は、草を食っていた。

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