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出遅れテイマーのその日暮らし

棚架ユウ

第一章 いざゲームの世界へ (1)



 Law of Justice Onlineというゲームをご存知だろうか?

 通称は『LJO』。

 三年前に実用化された全ゲーマーの夢、フルダイブVRゲーム機において、初の完全国産オンラインRPGとして発表されたタイトルである。

 ああ、フルダイブVRゲームとは、体が眠っている間に精神だけが仮想世界に入り込んで遊ぶゲームのことだ。

 当初は従来の多人数参加型のオンラインRPGのようにVRMMORPGと銘打たれていた。

 だが、現在ではVRWCORPG──World Connecting Online(仮想世界接続型オンラインRPG)と変更されている。

 新たなインターフェイスであるフルダイブVRゲーム機を利用するLJOは、従来のMMOとは様々な差異があり、MMOという呼称では表現しきれないというのが、表向きの理由である。LJOという新たなる世界に接続して遊ぶ、新たなジャンルのゲームだと言うのだ。

 だが実際はVRMMOという名称が各国ですでに商標登録がされており、即時使用できなかったというのが本当の理由らしい。

 VRMMOはすでに市民権を得た言葉なので、裁判なり何なりをすれば使用許可は簡単に下りるだろう。だが、どれだけ時間がかかるかわからないし、だったら新しい名前を付けたほうが早くて安上がりだということらしい

 まあ、面白ければMMOだろうがWCOだろうが、どっちでもいいけどね。

 異世界や魔法を題材にしたゲームはいくつか発売されていたが、これほど作りこまれた世界観と、広大さを備えたRPGは初めての登場である。

 余りにもリアルで違和感を覚えさせないトレイラー画像を見たときには、ついにここまで来たかと妙に感動してしまった。キャッチコピーである「まるで異世界」というのは、誇張ではないだろう。陳腐ではあるが。

 その注目度の高さを示すように、新情報が公開されればネットニュースのトップになる程だった。

 世界中のゲームファンが発売を心待ちにしていると言っても過言ではないだろう。初回ロットは日本でのみの先行発売だというのに、初回出荷分五万本に、二〇〇〇万件以上の応募があったらしい。しかも販売価格、月額使用料共に他タイトルの倍以上の超高額設定だというのにだ。

 この価格はゲーム中で課金が少ない代わりの高額設定だという話なので、ユーザーの大部分は仕方ないと割り切っている。

 ちなみに、わずかにある課金は外見やホームの内装関係だけで、課金による強化アイテムや限定強装備の入手などが不可能な作りになっているらしい。いわゆる課金の量が強さに直結する作りではないということだ。最近のゲームの中では珍しいと言えるだろう。

 当然俺、ゆうも応募していた。

 そして──。

「やったっ!」

 俺はPCの画面を確認して思わず叫んでいた。見ているのは、メールフォルダに届いた一通のメールだ。


件名:Law of Justice Online 当選者様各位


 内容は、Law of Justice Online初回出荷分に応募してくれてありがとう。あなたは見事当選したよ、よかったね! という感じのことが非常に堅い文章で書かれている。あとはソフトの代金の振り込み方とか、転売不可とかの注意書きだ。


「よしっ! よ~しっ!」

 まさか当たるとは思っていなかった。倍率は四〇〇倍を超えているし「まあ一応応募しておくか」と、ダメ元で予約に応募してみたのだ。

「決まってしまったな」

 何がって? 廃人プレイがだ。

 廃人プレイ、それは現実よりもゲーム世界の方が重要だという新人類の如き認識を持った、選ばれしゲーマーだけに許されたプレイスタイル。

 廃人プレイの門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。なんじ、ゲームに全てを捧ぐことを誓うなりや? そこでゲーム神様に「イエス」と迷いなく答えられるゲーマーのみが、廃人プレイヤーとなることが許されるのである。

 廃人プレイヤーというのは、簡単に言ってしまえば、ゲームにのめり込み過ぎて現実の生活に多大な支障が出てしまっている人たちのことだ。

 極まった人間になると、食事はポテチのみ。トイレはペットボトル。眠気が来る限界までプレイ。睡眠は二日に四時間しかとりません。そんな生活を送っている人たちもいるそうだ。いや、俺もそこまでするつもりはないけどね?

 そもそも最近のフルダイブVRゲームは、その辺の規制が異常に厳しい。それ故、廃人プレイと言っても、精々が一日の半分をゲームして過ごすといった程度の意味合いになっていた。

「さて、どれだけ休めるかだが……」

 今日は七月一五日。ゲームの正式サービス開始が、八月一日だ。

「くくく。俺にはまだ夏休みという福音が残されている!」

 うちの会社は夏休みが微妙に長い。実に一五日。有給を使えば二五日は休める。二五連コンボだ。

「腐れ上司も去年同じことやってたし、文句は言わせんぞ」

 次の日から、俺は精力的に行動を開始した。これだけ一つのことにまいしんするのは、受験以来かもしれない。

 その後、俺は上司との掴み合いの喧嘩の末、なんとか夏休みと有給をゲットすることに成功したのだった。二五歳の若僧が一人いなくなるくらいで回らなくなるブラック部署なぞ、滅びてしまえばいいのだ!

 残るは衣食住である。衣に関しては最低限でいいだろう。どうせ外には出ないのでお洒落をする必要もない。一〇〇円ショップの下着と、白シャツ、短パンを大量に揃えておいた。着た物はその日に捨てるという、同じ服は二度と着ないセレブのような生活である。

 次は食だ。

 俺自身は一人暮らしなので料理をするが、廃人プレイ中はできるだけ簡単に済ませたい。そこで、冷凍食品様の出番である。インスタント食品さんも忘れない。これと無洗米を大量に買い込んでおいた。いやー、最近の冷凍食品には野菜類も豊富で、中々侮れんね。

 それでも不足しがちな栄養を補うために、サプリも色々と取り揃えておいた。廃人プレイに一番大事なのは健康なのだ。体を壊したら、時間があっても無理なプレイもできなくなるしね。

 あとはどうしようか。インスタント系の飲み物も大量に買っておこうかな。コーヒー、紅茶、緑茶でいいだろう。

 ちなみに食器は紙食器を使うつもりだ。これで洗い物の手間も省けるだろう。

 最後は住である。

 俺の部屋は駅近のワンルームだ。エアコン完備なので、夏の暑さは問題ない。風呂は予約しておけば勝手に準備が始まるので、毎日入ることが可能。掃除はしなくても済むピカピカコーティングタイプだ。風呂好きとしては、食事は我慢できても入浴だけは我慢できないのである。

 部屋の掃除は……少なくなるのは仕方がない。一応、お掃除ロボットと空気清浄機を設置することにした。ゴミは、一週間に一度は捨てようか。こればかりはしょうがないよな。

 ベッドは新しいのを買ってしまった。なんとVRゲーム用の最新式ベッドだ。リクライニング機能のほかに、振動と微弱な電流で筋肉を刺激し、筋力の低下を防いでくれる廃人仕様である。マッサージ機能により、床ずれを防いでくれる機能まであった。

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