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出遅れテイマーのその日暮らし

棚架ユウ

プロローグ



「ギャオオオオオオオォォォォォ!」

 竜にも似た巨大な蜥蜴が、怒気のこもったほうこうを上げた。

 その怒りに反応したのだろうか。周囲を流れる煮えたぎった溶岩がより一層勢いを増し、蛍火のような火の粉が吹き上がる。

「怒り状態になったか……!」

「グルルルル!」

 リュウモドキが大きく開いた口をこちらに向ける。鋭い牙の生えた口の奥。こうこう内が淡く輝き出すのが見えた。これは火炎吐息ファイアブレスを吐き出す前兆だ。

「しかも吸い込み時間が長い……!」

 単なるファイアブレスではない。

「ゴオオオオオ!」

 直後、ボスであるリュウモドキの口から一条のせんこうが走った。

 ファイアブレスを収束して熱線のように放つ、このボスの必殺技である。

 あれが直撃すれば、俺など即死だろう。だが、俺に焦りはない。

「ムッムムー!」

 光線が俺に直撃すると思われた直前、飛び込んでくる小さな人影があった。

「ムムー!」

 緑の髪の、小柄な少年だ。

「オルト!」

 俺の従魔、オルトであった。

 オルトはまるで熱線を受け止めようとでもいうかのように──いや、実際に受け止めるつもりなのだろう。両足を開いて踏ん張り、熱線をにらみつけた。

 だが、その手に持つのは盾でもなければ、武器でもない。オルトの手にあるのは、クワである。そう、あの畑を耕す、クワだ。とてもではないが、戦闘中に役に立つとは思えない。だがオルトは自信満々の顔でクワを振りかぶると、自分めがけて襲いかかってきた熱線に向かって振り下ろした。

「ムッムー!」

 クワと熱線がぶつかり合う。

 勝てるわけがない。誰だってそう思うだろう。しかし、俺には一切の不安はなかった。

「頑張れオルト!」

「ムムムー!」

 オルトのクワが熱線を受け止め、弾き散らす。

「さすが!」

「ムッムー!」

「今度はこっちが反撃する番だ! サクラ、あいつの動きを封じろ!」

「──!」

 俺の指示に反応したのは、その名の通り桜色の髪の毛をした、作り物のように美しい美少女であった。少年のオルトに比べるとサクラは高校生くらいに見えるな。

 サクラが両手を突き出すと、リュウモドキの足元が輝き、大きな魔法陣が描き出される。そして、大地を突き破って現れたのは、無数のつただった。急成長して伸び続ける蔦が、まるで獲物に襲いかかる蛇の如く、リュウモドキの胴や手足に絡みついていく。

「ギャオオオオオォォ!」

 リュウモドキは蔦を振りほどこうと滅茶苦茶に暴れ出すが、その拘束から逃れることはできなかった。

「よし! これで奴はデカイだけの的だ! ドリモ! リック! やれ!」

「モグモ!」

「キキュー!」

 可愛い声を上げながら、リュウモドキに駆け寄る二つの影。俺の頼れる仲間ドリモとリックだった。

 一つは身長一二〇センチほどだ。オルトよりは大きいが、それでもリュウモドキと比べれば豆粒みたいなものだろう。その姿は完璧に二足歩行のモグラだ。

 紺色のオーバーオールを着込み、鼻頭に小さい丸サングラス。頭には「日光上等」と書かれた黄色い作業用ヘルメットをかぶっている。そして、その肩には巨大なツルハシが担がれていた。

 あのツルハシなら、どんな岩でも粉砕できそうだ。

 巨大な敵に怯む様子もなく、ドリモはリュウモドキに突っ込んでいった。

 その隣を駆けるのは、ドリモよりもさらに小柄な影だ。いや、小柄というか、メチャクチャちっこい。何せ、子犬サイズ。いや、もっと小さいかもしれない。

 弾むように軽快に駆ける小さい影の正体は、一匹のリスであった。

 非現実感が満載の二足歩行モグラに比べると、こちらは非常にリアルな姿をしている。まさにリス。色合いはともかく、その姿は動物園などで見ることができるリスにソックリだった。

 ドリモを見ればファンタジー。リスのリックを見ればリアル。だが、その二体が同じ場所に存在していることに、全く違和感を覚えない。ここがそういう『世界』だと理解しているからなのか、共に駆ける二体の発する相棒感のせいなのか。

「いけ! ドリモォォ!」

「モグ!」

 ドリモはこちらを振り返らず、片手でサムズアップだけを返す。ドリモさんマジかっけー! 背中で語るおとこである。

 まるで背を風に押されたかのように加速したドリモが、赤い光に包まれたツルハシを思い切りリュウモドキの鼻っ面に叩き込んだ。

「ギャギャオオオー!」

 明らかに痛がっている。実際、その生命力が大きく減ったのが見えた。

「キュキュー!」

 ドリモのすぐ後に突っ込んだのはリックである。

 あまりにも小さく、ドリモのような武器も持たない、か弱いリスさんだ。

 だがリックは果敢にリュウモドキに近寄ると、何か小さいものをその背に投げつけた。

 木の実である。子供が遊びで投げ合うような、どんぐりサイズの小さな木の実だった。

 山なりに飛ぶ小さい木の実が、岩のような堅いうろこを持つリュウモドキにダメージを与えられるとも思えない。木の実はその鱗にコツンと当たって、簡単に跳ね返され──はしなかった。

 キュドオオォォン!

 なんと、木の実が大爆発を起こしたのだ。リュウモドキの咆哮を超えるほどのごうおんと、火柱が上がる。その威力といったら、リュウモドキが踏ん張り切れず、腹を大地に押し付けられるほどだった。

「よくやったぞ! ドリモ! リック!」

「モグモ!」

「キュ~!」

 リュウモドキの生命力がさらに減っている。

とどめだ! ファウ、クママに戦の歌を!」

「ヤー!」

 俺の肩に座っていた少女が、満面の笑みを浮かべながらフワリと飛び上がった。

 リックと同じ程度の大きさに、背中に昆虫のような透明で美しい羽の生えた、いわゆる妖精と呼ばれる種族である。

 柔らかいユルふわの赤髪に、青いハイレグタイプのスーツを着込んだ美少女だ。だが、小さくお人形のようなファウが着ていると、際どいはずの衣装もどこか可愛らしく見えるから不思議である。

 妖精のファウが、自身のサイズにあった小さいリュートを爪弾きながら、口を開いた。

「ララ~ラ~♪」

 まさに妖精の歌声だ。

 リュートの音色とファウの歌声が混ざり合う。神秘的でありながらどこか哀愁を感じさせる不思議な旋律に乗せて、ファウの愛らしい声が響き渡った。

 すると、まるでメロディーが可視化したかのような光の波が生まれ、次第に一点に向かって収束していった。

 光の波が向かう先には、小柄な影が立っている。

「クマ!」

 それはクマのヌイグルミであった。小学生くらいの大きさだろうか。動いて跳ねる、黄色いクマグルミだ。俺の仲間、クママである。

「クママ、いけ!」

「クックマ!」

 可愛くも力強いたけびを上げたクママのヌイグルミハンドから、鋭い爪が飛び出した。左右三本ずつ、計六本の、まるで刀剣の如く鋭い爪。可愛いヌイグルミ姿のクママの手から凶悪な形状の爪が生えている姿は、なぜかパンキッシュな力強さがあった。

 ファウの歌によって力を得たクママは、自分の身長よりも高く飛び上がる。そして、赤く輝く左右の爪を、連続でリュウモドキの顔面に叩き込んだ。

「グギャオオオオオォアアァァァアアァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 リュウモドキが断末魔の叫びを上げた。

 HPを失ったその体が、光の粒となって虚空へと溶け込んでいく。

「勝った……。勝ったぞ!」

「ムムー!」

「──♪」

「モグ」

「キキュー!」

「ヤヤー!」

「クックマー!」

 俺が拳を突き上げると、従魔たちが歓声を上げながら駆け寄ってくる。

 いや、モフモフキューティーな外見に反して、中身がニヒルなドリモだけは冷静だけどね。

 他の皆は一斉に俺に抱き付いてくる。

「よくやったぞみんな! 俺たちの勝利だ!」

 俺がそれぞれの頭をでてやると、ニコニコと喜びの表情を浮かべてくれる。

 獣魔と一緒に、強大なボスに打ち勝ち、喜びを分かち合う。

「これぞ、ゲームの醍醐味だよな!」

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