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出遅れテイマーのその日暮らし

棚架ユウ

第一章 いざゲームの世界へ (2)

 回線の増強工事も忘れてはいけない。電話で聞いたら、三日後に来てくれるらしい。間に合って良かった。

 親類知人には、しばらく留守にすると伝えた。最後に電話した母ちゃんとの会話が思い返される。

 

『もしもし?』

「あ、母ちゃん? オレオレ」

『優太。あんたから電話してくるなんて珍しいじゃない?』

「いや、まずは俺が誰か確認するのが先だろ? オレオレ詐欺だったらどうするんだ」

『わかってるから大丈夫だよ』

「あのなー。息子の声なら聞けばわかるって思ってるのかもしれないけど、電話の声は微妙に本人と違って聞こえるから、それだけで判断するのは危ないんだぞ?」

『聞けばわかるって……。あんた自分がどんだけ愛されてると思ってるんだい。おこがましい』

「おこが……言い過ぎ!」

『単純に、電話番号が表示されるだけだよ。息子の声は忘れちまったが、電話番号くらいは覚えてるからねぇ』

「さいですか」

『それで? なんの用だい? あたしだって色々と忙しいんだよ』

「ちなみにどんな用事だよ?」

『これから楽しみにしてるドラマの再放送があるんだ。始まる前に、テレビを見ながら食べる用のおやつを作らなきゃいけないんだよ。今日こそ厚さ二センチ以上のパンケーキを焼いてみせる』

「せんべいでも食っとけ!」

『それに、フランの散歩もいってやらないと』

「あー、元気か?」

『相変わらず白いモップみたいだよ。でも最近じゃ、散歩のとき以外は縁側で寝てることが多いかねぇ』

「もう結構なとしだからなぁ」

『でもまあ、健康診断でも特に悪い部分はないって言われたし、大丈夫だよ』

「そうか……。ああ、本題なんだが」

『やっとかい』

「今年の夏は帰省しないから。色々と忙しいんだ」

『旅行にでも行くのかい?』

「似たようなもんだ」

『ふーん。わかったよ』

「じゃあ、父ちゃんにもよろしくな」

『はいはい。じゃあね』

 プツッツーツー。

「電話切るの早っ! 母ちゃん、相変わらずだな。にしても旅行か……。まあ嘘じゃないよな? なにせ異世界旅行するようなもんだし」


 ともかく、これで煩わしい人付き合いもシャットアウト。完璧だ! 約一ヶ月間、引きこもっていられる。

「ふははは! 我が廃人の城の完成だ!」

 サービス開始が待ち遠しくてたまらないぜ!

 それから二週間。ゲームのサービス開始までは長かった。

 いや、時間的にはすぐだったんだけど、待ち遠しくて仕方なかったのだ。久々に妄想と興奮で眠れない日々を過ごしてしまったぜ。

 だが、今日はついにサービス開始の日だ。

 正確に言うと、あと五分でLJOへのダイブインが可能となる。

 ゲームのことが気になり過ぎて会社でミスを連発したが気にならない。どうせ明日からは仮想空間の住人である。怒られるのは二五日後なのだ。それまでには上司の怒りも解けているだろう。多分。

「事前登録もしたし、情報もバッチリ。準備は万端だな」

 ここ一週間は情報収集に努めてきた。

 公式サイトを読み込み、βテストの情報を入手して、イメージを膨らませてきた。ちなみにβテストと言うのは、正式なサービス開始前に大きな問題などはないか確認するために少人数で行われる、テストプレイのことだ。

 別に攻略最前線で活躍しようとは思っていないが、底辺に甘んじるつもりはない。やるからにはスタートダッシュを決めて、第二次出荷分のプレイヤーたちに差をつけるくらいのことはしたい。

 とはいえ、あまり事前情報を知り過ぎるのもつまらないのだ。新鮮味が無くなるからな。そのさじ加減が中々難しい。

 なので、公式で公開されている情報、自分が狙っている職業や種族のようなキャラメイク関連について、大まかな世界観的な物、その三つを中心に情報を集めてみた。逆に狙っていない職業や、βでの攻略情報についてはあまり詳しくない。ただ、それらの情報を完璧に遮断するのも難しいので、全く知らないわけではないけどね。

 特に重要なのが、ゲーム内の時間経過についての情報だろう。ゲーム内では四倍の速度で時間が進むらしい。詳しいことは、脳への電気信号をどうとか難しい技術なので省くが、とにかくゲーム内の時間は現実の四倍なのだ。実際に向こうで四日過ごしても、こちらでは一日しか進まないということだった。

 あとは、連続ログイン時間の制限や、キャラの睡眠時間などの制限もあるが、そちらはまあ、どうにかなるだろう。俺はリアルの時間制限がないからな。

 それと最も重要なことだが、LJOではPK行為が不可能となっている。

 PKとは『Player Kill』の略だ。プレイヤーが他のプレイヤーを殺して、所持品やお金を奪ったりする行為だな。リアル志向のゲームには大抵実装されているシステムである。

 しかし、LJOはそれがシステム的にできない仕様となっていた。PKに限らず、スリなどの盗み行為もできない、プレイヤー同士の争いを徹底的に減らす仕様であるのだ。

 これは女性や子供もプレイしやすい環境を目指しているからだろう。あくまでも異世界で楽しく過ごしましょうというスタンスなのだ。

 テレビCMでマナー違反者への迅速対応をアピールしていることからも、その姿勢が伝わってくる。賛否両論あるようで、ネットでは『温い』『媚びてる』と言われているが、俺は肯定派だ。

 PKとか理解できないし。基本ソロプレイの俺としては、煩わしいPKを警戒しなくても済むのは有り難くもある。皆で仲良くプレイできたらいいじゃないのと言いたい。

 また、ライトユーザー取り込みの一環としてリソースの奪い合いも極力減らすらしい。アイテムや、モンスターのポップについても調整し、強者による狩場の独占や、アイテムの一局集中を回避すると明言されている。

 ゲーム内課金が少ないが故に、プレイヤーの射幸心をあおる必要がないというのも理由の一つだと思うが。

 課金の代わりに、種族やアイテム等の拡張追加パックの発売が検討されているという噂もあり、ヘビーユーザー相手の商売はそちらでするということなのだろう。

 ピピピピッ!

「おっと、時間か」

 開始三〇秒前に設定しておいたアラームが鳴り響く。

 俺はそのアラームを止めると、バイザータイプのゲーム機を頭にセットし、ベッドに横たわる。

「五、四、三、二、一、ログインスタート!」

 そして俺の視界が闇に覆われると、次の瞬間には薄暗い空間に立っていた。漆黒の闇がどこまでも広がる不思議な場所だ。

「おお、事前の情報通りだな。ナビゲーターが案内してくれるらしいけど……」

『ようこそ、Law of Justiceの世界へ』

 どこからともなく舞い降りてきたのは、手の平サイズの妖精だった。ティンカーベルタイプの可愛い妖精さんである。これがキャラメイクの手伝いをしてくれるナビゲーターという奴だろう。

『キャラメイクを開始します』

 外見は可愛くても、そのしゃべり方は機械的だ。顔にも表情がない。AIなどを搭載した、自立思考型ではないのだろう。

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